第6話
優月視点
帝国の八剣とかいう剣士八人を殺した僕に間髪入れずに別の者たちが術を発動する。
「「「「「《聖封:五星陣》!」」」」」
息つく間もなく今度は僕を中心に五角形の魔法陣が展開される。
その効果は僕が身動きを取れなくする束縛と魔を滅する光の力が合わさっていた。
「貴様が吸血鬼だというのは知っている!」
「であれば、この陣の聖なる力によって滅されるがいい!」
だが、残念。僕は確かに吸血鬼だが、それによって特別ダメージを受けるわけではない。僕のはあくまでも人族の発展系であり、魔に属する者ではないのだ。ここら辺の定義は中々細かいが、兎に角、僕には聖なる力は特別弱点となるわけではないのだ。
それに今は耐性系の権能は使用不可となっているが、種族が進化して、最高位にまで至ったために、種族特有の弱点は最早存在していないのだ。
つまり、今の僕にとってこの陣は何ら脅威となるものではない。
僕は展開された陣の中を何のダメージも受けずに動き、陣を発動している術者五人をあっという間に殲滅する。
そしてこの場の死体全ての血を利用して王城へと破城槌のように撃ち込む。
流石に王城の扉を一度や二度で破壊することはできなかったが、高速かつ連続で何度も何度も扉を攻撃すれば、硬かった扉にヒビが入り、その亀裂が広がり、ついに扉が壊れる。
そしてそれとともに僕は血で構成された破城槌を大盾へと変形させる。
扉が壊れるとともに中から沢山の魔法や弓矢が放たれる。
今の僕はスキルを使えないものの、今まで自然と使ってきたスキルの感覚は覚えているため、気配察知など、スキルがなくても容易だし、そもそも扉前に人が集まって奇襲してくる事は簡単に予想がついた。
僕は銃を構えて術式を起こす。さらに展開された術式に規定量以上の魔導力を注ぎ込み、特大の一撃へと昇華する。
「強化術式展開・緋:『爆裂』」
大きな反動を受け流して狙い通り発射された弾丸は指定した対象に命中し、そこから半径十メートルを爆裂させた。
その威力は先程までの普通の『爆裂』とは一線を画した。城の一部ごと吹き飛ばして集結していた三ヶ国の魔法使いや兵士たちを一掃する。
『爆裂』の影響で未だ赤熱する爆破の跡地を僕は悠然と進みながら、視線を城の一室、エレオノーラさんや王達がいたあの広間へと向けていた。
(流石に少し魔導力を消費しすぎたかもな。ここからは〈魔導〉は控えるか。)
僕は〈魔導〉の使用を控えることを決め、一旦陽刹を腰に差しておき、いつでも抜いて使えるようにしておく。
それからまだ操作可能な限りの血を全てかき集めることにする。僕が今まで殺して通ってきた道に散らばる血の中でも僕の『神血』を混入させて操作できるようになっている血がどんどん僕の元へと集まってくる。
誰の血かも分からないが、何十、いや何百、もしかしたら何千人分かもしれないが、兎に角今まで襲いかかってきた者達の流した膨大な量の血が、僕の元に集った。
全ての血液が集まるとともに、今度はそれを一斉に城内へと流し込む。
ただし、血液の一部は他の棟にも送って蹂躙する様に操作しておく。
城の中に入った血はどんどん上へと向かっていき、その様はまるで津波が押し寄せたかのようだった。
血液の波が城内を進むごとに、人が飲み込まれたり、迫り来る血の波に抵抗しようと魔法を放っているのも感じる。
この血液の波はこういった感知の役割も担っているため、城内を隈なく調べ、どこに人がいるのかを教えてくれる。
そして人と出会い、血の波に飲み込まれたり者は一瞬で死に至る。口から血液が入って中の心臓などの器官を直接破壊されるからだ。
また、飲み込まなくても外側から無限に生成される血の剣や槍で斬られ、貫かれるからだ。
そうやって配置されていた兵士も魔法使いも全てを蹂躙していく。
僕は血の通った後の死体だけが残った城内を歩いていく。
血液は既に五階ある城の三階に到達しており、僕が元いた広間がある四階までもう少しだった。
しかし、そこで血液の勢いが止まる。どうやら血液が凍ったらしい。しかも全て。
僕は三階に上がり、血液が凍らされたところに行く。そこには先に倒した人工勇者二人と同じ軍服を着た者達、恐らくは人工勇者だろう四人がいた。
杖持ちが一、剣が三だ。
その四人と相対した僕は、手首を切って自分の血を出して刀に変形させ、刀の鋒を敵に向ける。
そしてその内の一人が口を開こうとした瞬間血の刀をノーモーションで伸長させる。
一瞬で伸びた刀による完全な不意打ちは杖持ちの女人工勇者の眉間から脳を貫通し即死させる。
一瞬で一人が死んだことに人工勇者たちは混乱して動きが鈍る。
(やっぱり…。)
僕は心の中で、自分の考えに確信を持つ。
その考えとは人工勇者は大量の血液を一瞬にして凍らせるなどポテンシャルは高いものの、戦闘経験が浅いのではないかというものだ。
最初に倒した人工勇者二人にしても力こそ強いものの、戦闘での立ち振る舞いや咄嗟の判断力、相手が初見の武器を見せてきた場合の対応など、どれも素人とは言わないが、まだまだ熟練の域にも達していなかった。
何というか、力と経験が釣り合っていないという典型的な例の状態だった。
今回にしても戦闘中は隙に繋がる会話をしようとしてきたり、僕が武器の鋒を向けたにも関わらず剣を下ろしていて、構えてすらいなかったことなど、どれも戦闘経験が浅い、又は不意打ちなどを考慮していないかのような振る舞いだ。
つまり、正面からのぶつかり合いには強いが、搦手には弱い。
それが人工勇者に対して僕が出した結論だ。
動きの鈍い三人をあっさりと仕留める。すると、人工勇者の内の一人が操作していた氷の魔法も解けて血液が使えるようになる。
僕は少し仕込みをしてから再び血液を流して城内を先行させる。
血液はすぐに四階に辿り着き、そこで、魔法使いの団体によって再び止められる。今回も凍らされたり、火で蒸発させられたり、土で堰き止められたり、しているようだ。
しかし、ここで先程の仕込みが生きる。
「貫け。」
その一言ともに階と階の間の壁に忍ばせておいた血液が刃となって壁を貫き、立っている魔法使い達を下から切り裂く。
さっき人工勇者に簡単に血液を凍らされたため、その対策として、相手の知覚外に血液を忍ばせておいたのだ。魔法使いが死ねばその人が操作中の魔法は消える。少々力技ではあるが、結果的に成功したので、良しとする。
大半の魔法使いが死んだことで血液を遮るものが減った。勿論既に顕現済みの土の壁や放つだけで操作していなかった氷は残るが、それもすぐに破壊する。
ちなみに、先程の人工勇者による血液の凍結は人工勇者がその凍結を維持していたため、彼が死ぬとともに解除された。
もし、操作中でなかった場合は消えないのだ。
再び侵攻を始めた血液の波の後を僕は歩いていく。その間にも血液の波はもうすぐ目的の広間のある五階に辿り着く所だった。
五階にある部屋は謁見の間と大きめの広間のみだ。
王の寝室や王族の部屋は別棟にあり、そちらは最初に放った血液が既に制圧済みのため、王や最高ランクの冒険者達は全員がこの五階にいることが判明している。
逃げも隠れもしないとは随分と余裕がある。どうやら完全に僕に勝てる気のようだ。
そして血液の波がついに五階の広間に突入し、中を蹂躙する。しかし、広間には誰もおらず宴会用にセットされた豪華な飾りだけが破壊される。
続いて謁見の間に流れ込んだ瞬間、血液が吹き飛ばされる。いや、燃やし尽くされる。謁見の間の入り口から放たれた超高温の炎により、五階に集まっていた全ての血液が蒸発したのだ。
(
僕は今の魔法を使えるのは彼しかいないと知っている。
『
今の炎は最高位基礎属性の『焔』による魔法だろう。その威力は絶大だ。
僕は五階への階段を登りながら、あの三人をどう殺すか考える。
世界で三人しかいないSSランク冒険者。
『禁術使い』
『幽幻』
『覇王』
最強の魔法使い、最強の暗殺者、そして最強の戦士。
なぜ彼らが敵に回ったのかは分からない。しかし、敵となったからには倒すしかないだろう。
また、後一人の人工勇者もいる。SSランク冒険者達と一緒に待機させているということは恐らくはその人工勇者は他と比べても別格の存在なのだろう。
この四人を同時に相手取るのは今の状態では中々に厳しいと考える。
スキルや龍装があれは話は別だが、今の状態では、僕の使える手札は少なすぎる。
また、エレオノーラさんを助けるためにもできるだけ余力を残しておきたいという思いもある。
僕は手に自分の血を凝固させた刀を作り出して左手に握る。
そして右手で陽刹を引き抜いて引き金に指をかける。
僕は目を閉じ、深呼吸をする。
そして敵を殺してエレオノーラさんを助けることだけに思考を絞って、余計な感情を破棄する。
今は感情も余計な思考もいらない。唯自分のなすべき事をするために必要な手段を組み立てるだけに全力を注ぐだけでいい。
僕は今自分が使える力を整理していき、使えるものを使っていく。
【鏡花水月】、【走馬灯】、【
これが今の僕の手段だ。
逆にこれ以外は一切使えない。だが、これらを組み合わせて使えば問題ない。それに切り札と呼べるものもある。
それを使えば恐らくは勝てるだろう。しかし、問題は勝った後、どうやってエレオノーラさんを救うかだ。
前提として龍装に打ち勝つにはこちらも同等以上の武装が求められる。
しかし、今は僕の持つ中で対抗できそうな武装が全て使えない。
それでも一応の考えはある。上手くいくかは分からないが、それを試すためにもまずは、目の前に立ちはだかる敵を素早く片付けることが重要だ。
僕は目を開け、研ぎ澄まされた思考と感覚を持って上へと上がる。
五階に到着した僕は二つの廊下の内、謁見の間に向かう廊下を歩き始める。
何度か通ったこの廊下の豪華な装飾を改めて観察しながら歩く。
変に急いだりするのは自身の焦りを相手に伝えてしまうために避けて、あくまでも堂々とむしろ相手に圧をかけるようにゆっくりと歩いていく。
そして謁見の間に辿り着き、その扉に手をかける。
「術式展開・純白:『絶界』」
術式を展開させ、それと同時に扉を押し上ける。その途端中から炎の奔流が襲ってきて、『絶界』に阻まれ、少し続いた後に消える。
「流石にこの程度では効きませんか。」
「当たり前だろうが!むしろこの程度が効いてたら拍子抜けもいい所だ。」
中から男二人の声が聞こえる。聞き慣れたその二つの声は間違いなく『禁術使い』と『覇王』のものだ。
そしてどこかに潜んで必殺を狙う『幽幻』もいるだろう。
僕はエレオノーラさんを救うべく、この世界の最強格が揃う場へと足を踏み入れた。
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