第5話



優月視点



市街地には住人はおらず、どうやら全員が避難しているようだ。それを確認した後目の前の大軍を見据える。最初に受けた傷は既に再生によって消えている。だが奪っておいた剣は転移の時にあそこに置いてきているため今は武器がない。


しかし、それでも一歩前へと踏み出す僕に、圧倒的な数の魔法が降り注ぐ。


「【全見ビジョン:死核】」


僕はEXスキルを発動し、魔法の核を見抜く。そしてそれら目掛けて攻撃を放つ。


神血ディオス・エマ・血針」


白龍戦後、種族進化した僕は今、吸血鬼の中でも最高位の種族である『幻想人族:吸血鬼・漆黒の神祖』になっている。

普通の吸血鬼になり、そこから龍や竜、鬼らとの戦闘に勝利していきレベルが上がっていった。


そしてようやく吸血鬼種最強のうちの一つになった僕はスキルなどなくても、種族特性があるため、結構問題なく戦える。

また神祖の前にある色は全部で五色ある中の一つで、特定の分野に特化した力を持つ。


ちなみに五色は緋、蒼、翠、純白、漆黒だ。


血液で形作られた針が魔法向けて放たれ、その核を正確に射抜いて破壊する。


一斉に放った魔法が一瞬にして相殺されたことに動揺する相手に僕は『神血』で形成した刀を持って飛び込む。


「赫刃」


『赫刃』とは圧縮させた『神血』を解き放って刀の長さを一瞬だけ伸ばして敵を薙ぎ払う技で、さらに解き放つ時に威力を上昇させることもできる。


それにより僕を取り囲んでいた者達は全て下半身と上半身が切り離されて死ぬ。


さらに足元に形成された血溜まりに自身の血を垂らす。すると『神血』の効果でその血全てを操ることが可能となる。


「行け。」


僕は自身のイメージを『神血』に伝えると血溜まりからいくつもの血の武器が形成される。そしてそれが前にいる敵達を襲う。


突然のことに対応できていない者達はどんどん斬られ貫かれ、殴打されて死ぬ。


高ランクの冒険者や軍の中でも実力ある者達はすぐに頭を切り替えて対応するが、既に遅い。

沢山の人が死ぬことで多量に飛び散った血は『神血』を含んだ血に汚染され、地面にあるまま形を変えて、まるで地面から槍が生えてきたかのように下から相手を貫く。


あれほどいた軍団はその数を加速度的に減らしていく。その間僕はただ『神血』を垂らすことと、イメージを伝えることしかやっていない。


相手が死ぬごとに僕の操る血は増えていき、敵を殺す武器も増える。


僕の眼前では正に血の海ができ、そして拡大していた。僕は街の中を血の海に沈めながら前へと進み、王城へとどんどん近づいていく。


時折魔法や弓などが飛んでくるがそれも血を操作することでその核を破壊して霧散させる。


既に目の前にいる敵の兵士は心が折れて命乞いをしており、帝国の軍も、聖騎士団も、冒険者も、全員が一様に恐怖していた。

それでも僕は彼らに一切容赦せずに貫き殺し、斬り倒す。

市街地の街並みは既に相手の魔法や僕の攻撃で破壊されてボロボロだ。




そして、ついに王城前の広場に辿り着く。そこには人工勇者と呼ばれていた者達の内の二人がいた。


「まさかここまで無傷で着くとは、」

「流石に少しは予想外。」

「だけどそれくらいの強さがあれば」

「我々の強さの証明となり」

「より強くなるための糧となる」

「かもしれない。」


男女の勇者は奇妙な喋り方をする。


「まぁいい」

「さっさとやってしまおう。」


その言葉とともに二人が同時にかかってくる。

男の方は剣を女の方は槍を持っている。僕は血で刀を作り出してそれで応戦する。


「そんな脆い剣で」

「我々の攻撃は絶対に防げない。」


その言葉通り僕の血の刀は男の剣と衝突した途端に破壊される。


僕は素早く下がりつつ、女の槍を回避するが、その槍が途中で横薙ぎに変わり僕の脇腹を浅く斬る。


「風と火か。」


どうやら中々に厄介なようだ。最初の男の方は火を剣に浸透させて血を融解することでその強度を脆くして破壊した。そして女は横から風を噴出させて槍を刺突から横薙ぎに強引に変化させた。


「流石は龍殺し」

「簡単に見破るとは。」


どうやらこの二人には血の刀では相性が悪いようだ。


(仕方ない。もう少し温存したかったが使うか。)


僕は王城で装備が全て回収される前に念のため準備していた物を取り出す。


それはペンのように小さな白い棒だ。

今は無龍の『嫉妬』の対象となっているためスキルや龍装などは全て使えないが、その対象となっていても既に発動済みの装備品のスキルを解除することはできる。


これは装備品の常時発動系のスキルは解除されているが、既に発動済みの、例えば《魔蓄》のような任意発動系のスキルは解除されず、僕の意思で解除可能となっていた。

ただし、発動はできなかったが。


このことから装備品をほとんど取り上げたのは、無龍の神装の『嫉妬』が装備品には効きづらいため、万が一を考えて、装備品を全て取り上げようとしたのだと考えられる。


「《形状変化》解除。」


その言葉とともに発動していたスキルが解除され、その本来の姿に変化する。


白と赤の美しい銃身に先端には短剣が付いており、銃剣となっているマスケット銃。

魔導銃 覇煉はれん陽刹ひせつだ。


僕は王城で装備を全部取り上げられる前に《形状変化》のスキルで小型化した『覇煉・陽刹』を服の中に忍ばせておいたのだ。


「なんだ」

「それは」

「武器は全て」

「取り上げたはず。」


どうやら僕の銃を見て人工勇者の二人は少し動揺しているらしい。


「だが」

「そんな銃があっても」

「我々の勝利は」

「ゆるぎはしない。」

「我々火と風の」

「人工勇者が」

「貴様を必ず」

「倒す。」


彼らはそう言うと再び剣を構える。


「我等人工勇者と」

「この人工聖剣で」

「「死ね!」」


そうして剣に風と火を纏わせた二人は一気に襲いかかってくる。

それに対して僕は静かに陽刹を構える。


「五月蝿い。」


僕の口から低い声が出て、僕の中で燃えている彼らに対する怒りが表に出る。


僕はその一言だけを発した後は口を閉じて魔導を行使する。


陽刹には七つの魔導の宝石と、白龍戦の後に得た魔導石が組み込まれており、それぞれに一つずつ術式を所持するため、全部で八つの魔導術式が使用できる。


僕は体内の魔導力を活性化させて術式を展開する。


スキル、神装、龍装、魔力、全てが封じられていたとしても、この〈魔導〉だけは封じられない。何せ大昔の魔神でさえもその力を封ずることは出来なかったのだから。


「術式展開・緋:『爆裂』」


銃口に魔導陣が形成され、標準を定め、引き金を引く。


放たれた二つの赤い弾丸は超高速で二人の人工勇者に迫り、着弾する。


瞬間、二人は爆裂してその場で限界すらとどめない程に木っ端微塵になる。

あまりにも呆気ない終わりだった。


緋色の魔導石に込められた術式がこの『爆裂』だ。指定した対象に撃った弾丸を命中させると、そこから半径五メートルを爆裂させる強力な術式だ。


ただし、銃弾が当たらないと意味はないし、一発一発に消費する魔導力も中々に多いのでそんなに連発できるような術式ではない。


あっさりと人工勇者が死ぬと彼らが持っていた剣も崩れ去る。僕は目の前に広がる血の海を気にすることなく進み、王城の中へと入る。


そこには八人の騎士がいた。


「ほぅ、これほど速くここまで来るとは。力を封じられながらも大したものよ。」


「ああ、やはり危険だな。」


「うむ、我らが皇帝の為速やかに排除するぞ!」


「我々は帝国が誇る最強の八人。八剣なり。龍殺し、貴様のその命我らが剣にて絶ってくれる!」


僕は勝手に喋っている彼ら八剣の様子を冷めた瞳で観察し、陽刹を構える。


そして八人が一斉に斬り掛かってくる。

その動きは帝国最強を名乗るだけあり非常に洗練されており、八人全員が相当な強者だという事が窺える。


四人が四方から斬り掛かってきて、さらにそれによりできた隙を窺う二人に、強い一撃を放つ準備をしているのが二人。

僕は一先ず迫ってくる四人を相手取る。陽刹の剣の部分で最初の一人と剣を交えその背後から斬りかかる一人に対して回転して銃を振るい一人目と二人目を吹き飛ばす。


さらに忍ばせていた『神血』の血針を放って追撃する。しかし血針は他の二人にそれぞれ防がれる。


そして隙を窺っていた二人が飛び出してくる。


「アカシ流 奥義 白鬼はくき!」


「奥義『煉獄剣』!」


左から来る剣士はアカシ流というこの世界でも非常に有名な剣術の奥義を、右から来る剣士は付与魔法によりありったけの魔力を乗せた火の剣をそれぞれ放つ。


「EXスキル【鏡花水月】。アカシ流 奥義 白鬼」


まずは【鏡花水月】で相手のアカシ流の技を完全に模倣して左から来る剣士を迎え撃つ。

横から放たれる強撃を同じく横から放った強撃で粉砕する。


技の練度は模倣のために完全に同じだが、技を放つ者の純粋な身体能力は僕が上だ。

そのため剣の振る速度、威力は圧倒的にこちらが上で、加えて装備品としての格の違い。


同じ技でも僕の方が強いのは当たり前だ。


相手の剣を紙のように切り裂きそのままその胴体を半分に断つ。


(まず一人)


そしてそのまま回転。


神血ディオス・エマ血纏ちまとい


『神血』で陽刹をコーティングして圧倒的な強度と切れ味を得る。僕自身の血を用いているため、先程の人工勇者に壊された血の剣とは強度に大きな差がある。


結果、上段から振われた『煉獄剣』は僕の『血纏』により強化された陽刹の短剣であっさりと破壊される。そしてそのまま下段から振われた陽刹の短剣でその男も切り裂かれて死ぬ。


(二人)


「これで死にやがれ!『雷滅光刃』!」


「二人の仇取らせてもらう!『聖練波光』!」


僕が二人を殺すと今度は奥で大技を準備していた二人がそれを放つ。


光の巨大な刃と光の奔流がこちらに向けて迫る。


「術式展開・純白:『絶界』」


全てを絶つ結界が僕の眼前に張られて相手の必殺技を完全に防ぐ。


「術式展開・紫:『紫電』」


さらに今度は別の術式を展開して発動する。

放たれた術式は紫色の雷だ。光速で放たれた二発の『紫電』は一条の光となって大技直後で隙が見える二人を貫く。


(四人)


的確に心臓を撃ち抜かれ、体を雷で焼かれ、そして雷による電撃によって相手の脳などの器官が停止して即死する。


しかし、相手も僕の〈魔導〉の発動直後に仕掛けてくる。


僕はまず左から来る剣士の袈裟斬りを半身になって躱し、背後からの強襲に対して相手の剣の腹に手を当てて軌道を変えることで回避し、そのまま回転すると斬り掛かってくる三人目を逆に襲う。


最小の動作で鋭さのある蹴りを首目掛けて放ち、踵から出した『神血』による刃で首を切り裂いて殺す。

さらにそれにより飛び出た血に形成している血の刃を戻して地面に広がる血に溶かし込んでおく。


(五人)


そして三人目の後ろから奇襲する四人目に銃口を向けて〈魔導〉を発動する。


「術式展開・緋:『爆裂』」


それに対して相手は即座に反応して横に回避行動を取るが、僕は体を反転させて後ろから奇襲する先程の二人を標的にして術式を放つ。


突然の反転に対応できなかった二人に『爆裂』が決まり、これで残り一人となった。


(六人、七人)


最後の一人も仲間全員がやられたことに動揺するが攻撃を仕掛けてくる。しかし、雑になっている攻撃を僕は簡単に躱すとすれ違いざまに『陽刹』を振るって斬り殺す。


(ラスト八人)


僕はこれで八剣とかいう帝国の兵士を殺し切ると先に進もうとする。


「「「「「《聖封:五星陣》!」」」」」


しかし、息つく間もなく今度は僕を中心に五角形の魔法陣が展開されるのだった。



*********


自分が遅筆すぎて嫌になる。

というわけでストック尽きて泣きそうなソラリオンです笑。

来週までに頑張って書きたいですが、最近全く書く意欲が継続しません。

せめて週一更新くらいは続けていきたいと思います。来週更新されるのを祈っていてください。


とまぁ、筆者の泣き言でした。

無視していいよ笑。

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