第3話 女性の社会進出は大事!

 地獄までの道のりは長く険しい。気候が次々に変わるのだ。ある時は吹雪の中、そして今は陽が照りつける砂漠。建物も植物もない。たどり着く先、地獄はより厳しい環境に違いない。


「Cフロア、つまり地獄は少し遠いところにあるんだ」

「僕達なんで歩いてるんですか? 乗り物に乗っちゃだめなんですか?」

「地獄に送られる死者はみな歩くんだ、私達だけ歩かないのは不平等だぞ!?」


 先輩は妙なところで真面目だよなぁ。


「風斗! あれを見ろ!」


 あかね先輩の指の先をたどると、なにか動くものがあった。


「やっと生物に出会えましたね! ちょっと安心しました!」

「そうだな、一応あれも生物だからな」

「一応って、あれは何なんですか?」

「んー、あれはー、……ア、アルパカ! うん、アルパカだ!」


 こんな所にアルパカがいるのか?! この灼熱の砂漠にアルパカを置いても癒し要素が足りないぞ! 焼け石に水だ! いや、砂漠にアルパカか。

 2時間くらい歩いただろうか、ようやく目的地が見えてきた。地獄らしく赤い扉で、醜く歪んだ顔の彫刻が施されている。


「さすが地獄ですね、人々の苦しみが門の外にまで溢れているようです」

「そうだな、中に入るか」


 緊張してきたなぁ、無事に帰れるのだろうか。不安を押しのけ扉に手をかけた。


「おい、風斗、なにしてるんだ?」

「扉を開けるんですよ、女性より先に開けて通してあげるのが紳士ってものです」

「それ手動では開かないぞ?」


 いや、それ先に言ってよー! ちょっとキメ顔してたよー、恥ずかしすぎ。


「風斗は他人の家に行ったときインターホンも押さずにドアを開けるのか? 行儀がなってないぞー」


 扉の右にインターホンとポストがあった。妙なところで真面目なのはこの世界共通らしい。


『ピンポーン』

「はーい」

「えぇと、エノシュアター職員、神崎かんざき風斗ふうとです。見学させていただきたいのですが」

「はい、わかりました、扉を開けるので中へどうぞ!」


 思ったより静かに開いた扉の向こうには、まるで天国のような部屋が広がっていた。噴水から流れ出た水がシャンデリアに照らされ輝いている。人より大きな花瓶から漂う花の香りが部屋を満たす。金色に縁取られた赤い絨毯が敷かれた廊下は別の部屋の扉へと続いていた。


「神瀬茜様、神崎風斗様、こちらへどうぞ」


 メイドの女性がその扉のそばに立っていた。彼女の微笑みは天使のようだ。やはりここが地獄だとは思えない。


「ご主人様、お客様が到着されました」


 地獄の主人ってことは閻魔様か!? 絶対そうだよ! 舌引っこ抜くペンチ持ってるのかな、機嫌悪かったらどうしよう!


「あー! 入ってもらって!」


 え、閻魔様って女性なの!? しかも言葉遣い普通! 『うむ、入りたまえ』とか言うと思ってた!


『ガチャッ』


 部屋の奥には椅子があり、誰かが座っていた。そう、閻魔様が。白い肌、ぱっちりした目、きれいな鼻筋、……あれ?

 僕は思わず口にしてしまった。


「か、かわいい」

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