17話 呼んでないんですけど

その日の夜。

日が沈み、辺りは夜店の朧気な光以外は真っ暗な世界となる。

私は薄暗い商店街を1人歩いていた。

こんな時間に1人子供なんて格好の餌食だろう。

予想通り、背後から強い視線を感じ始めた。

朝とは違って、ねっとりとして気持ち悪い視線だ。

まるで、私が人目につかない場所に行くのを今か今かと待っているようだ。


私は1つ深呼吸をし、予め目をつけておいた人気の無い路地裏に入る。

すると、フードを深く被った人達が私の進路を塞いだ。

数は4人。私の前後左右に均等に散っている。

その展開の動きが妙に手際が良かった。

うん、この人達が人攫いで間違い無さそうだ。

そう考えている間に、私の背後に立っていた人物が私の首元にナイフを当ててきた。


「おっと、声は出すなよ?少しでも悲鳴をあげたらこの首を掻っ切ってやる。」


やってる事は物騒だけど、勝ちを確信しているからだろうか。

隙だらけだ。

子供だと思って舐めているからか、それとも、傷をつけないように言われているかは分からないけど、この人の視線に殺意が感じられない。

でも、だからって、私の方まで相手を見くびったら、この間の様に痛い目に遭う。

だから、絶対に、、油断はしない。


私は男性のナイフを持っている腕を、片手で強く払った。

この状況でそうされるとは思っていなかったのか、男性のナイフを持った手は、簡単に私の首から離れた。

その隙に私は体を回転させ、その勢いで男性の横腹を蹴った。

路地裏に嫌な音が響く。

男性は蹴られた箇所を押さえてうずくまった。

あの様子じゃ、暫くは痛み動けないだろう。


それを見て焦ったのか、残りの仲間が私を取り抑えようと襲ってきた。

私は右から来た人の振り上げた拳を受け止め、そのままその人の腕を取る。

そして、左から来る人に向かって、背負い込むように投げつけた。

投げられた人の背が左から来た人の顔面に当たる。

そのまま下敷きになるように左から来た人は倒れた。

投げられた人は衝撃が弱くなったのか、すぐ起きてこようとしたので、顔に蹴りを入れておいた。


そして、最後の1人を相手しようと向き直った。

その瞬間、何かが頬を掠めた。

今まで無かった殺気と共に、相手が私に向けていたのは黒い金属。

あれは……銃だ。

お母さんが教えてくれた情報によると、魔法とかで小さな金属を高速で打ち出す武器。

実際使われている所は初めて見たけど、あの速さなら、私の目じゃ見切れない可能性がある。

私は、その人が2発目を打つ前に手首を蹴りあげようと走り出した。

しかし、相手が引き金を引く方が早かった。

私は銃口から軌道を予想し、左に避けて回避する。

銃弾は左腕を掠めた。

しかし、走る足は止めない。

だって今度は絶対に私の方が速い。

私は相手に最大限近づくと、相手の顎を目掛けて垂直に飛び上がった。

ゴン、という音と共に私の頭が相手の顎にぶつかる。

相手は白目を向き、後ろ向きに倒れた。


よし、とりあえず片付いた。

4人を相手取って、今現在頭が痛い事以外はほぼ無傷なので頑張った方だろう。

さっき相手した3人は暫く起きないだろうけど、念の為、準備しておいたロープで拘束しておいた。

あと、武器も使い方が分からない銃以外は回収しておく。

その結果ナイフが2本見つかったので、ベルトに差し込んでおいた。

それが終わると、私は横腹を蹴った人物の元に行き、首元にナイフを当てた。


「ひっ……!」

『痛い思いをしたくなかったら、貴方達が攫った人が何処にいるか教えてください。』


メモを見て、男性は青白い顔をして何回も頷いた。

私はナイフで脅しながら男性に人攫いについての情報を吐かせ、さらに町の人が捕まっている場所を案内させる事にした。

その場所は町の外にあるだろうから、暫く歩かないといけないかと思ったけど、


「こ……ここが、そうです。」


5分足らずでその場所に到着した。

案内された場所は、昨日聞き込みを行ったレストランだった。

男性の話を聞いた時にもしかして、とは思ったけど、本当にここだったとは。


『本当にここであってるんですか?』

「は、はい!ここであってます!!それで、道中に話したように、厨房の床に隠し扉があって、そこから……」


再確認したけど間違いなさそうだ。

なら、もう聞き出すべき情報は全て聞けた。

私は男性の鳩尾を殴って気絶させた。

そして、余っていたロープで男性を縛った。

さて、後はここに突入して人攫い達をボコボコに……


「この人が言ってた事、本当なんすか?」


突然、背後から声をかけられた。

私は反射的にナイフを投げる。

投げた時によく見ていなかったから、ナイフはその人物をかすりもしなかった。

しかし、威嚇効果はあったようで相手は情けない声を出して両手を上げた。

その人物は……フィリオさんだった。

え、何でフィリオさんがこんな所に?

エドのお母さんが人攫いに攫われたかもしれないって事も、その人攫いを本格的に探す事にした事も誰にも話してないのに。

まさか……3人組は人攫いの人達とグルだった!?

ここの店主さんとも仲が良さそうだったし!

私は新しいナイフを構えた。


「ち、違うっすよ!オイラは敵じゃないっす!オイラもその怪しい人を探してたんすよ!」


そんなの信じられるかぁっ!!

私は思い切りナイフを振り上げた……が、そのまま制止した。

ちょっと待った。

私はフィリオさんをじーっと観察する。

……フィリオさんから敵意も殺気も感じない。

もし人攫いなら少なくとも敵意は感じると思うけど、この人の視線からは動揺しか感じられない。

なら、本当に人攫いを探してた……可能性が高い。

まぁ、もしそうじゃなくても、この人だけなら私だけで何とかなりそうだ。

私は振り上げたナイフをゆっくりと下ろした。


「あれ……キャルロットちゃん?」

『話だけ聞いてあげます。』

「そ、それは良かったっす〜!」


フィリオさんはほっと一息つくと、ここに来た事情を話し始めた。

フィリオさんが言うには、つい1時間ほど前、ルネさんの友人がいる洋服屋からギルドへ、妙な男達がいると連絡があったそうだ。

そこでギルマスは、その不審者達を人攫いだと仮定し、丁度それ関連の依頼を受けていた3人組に協力を仰いだらしい。

それで、フィリオさんが不審者達を探していると、偶然、黒づくめの格好をした男性を脅している私を発見したらしい。


『事情は分かりましたが、それならカイゼルさんとルネさんはどうしたんですか?』

「あぁ、あの二人は多分来ないっすよ。これは依頼じゃなくてギルマスからの頼み事っすから、報酬は出ないんすよ。2人とも、タダ働きは嫌なタイプなんす。」

「おいおい!酷い言い様だなフィオ!」


フィリオさんがそう言うと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

そこには、来ないと言われていたカイゼルさんとルネさんがいた。


「えっ……2人共来たんすか!?何処かで頭でも打ったんすか!?」

「打ってねーよ!普通に来るっつーの!人攫い如きに、俺ら冒険者がビビっててどうするよ!なぁ?」

「まぁ、今回はいつものギルマスのお使いとかじゃなくて、事情が事情だしぃ……に、しても、まさか、キャルちゃんと会えるなんて〜!幸せっ!!」


私はいつものようにルネさんを避けた。

……この2人からもフィオさんと同じように敵意は感じない。

ただ、ルネさんが厄介だ。

無いとは思うけど、もし戦闘中にあんな事をされたら、動きづらくなってしまう。

正直、こんな展開になるなら、増援はフィリオさんだけで良かった気もしてきた。


「で、チビ。1人でここまで来たっつー事は、何か上手い作戦でも考えてあんのか?」


カイゼルさんに言われて私は首を横に振る。

普通に1人で突撃する予定だったからね。

でも、人数が増えたから、作戦を考えても良いかもしれない。


『でも、情報はちゃんと入手しました。』


とりあえず、私の持っている情報を3人組に教える事にした。

捕まえた男性が言うには、敵の本拠地は厨房の床にある金属でできた扉から繋がっているそうだ。

それを開けると、まず、下に向かうハシゴが続いている。

そのハシゴを降りると長い廊下がある。

その廊下はこの町の外の森に繋がっているそうだ。

そして、その廊下を挟んで左右に部屋が2ある。

左は町の人を捕らえておくための牢屋、右は奴隷商人と交渉するための応接室だ。

戦闘を極力避けるためには左の部屋のみ行けば良いのだが、牢屋の鍵は右の部屋にあるらしいので、結局どっちの部屋にも寄らなければならない。


「なら、1人ここで見張りをして、残り3人で中に潜入するのが妥当っすかね。で、3人で右の部屋によって、鍵を手に入れて、左の部屋の人達を解放すると。」


フィリオさんの言葉に私は頷く。

まぁ、3人いるから左と右、2つに別れて行動しても良いけどね。


『と言うことで、誰か1人、ここに残って外から誰か侵入してこないか見張って貰えますか?』


そう訪ねると、カイゼルさんとルネさんはお互い顔を合わせたあと、フィリオさんの方を向いた。


「え、オイラが留守番っすか!?」

「え、フィオが適任でしょ?言い出しっぺでもあるしぃ?」

「オイラ、戦闘能力皆無っすよ!?」

「戦闘力はねぇけど、お前、結界張れるじゃねーか。」


正直、見張り役は誰でも良い。

でも、もし、ここから誰かが入ってくるような事があれば、3人組諸共敵とみなすけどね!!

なんて考えている間に、2人に説得されたフィリオさんは折れたようだ。


「あーもう、分かったっすよ。その代わり、ついていけない分、ちょっとお節介焼かせてもらうっす。」


そう言うとフィリオさんは目をつぶり、両手を合わせた。

そして、何かをブツブツと唱えると、私達の体が光に包まれた。

これは……多分、補助魔法ってやつだ。

身体能力を上げたり、ダメージを受けにくくしたりするっていう……


「……よし、とりあえず、これで心残りは無いっす。でも、無茶はしないでくださいっすね〜」


私はそれに大きく頷いた。

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捨てられ少女の冒険譚 坂きゅうり @08190814ru

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