第4話

迦恋は案外素直に口を開いてくれた。

正直に話した方が自分の思惑通りに進む好機だと感じたからだろうか。

理由がなんだろうと、話してくれたことには素直に感謝する。

どこまでが本当で、どこまでが嘘かは定かではないが、俺はとりあえず全てを信じることにした。これもまあ、なんとなくだ。

そんなわけで、結果から言うと、まあ半分ぐらいは当たっていた。

迦恋はどうやらこう見えて物凄く嘘っぽいのだが、本当にガチめにマジで本物の殺し屋らしい。

全て信じると決めてしまった俺は、やむを得ず十割信じることにした。

ごっこ遊びをしているわけではなく、しっかり職として働いており、日々殺しに励んでいるそうなのだが――実は殺し屋になってから、一度も殺しが成功していない、らしい。

そんな迦恋は、裏社会の人間というやつらの中で「殺し屋なのに殺せない殺し屋」として悪い方向で有名になっており、次第についた名前が「殺せない屋」。

この「殺せない屋」という勝手につけられた名前でバカにされることがしょっちゅうあるそうだ。

だが全て本当の事なので何も言い返せず、良い成果を出して私は紛れもない典型的な殺し屋だと証明しようと頑張っては見たものの、望む結果にはならず、収入ゼロ生活も遂に限界を超え、住んでた家から家賃払えず追い出され、現在はホームレスをしているらしい。

この時点でもうある程度の訳が見えてきていた。

少ない食費もそろそろ底をつきそうになったそんな時に新しい依頼が来て、その依頼内容が吹藤智久の殺害だったそうで、就寝時間を見計らいさっそく部屋に忍び込み、殺害を実行しようとしたところ、びっくりして声が出てしまったり、空腹が限界に達してしまったり、ターゲットが物凄く強かったり(これは誤解)と、思わぬハプニングが大量発生して「やばい。これは今日中には殺せない流れだ」という発想に至り、俺に居候という提案を持ちかけたそうだ。

俺は殺されることを望んでいて、迦恋は俺を殺すことを目的として来てる。

つまり居候というのは、今の俺らにとってWIN-WINの関係を持つのに最も相応しい形だということに気がついた迦恋は、その形を貫き通すと決め、良い方向へとつながるよう感情的に、一生懸命、主張していたというわけだ。

そんな裏事情があったとはつゆ知らず、そんなエピソードを聞かされたら、迦恋の頼みを承諾せざるを得なくなってしまったではないか。

俺から出した話題だったが、まんまとやられた。

でもまあ、俺もよくよく迦恋の案について考えてみると、お金の問題は迦恋ほど困ってはいないわけだし、祖母にはぶっちゃけ黙ってても問題無さそうだし、そうなるとデメリットは皆無となる。

それに、これは決して自慢ではないのだが、俺は余計な買い物は極力控えるようにしている。だからどうしても、何とは言わないが、結構余ってしまう傾向にある。

そんな俺にとって、たかが一人程度養うのは容易いことだ。

拒否する理由であった監禁なんて、俺が勝手に生み出したただの妄想でしかないしな。

迦恋が一体どんな気持ちで話してくれたのかなんて、俺は迦恋じゃないのだから当然知るよしもない。

だが、私は落ちこぼれな殺し屋だという秘密を引き換えにするのは、それなりの覚悟が必要不可欠だってことぐらいは分かる。

迦恋の瞳はどこか焦っているように感じられた。

迦恋の言動に込められた必死さが十二分に伝わってくる。

この依頼を達成できなかったら、もう次は訪れないような。

俺も、せっかく俺のことを殺してくれる人が見つかったというのに断るのはもったいない気がした。いや、非常にもったいない。

ふと迦恋に視線を向けると、迦恋は真剣な眼差しで音も無く答えを待っていた。

ただ、腕も足も、今にも崩れ落ちちゃうんじゃないかってぐらいプルプル震えていて、内心ドキドキしてる様子が伺える。

外は無音だが、恐らく中は大音量であること間違いなしだ。

それでも、例え自分の望む答えでなくても、受け入れる姿勢はきちんとできていた。

そんな迦恋を早く楽にさせてあげようと――この光景、まるで告白みたいじゃないか! という呑気な思考を振り払って、俺は、俺の中で出た一つの答えを伝えた。

「それじゃ、契約期間は俺を殺すまで……でいいか?」

少々かっこよく、二つの意味で決めた。(一応説明しておくと、一つは提案に乗ることを決めたで、もう一つはかっこいい台詞で決めたということだ)

俺は迦恋の要望に応えることにした。

彼女の返事は――まあ、あえて言うまでもないだろう。

こうして、いつもより遥かに充実した夜の中、いつ終わるのか分からない俺と殺し屋の奇妙な生活がスタートしたのだった。

……ちなみに、この殺し屋という職業に就くためにはある裏のルートを通らないといけないという別に知らなくてもいい情報が脳にインプットされたりもした。

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殺せない屋(仮) 茶茶 @monogatari0408

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