少年の心

@AnnPlay

少年の心

華やかで、女生徒と多くの交友があった少年の残した記録。友人の勧めで、「ポール」という劇薬を過剰服用した日の異常な体験を記している。

(手記)

小説「少年の心」

1部 血に染まった手

私は走っていた。走りながら、逃げ、どこへ行くのかもわからずに、遠くの彼方を目指して走っていた。私は金のマントをはおり、銀色のくつをはき、銅でつくられたうで時計を身に着け、私の家といわれていた所から飛び出した。私はそこを飛び出したとき、ただ一人きりで、周りには誰もいなかった。私はしばらくして、「夕ぐれ」と呼ばれる所に着いた。そこは荒廃した所で、わたしは、「荒れはてた駅」と呼ばれる所から走ってそこに着いた。そこで私は黒の衣服を身にまとった大男三人と出会った。彼らは私をののしり、私のほほを殴った。ほほから血が幾度となく流れ出、私の目から涙が出、私は泣いていた。私の涙が地に落ちてはじけた時、私は手に七色にかがやく花を持った乙女がさけぶのを聞いた。それを聞いたとき、私を殴っていた者たちは消えていた。私は彼女に感謝しようとしたが、彼女は雲のうちに消えてなくなっていた。その時、私は私のうちに何かがうごめき、死ぬのを感じた。これが第一の夜であり、第一の死である。

2部 秘密の園

私は秘密の花園のうちに居て、何者かが私を愛するのを感じた。そこは永遠の暗闇と呼ばれる所でわたしには多くの花を眺め、つまむ権利と力とが与えられていた。私は三日と七日と十三日そこで過ごした。その後、大いなる力がわたしに臨み、わたしを灰色の海と呼ばれる所に連れて行った。

3部 獣の夜

私は灰色の海の中にあって、大小の獣たちが相戯れるのを見た。そこには私と共にいた乙女たちは一人もおらず、私より或いは大きく或いは小さい獣がいるだけだった。最も大きく偉大な獣が「馬の王」と呼ばれ、崇められているのをわたしは見た。彼が雄叫びをあげた時、わたしは全地がゆらぎ、多くの人たちがその雄叫びの故に死ぬのを見た。その時、わたしはその獣の姿が青年の姿に変わり、他の獣たちの姿がある者は年少の者に、あるものは少年に、あるものは青年に、あるものは老人に変わるのを見た。また、海が干上がり、陸となり、そこに大小の文明が起こり、昼夜栄えるのを見た。

4部 赤い月

そののち、わたしの中に二つの月が起こり、相戦うのをわたしは知った。その時、わたしは一人の遊女がわたしの二つの月を貪り食うのを見た。それは彼女の体の中に入り、やがて彼女の口から一つの赤い月となって出てくるのを見た。それはひどくけがされており、ひび割れた皿のようであった。彼女がそれをわたしの口の中に押し込んだ時、わたしの少年の心はけがされ、わたしの美しい珠のような顔と手は忌むべき老人のそれのようになった。また、数多くの花をさき、数多くの都を打倒したわたしの象徴、すなわちわたしの剣が風船がはじけるように割れ、しぼみ、小さくなるのをわたしは見た。涙がとめどなく流れ、それは血に変わった。


以上がわたしが今夜見た夢であり、私より若いあなた方が、これから見るべき、また見なければならない夢である。夢から覚めたとき、私はわたしのうちに新しい光が宿り、火をともすのを感じた。

(手記了)


少年の姿をこの日以後見たものはない。

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