菜の花
雨世界
1 ……あの、もしかして、これって恋ですか?
菜の花
登場人物
野原菜花 中学二年生 元気 真ん中にいる人
川岸和歌 中学二年生 無口 近くにいる人
鈴村銀太 中学二年生 孤独 遠くにいる人
プロローグ
おはよう。……目、覚めた?
本編
……あの、もしかして、これって恋ですか?
「野原さん。あなたのことが好きです。僕と付き合ってください」
野原菜花はそんなもう何十回と聞いた台詞をまた目の前で聞かされて、……はぁーと心の中で大きなため息をついた。
……もう、いやんなるな。私は今は誰とも付き合う気はないのに……。
そう思いながらも、菜花は笑顔で、「ごめんなさい。私、今、好きな人がいるんです。だから、あなたとはお付き合いできません」と丁寧な言葉で言って、その真面目そうな顔をした男子生徒の恋の告白を断った。
「……そうですか。……わかりました」
真面目そうな男子生徒はそう言って、とても悲しそうな顔をした。
菜花は、そんな同年代の男子生徒の(……たまに、同年代の女子生徒もいたけど)悲しそうな顔をもう何十回と見てきたのだった。
そんな顔をさせてしまって、本当に申し訳ないと菜花は思った。(でも、だからと言って、お付き合いをするわけにはいかないので、これは仕方のないことなのだ。……たぶん)
中学校の校舎裏で、その真面目そうな男子生徒と別れたあと、菜花は校舎裏から校庭まで戻ると、そのまま一人で正門のある場所まで続いている石造りの道の上を歩き始めた。
ふと見ると、校庭では野球部が部活動を行っていた。
「よし。いくぞー!! ちゃんとボール取れよ!!」
「はい!! よろしくお願いします!! 先輩!!」
なんていう、青春の真っ只中にいる野球部員たちの楽しそうな大きな声がここまで聞こえてくる。
そんなとても汗だくで、まっすぐな、(みんなきらきらした目をしていた。きらきらした目で、まるで宝物でも追いかけるみたいに、野球の白いボールを、全力で追いかけていた)野球部員たちの練習風景を見て、菜の花は、少しの間、その場に立ち止まって、くすっと笑った。
……いいな。私も、なにか本気になれるようなものを見つけたい。
……本気で、自分の人生をかけれるような、そんななにかを見つけてみたい。
そんなことを菜花は思った。
「おい、笑うなよ。あいつら、本気で野球。練習しているんだぜ」
突然、そんな声が、菜花の後ろから聞こえた。
菜花が後ろを振り向くと、そこには一人の男子生徒が立っていた。その菜花と同じ県立双葉中学校の制服をきた、男子生徒の顔に菜花は見覚えがあった。
……鈴村銀太(すずむらぎんた)。
菜花の幼馴染であり、隣の家に住んでいる男の子。そして、……菜花の、内緒の想い人である男子生徒がそこにはいた。
「銀ちゃん」と菜花は言った。
(思いがけず、銀太の姿を見て、菜花はその顔を、いつものように、ほんの少しだけ赤く染めた)
遠くで、かきーん、と言う野球部員がボールを打った音が響いた。
菜の花 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。菜の花の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます