第2話

 そこから、ローガンの人生は180度変わった。例の大学教授と出会い、自分の可能性に気づいたことで、彼はウィータ大学へ進学することとなった。


 そんな小さな背丈の少年も、これらの経験や社会での生活を経て大きな背丈を持った青年へと成長した。

 そして、あの頃一緒に賞を獲ったロイドも、同じく進化していた。


 ある日の昼下がり、大学教授であるローガン・サリバンは自身の研究室にいた。27歳という若い見た目とは裏腹に、彼は大学教授としての仕事や自身の研究に忙殺されそうな毎日を過ごしている。

 そして、彼の傍らには一人の女性がメイド服を身に纏い、佇んでいた。


「マスター、そろそろ水分補給が必要かと。あと、働きすぎは良くないですよ」


 彼女は長いスカート丈を揺らし、紅茶をローガンの前へと運んだ。揺らめく紅茶の水面に、整った顔立ちの彼女が映る。ミルク色のショートボブに黒曜石のような瞳を持つ彼女は、無表情のままローガンに忠告した。


「すまないね、アルケー。最近は色々なことが立て込んでてね」


 ローガンは丸眼鏡を一旦外し、自身の少しくせっ毛なポニーテールを解いた。

 疲れ切った表情のまま、彼は紅茶へ口をつけ、ごくりと一口飲み込んだ。乾いていた喉が潤されていく感覚は、彼が今日も生きているということを実感させるようなものだった。そして、飲み終わった後、彼は満足そうにアルケーへ微笑んだ。


「ありがとう、と言った方が良かったかな。いつも感謝しているよ、アルケー」

「...こちらこそ、マスター」


 その時見せた睫毛の瞬きと口角の動きに、ローガンは少し驚きを見せた。

 というのも、アルケーは事前にプログラミングされた「人格」を持たない代わりに、本当の感情を学習する機能を入れられているのだ。そのため、この時のような感情を芽生えを感じさせる行動はローガンの興味をひいた。


 彼女がいつか心から微笑む時まで、研究を続けようとローガンは心に誓っていたのだった。

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心を知らぬ君へ 筑前煮 @chikuzen_ni

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