BL声劇『カムパネルラ』
木ノ下みなみ
BL声劇『カムパネルラ』
【竹内 文哉】
田舎の中学3年生。勉強はあまり出来ないが、地頭は良い野生児。
東京から転校してきた梓に憧れを抱き、のちにそれは友情から恋心に変わっていく。
【霧島 梓】
東京から来た転校生。容姿端麗。勉強がよくでき、特に天体に詳しい。
両親の仕事の都合で引っ越してきたらしいが…実は彼自身重い病を抱えている。
梓)東京から来ました、霧島 梓です。
文)[白い肌、細い体、栗色の髪の毛。
柔らかそうで、華奢で、儚げで…
今思えば俺は…あの日からあいつのことがずっと…]
文)よろしくね、ええと…あ、俺は竹内文哉
梓)文哉君か…良い名前だね
文)あ、ありがとう…あの、霧島くんはさ…
梓)「くん」なんてつけなくてもいいよ、僕のことも他のみんなと同じように呼んでよ
文)あぁ、OK。あ…梓はさ、なんでわざわざこんな何もない田舎に来たんだ?
梓)う~ん…両親の仕事の都合かな…?
文)そっか…大変だな
梓)そうだ!僕、星を見るのが好きなんだ!どこか星が良く見えるところ…教えてくれないかな?
文)それならいいところがあるぜ!
ガキの頃、秘密基地にしていた場所なんだけど、天気が良ければ天の川だってバッチリ見えるんだ!
梓)すごいや!今度連れて行ってくれるかい?
文)あぁ、もちろん!!
文)[梓とはすぐに仲良くなった。
こんなにのんびりした田舎の学生でも、俺たちは受験生である。それなりに忙しくて、遊んでばかりいられるわけではなかった。
それでも、放課後はいつも一緒だった。あいつは俺に勉強を教えてくれた。
出来の悪い俺にとって、それは梓を独占するいい口実だった。
そんな日々の幸せを噛みしめることもなく、夏が過ぎていった]
文)[秋になって、梓は学校に来なくなった。体調を崩したらしい。1週間経ち、2週間経っても梓は学校に来なかった。
少しすればまた学校に来るだろう…ひと夏を共に過ごしても、色づくことのなかった梓の白い肌を思いながら…俺はそう信じ込むことにした]
文)[カレンダーをめくる頃になって、さすがに俺は梓の家を訪ねようとした。けれど、今まで連絡を取らなかった分だけ、うしろめたさを感じてしまう。久しぶりに会う梓に、なんて声をかけたら良いかわからず、門の前でたたずむことしかできなかった]
文)[そんなある日、梓から電話がかかってきた]
梓)もしもし、文哉君?久しぶり…
文)あ、梓…具合どうだ?
梓)うん…実は…僕ね…
文)[梓は、重い病気を患っていること、そのため空気がきれいなこの地に引っ越してきたこと、2学期の初めからずっと入院していたことを話してくれた]
梓)あのさ…また電話しても良いかな?
文)ああ、お前が学校に戻ってくるまで、毎日でも電話してやるぜ!
梓)(微笑) ありがとう…
文)[俺たちは毎日電話をするようになった。日に日に弱々しくなる梓の声。俺は…不安をかき消すように精一杯明るく振舞った]
文)[それからしばらくして…いつものように梓から電話がきた。良く晴れた冬の日のことだった]
梓)文哉君…僕…星がみたいな…約束覚えてるかな?
文)ああ、でもお前大丈夫なのか?いつもより声が…
梓)大丈夫だよ!今日はなんだか調子がいいんだ、だから…
文)わかったじゃ俺今から迎えに行っ…
梓)いいんだ、僕一人でも大丈夫だから…
文)[俺たちは星を観に行くことにした。待ち合わせ場所にあらわれた梓は、前よりもずっと痩せていて、別人の様だった]
梓)文哉君…僕のこと…嫌いになったかい?
文)え?何で急にそんなこと…
梓)僕…ひどい姿だろ…
文)そんなことない…お前は…
[本当は…変わり果てた梓の姿を見るのが怖かった。それは、外見が変わってしまったからではない。そこはかとなく感じてしまった最悪な予感から、俺は逃げ出したかったのだ。返答に詰まり、目をそらした意気地の無い俺を責めるでもなく…]
梓)ごめんね…じゃあ、行こうか…
文)[そう言うと梓は俺の手を引いて歩き出した]
~星空~
梓)わぁ~…こんなの初めてだ…すごくきれい…
文)あの赤い星がベテルギウス、一番明るいのがシリウスだよな!
文)[梓に会うまでは知らなかった星の名を挙げた]
梓)双子座がこんなにくっきり見えるなんて…
文)[夢中になる梓の顔を見た。気のせいではない。さっきまで青白かった頬に赤みがさし、瞳は輝いていた。本当に、綺麗だと思った…]
文)[そして、梓はそれと同じ表情で、視線を俺へと移した]
梓)僕はこれが観たかったんだ…君と…
文)[俺の両手をぎゅっと握ると…梓は俺にキスをした]
~キス~
梓)初めてだったかな?
文)う…うん(照)
梓)女の子じゃなくてごめんね…
文)いや…なんていうかその…いいんだ…俺は梓のこと…
梓)苦しい…(涙をこらえながら)
文)え?梓!?大丈夫か!?
梓)違うんだ…僕は君と会えなくなると思うと…胸が苦しくなるんだ…
文)[梓は涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すようにうつむいた]
文)会えなくなるなんて…そんなこと言うなよ…
文)[梓はうつむいたまま、何も答えなかった…]
梓)僕…そろそろ行くね…
文)じゃあ送ってくよ
梓)いいんだ、黙って病院抜けて来ちゃってるし、ちょっと…寄りたいところがあるんだ…
文)そっか…じゃあ…また明日な!
梓)本当に…ありがとう…
文)[そう言って俺たちは別れた]
文)[その夜、梓は死んだ。
遮断機の閉じた線路で、うずくまっているところを電車にはねられたそうだ。
俺は、あの夜のことを誰にも告げられないでいた。
激しい悲しみと後悔と惜別と…まだ幼い俺には知りえない感情までもがぐしゃぐしゃに入り交じり、涙は止まることがなかった]
文)[季節はめぐり…俺は東京の高校へ進学した。天文部に入部し、故郷よりもずっと単純化された空を毎晩眺めている。
あの星々のどこかに、梓がいるような気がして。いったいどこで寄り道しているのだろう…とっとと見つけて、連れて帰ろう。まだまだ梓に教わりたいことはたくさんあるんだ…俺が伝えなくちゃいけないことだって…]
BL声劇『カムパネルラ』 木ノ下みなみ @minami-one-san
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