可愛い女の子は「XXX」にならない
「あんた・・・、ミキかノゾミに何かした?」
そんなリョウコのひとことから始まった。
「ちょっとまて。無実だ。なにもやってない。」
「まだ何の話かも言ってないのに。思い当たるフシがあるの?」
昔から探偵は、最終的に自身にあらぬ嫌疑をかけられるのがセオリーということか。もしクラッカー爆弾事件のことだとしたら原因は私のクラッカーだったのだから責められたとしても仕方ない。しかし、この名誉のためにこの疑いは晴らしておくべきだろう。
「巧妙な罠だな。一体なにを疑っているんだ?」
定期的に行われるようになった、リョウコとノゾミとミキとの勉強会の会場は、今日も私の家だった。すっかりリョウコは、この部屋に慣れてしまって、毛の長いふわっとしたカーペットにうつぶせに寝転がってスマホをいじっている。
寝転ぶ女性は、やはり足から腰にかけてのラインが美しい。裾の短いTシャツの裾から白く滑らかな脇腹がわずかに覗く。
リョウコの鍛えられたヒップラインは、立っていても寝ていても崩れたりせず、常にその形状を留めたままでいるのだ。これは努力から成るもの。なんて尊いんだ。
おっと、お尻を見ている場合ではない。疑いの視線で定期的に私の顔を伺っているので、非常に怖い。
「ノゾミがあんたの名前を聞いて『そういえば』って思い出したかのように、ミキのパンツを取り出して、手渡してたわ。」
なるほど。ノゾミは本当に天然小悪魔だな。SNSのタグ付けみたいに気軽にミキのパンツと私の名前を関連付けるのをやめてもらいたい。まるでが脱がしてノゾミがそれを見つけて没収したみたいじゃないか。
まさか、自分が疑われる側になってしまうとは思わなかった。ノゾミもわざわざミキの失態を言ったりしないだろうし、こうなるのも仕方ないかもしれない。
「心配いらないぞ。事件性は無い。」
「いや、あんたがミキのパンツに関わってる時点で、私の中では既に事件よ。」
「大丈夫だ。ミキはちゃんとパンツを履いていた。」
「…なんでわかるの?パンツ見たの??」
見た。と言いそうになって、寸前で踏みとどまった。いやいや、見ていないぞ。ミキのあれは見せても差し支えないパンツ風の履き物、いわゆる見せパンであってパンツではない。
「見てない。見てないぞ。」
「間があったね。しかもなんで2回言うのよ。」
「大事なことなので。」
「じゃあもう一度聞くけど。なんで見てないのに、履いてたってわかるの?」
もうこんなに尋問されるならカツ丼でも食べさせてもらわないと割に合わない。調べられる側がこんなにツラいとは。
「なんでもだ。俺にはわかるんだ。」
「なんなの、その特殊能力。」
「そうか、もしかしたらこれは特殊能力なのかもしれないな。」
「ん、なんかその言い方めずらしいね。」
そう、探偵としてのプロファイリング能力と、ヒップへの観察眼とを掛け合わせることで、驚くべきことにパンツを見抜く力が備わってしまったのだ。前回からな。
「そんなに言うなら、私のを当ててみなさいよ。」
「予想じゃなくて事実なんだから、当てるもなにもないぞ。」
「お、言い訳かな?スカートじゃないし、見えないでしょ?流石に難しいですかねぇ。」
「薄いピンクでサイドにレースがついたものだ。」
「は?意味わかんない。」
「薄いピンクの色の生地で、横の紐の部分にレースがあしらってあるデザインだ。」
「内容が理解できなかったわけじゃないのよ。」
「そういうわけで、履いてるかどうかくらいなら造作もないのだよ。」
「怖っ!なんでわかるのよ…。」
真相はこうだ。さきほどから寝転がっているときに見えたTシャツの裾から脇腹が見えた。その時に、ズボンからはみ出た下着の一部が出ていたのだ。本当のところはそれだけじゃなく、スポーツ少女のリョウコは実は可愛いものが好きで、私服や小物に白や薄い色、特にピンクなどを好んで選ぶところがあるのもある。
それにこれだけ一緒にいる時間が多いと、何度か下着を目にする機会もあるので、どんな下着が好みなのかは、大体察しがつくのだ。
リョウコは白やピンク、ミキは青や黒を、ノゾミは薄い青や緑のものを好んで選んでいるようだ。ミキは柄ものの時もあるし、ノゾミはあんなにほんわか天然っぽい雰囲気でいながらTバックを履いているときもある。白いもの履く時に透けないし良いとのことだが、どこまで本気で受け止めたらいいのか分からない。
「怖っ!て言われても、別にあえてノーパンの時とかないだろう?」
「そうね、パンツ履いてないのがバレたら怖いよね。」
「理由があって履いてない時は、事情を説明してくれたら良いさ。」
「まって!ノーパンで外を出歩くことなんてないわよ!!」
「なるほど。外は出歩かないけど、家ならありえるのか…。」
「ばかっ!!!」
いつもならペチッと手が飛んでくるところだけれど、寝転がっているリョウコはもそっと状態を起こして、私の膝にデコピンをペチンと打った。不機嫌そうな雰囲気を出してはいるが、さほど嫌がってもいない。リョウコも自宅では意外と無防備な恰好をしているのかもしれないな。
「ねぇ。なんで下着なんてチェックしてるの?」
「美しいし、かわいいし、好きだから。」
もちろんヒップのことである。こう言うと誰でも良いと思われがちだが、実は違うのだ。リョウコも、ノゾミも、ミキも、三者三様のヒップを持っている。
リョウコはむちむちした鍛えられた美しさであるし、ノゾミはふわふわした柔らかさと包容力をもっているし、ミキはぷりぷりとスレンダーな曲線美だ。
「す、好きって!」
「胸には興味ないんだ。ヒップが大好きなんだ。」
「なっ!!そっち!?」
ピンポーン!
どうやら、ノゾミとミキも到着したみたいだ。さていよいよ3人での勉強会がはじまる。今日はどんな事件が起こるのやら。ひとりで顔を赤くしてうつむいているリョウコを放置して、ノゾミとミキを出迎えた。
「お邪魔しまーす。」
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「………。」
なぜか顔を赤くして無言のリョウコ。なんか微妙な空気になっている気がする。大丈夫かこれ。
「あれ?どうしたのリョウコー?お邪魔だった??」
「ち、ちがうから!!何もしてないから!」
すごい勢いで否定してくるリョウコに、目を丸くするミキ。そして、なぜかニンマリと笑顔のノゾミがゆっくりと私に目線を送ってきた。いや、そんな意味深な視線を送られても何もないぞ?
「失礼しましたー?」
「お邪魔しましたー?」
ノゾミとミキが帰るそぶりを見せる。
「本当に何もないから!」
「ふーん?そうなんだ、また詳しく聞かせてね。」
「またすぐノゾミはそうやって!」
「え、私もききたい。」
3人で、女の子同士の会話が始まってしまった。こうなると、ひとり混ざった男は手持ち無沙汰になってしまう。もうついていけない。いまのうちにお茶でも用意してこよう。
一番付き合いが長いリョウコとは、こうやって時々2人きりになるタイミングがあるのだが、親しみを感じてもらえるのは良いことだ。異性の友人はこの3人くらいなので、大切にしたいと思っている。
実はこの3人は同じ女子高出身で男性慣れしてないところもあって、無防備な部分が時折見えて、それで放っておけないというのもある。
むちむちのリョウコは、純粋無垢で真っ直ぐなツンデレ。いまだにデレてはいない。
ふわふわのノゾミは、ふんわりした雰囲気に見せかけた小悪魔。たまにあえて怪しい雰囲気をつくってくるあざとさがあるので注意したい。
ぷりぷりのミキは、モデル体型でクールな性格に見せかけて、実は超天然。おかしなことに巻き込まれがちなトラブルメーカー。
こうして今日も4人組での勉強会がスタートするのだった。
探偵は女子のヒップに顔をうずめる 那古野 賢之助 @kennsuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます