可愛い女の子は「XXX」を履いていない
ふわりと薄手の布が床へと落ちる。ありえない光景に目を疑ってしまった。
2人の女の子の間に落とされた布切れは、レースのついた可愛らしいデザインで、本来はスカートの中にあるべきものだった。だから、状況を理解できなかった。
でも、これだけは分かる。これは爆弾だ。
もしかすると、爆発するかもしれない。
大学の講義というのは不思議なもので、カリキュラムと単位の関係で、講義と講義の間に空き時間ができてしまうことがある。しかも1コマ90分とあって、何かするには短く、暇を潰すには長いこの時間を、「フワフワのノゾミ」と「プリプリのミキ」と雑談をして過ごすのが、私の中のお決まりになっていた。
90分後に講義がはじまるこの教室には、他の生徒は誰もいない。
私の活躍により解決された、あの「ガス漏洩事件」以来、私たちは以前よりも一層仲が良くなっていた。特にノゾミはミキのことを気に入っているようで、イチャイチャとしているところをよく見かける。
今日も私の目の前で丸椅子を並べてイチャイチャとじゃれ合っているノゾミとミキの間に、その可愛いレースのついた
「何か落ちたぞ…」
私は、不用意にも手で掴み、その可愛いレースのついた爆弾を持ち上げてしまった。
「なんだこれは!!!」
「ん?」
「…え?」
さらりとした見た目に反して、それは湿っていた。
「それ触っちゃダメだよー。」
いつものフワフワした印象の天然ボケキャラとは裏腹に、ノゾミは素早い動きで私の手から奪い去って回収した。まるで熟練の爆弾処理班だ。
「なぜそれがここにあるんだ…。」
「うーん。なんでだろうね。」
「湿っていたな…。」
私は感触がまだ残る指をこすり合わせ微かに残る水分を確かめ、そしてそれを自分の鼻先にもっていきクンクンと香りを確かめた。
「えっ!ちょっと!!」
静かにしていたと思いきや、真っ赤になって止めに入るのはミキだった。
「良い匂いでしょ??」
ノゾミが意味深な発言を投げかけてきた。確かに微かに石鹸のいい香りを感じたのだ。湿り気と石鹸の香り。つまりそういうことか。
あれは昼休みのことだった。
***
サッカー部にムチムチの良いヒップの持ち主であるリョウコという共通の友人がいる。その友人が大会で準優勝をしたということで、ミキがケーキを焼いて持ってきていた。
準優勝は、嬉しいものだと思われがちだが、トーナメント戦方式だと、その性質上どうしても最後に負けて終わることになる。それは、決して気持ちの良いものではない。
その例に漏れず、リョウコもあと少しで優勝だったという悔しさを滲ませていた。そんなリョウコを励ますために、ミキとノゾミがサプライズで用意したのだ。
「「「準優勝、おめでとーーー!!」」」
「ありがとう。」
ミキとノゾミにも秘密で、私もお祝いの席に華を添えるために、クラッカーを用意していた。パーカーのポケットに隠し持っていたクラッカーをサッと出して、一気に3本まとめて紐を引いて爆ぜさせた。
パンッ!パンツ!パンツ!!!
「キャッ!!」
「わっ!!!」
「わぁ。ありがとう。」
リョウコを祝う為のサプライズが、むしろミキとノゾミを驚かせてしまったようで、2人が同時に悲鳴をあげた。
「大活躍だったらしいな。さすが
「そんなの初めて言われたわよ。勝手に作らないでよ恥ずかしい。」
「いいじゃないか、ドリブルがうまいんだぞ。」
「それ、本当に褒めて言ってる!?」
そんな他愛ないやり取りをしていたリョウコが、急に黙り込んだ2人を見て、何かを察したように言った。
「ねえ、私コーラが飲みたい。購買で買ってきてよ。今すぐ。」
「え?今ペットボトルのお茶を開封したばかりなのに?」
「いいから!主役の私の命令なんだから絶対なの!!」
まわりの状況を見て、有無をいわさず支持を飛ばすリョウコは、きっと次期キャプテンに違いない。すぐに元気になってまた練習に打ち込むことだろう。
そう確信して、私はコーラを買いに行った。
***
もっと早く気付くべきだったかもしれない。
「あのときか。漏れていたんだな。」
「ええぇ。なんのことかな。」
ノゾミは、認める気はないようだが、それでは肯定しているようなものだ。
「もう、何言ってるの。」
ミキは顔をそむけて、表情を読み取らせまいとする作戦のようだ。
「…驚かせて悪かったよ。」
「うーん。でも、悪気があったわけじゃないんでしょう?」
「それは、もちろんそうだけど。」
「ならしょうがないよ。特別に許してあげよう!」
私はどうやら許されたらしい。わざとお漏らしさせようとしてるなんて濡れ衣を着せられるのは、勘弁してほしいので助かった。
もう濡れ衣は
「ノゾミが許してくれるってことは、漏らしてしまったのはノゾミのなのか?」
「え?どうかなぁ??」
「なるほど。そうか。」
私は爆弾処理班ではない。探偵だ。
そう、やることは1つなのだ。落ちるところを見逃したこの爆弾の持ち主について、私は思考を巡らせた。
匂いを嗅いだ時に真っ赤になって止めたミキは怪しいが、決定的な証拠とはならない。あくまで推測だ。
決定的な証拠。そう、決定的な証拠は、今この場にある。犯人は2人のどちらかで、そのどちらかはスカートの中に履いているはずの爆弾が無いのだ。
「スカートの中を見れば分かるな。どちらかは今、
「ふーん。見てみる?」
「え?いいの!?」
ノゾミは、最近まで天然ボケだと思っていたが、本当は全部計算してやっている小悪魔なのではないかと思いはじめている。私のことを完全に弄んでいる。
いつもなら、ここらでリョウコが頭を叩いて止めに入るタイミングだが、今はいない。
「ダメに決まってるでしょ!!!」
流石にミキが拒否した。当然のことだ。だが、私は探偵だ。そう簡単には諦めない。
「ふたりとも、丸椅子に膝立ちになって、机に手をついて、こちらにお尻を突き出してくれないか。」
「うーん、そのくらいならいいよね?」
「…いいけど。」
もし、ミキが履いていないとしたら、相当きわどいお願いだったと思うが、思ったよりも簡単に承諾を得ることができてしまった。
ミキが犯人ではないのかもしれない。小悪魔のノゾミが犯人なのだろうか。そういえば、爆弾を回収して今持っているのは、ノゾミだ。
「もう。恥ずかしいんだけど。」
「ええぇ?そうかなぁ??」
もしこの反応でノゾミが履いてないとしたら、痴女だ。
目の前に2人のお尻を並べるという、まるでハーレムのような空間を生み出すことに成功してしまった。自分の才能が恐ろしい。
「なんでこんなことさせるの?」
「それはだな、下着のラインを見るんだ。」
「ふーん?見えるかなぁ?」
「見えないよね?」
甘いぞ。探偵の観察眼は、少しの起伏も見逃さないのだ。
特にミキは体のラインが出やすい白のニットワンピースだ。スレンダーながらも美しいくびれとヒップを持つミキの武器を際立たせる服装だが、この手の服は、やわらかく、そして非常に透けやすい。
ガス漏洩事件の時に、顔をうずめることができなかったミキのヒップを間近で見ることがついに叶った。私はミキの太ももからヒップの境目であろう部分に視線を走らせる。
しかし、贅肉を感じさせない美しいヒップラインは、下着の影響をまったく受けていない。
「これは…。」
「え?履いてるからね!?」
ミキは履いていると主張する。そうなのだ。もうひとつの可能性としてTバックを履いていることを否定できない。特にミキのようにお洒落なモデル体型の女性が履いていたとしても不思議ではない。
Tバックの場合はヒップの頬となる部分に変化がでない、だからタイトスカートを履く人が好んで着用するのだ。
だが、Tバックにも弱点はある。私は、ミキのヒップの中央にある割れ目を下から上へとたどっていく。ただ細いだけじゃない、ハリのあるこのヒップは恐らく形を維持するためにトレーニングされているのだろう。重力からの影響を受付ないかのような、その形状は芸術を感じさせる。反重力ヒップだ。
下から上へとたどっていった割れ目の最上部、ここがTバックの線の交わる部分で、その布地の膨らみを隠しきれないことを私は知っている。
しかし、期待は見事に裏切られた。
「そんな馬鹿な!!!見つからないだと!!」
「履いてるって言ってるのに!」
つい興奮してしまった。探偵はどんな場面でも取り乱さない。慌てるな。
ノゾミの方に下着の存在を見つけることができれば、ミキが犯人だと確信が持てる。それからでも遅くはない。
「次はノゾミだ。」
「わーい!」
ノゾミは、その柔らかくてフワフワのヒップをふりふりと横に振った。わーい!はおかしいだろう。リョウコがいないとツッコミ不在で困ってしまう。ノゾミの行動に少し戸惑っていると、ノゾミはクイッと腰をしならせネコのようにヒップを持ち上げた。
「はーい。どうぞ。」
「え!ちょっと見えてるって!!」
ノゾミはミニ丈のスカートだった。ふわっと広がるフレアなシルエットの裾から、白い下着が少し見えていた。淡いモカ色のフレアスカートと白の下着の組み合わせは、いかにもノゾミらしさを感じる組み合わせである。
「あれ?あっ、そうか!今は見せパン履いてないんだった。」
「もう。ノゾミちゃん自由すぎるよ。」
ミキもさすがに呆れている。そして、ノゾミも流石に恥ずかしいようで、顔を赤くしながら、丸椅子に座り直した。残念ながらヒップタイムは終了のようだな。
だが、私は確信していた。
「履いてないのはミキ。君だ。」
「え?履いてるって言ってるじゃない。」
「今、ミキの
ノゾミは履いているのを見てしまった。当然、あの
「だから、ミキは履いているはずがないんだ。」
「ふーん、本当にそれでいいの?」
ノゾミが言いながら、すすすっと、すぐ隣に座るミキの太ももに指先を這わせる。ミキはもじもじと膝をすり合わせるようにして悩まし気に魅惑的な太ももを震わせた。
「あっ、ちょっとくすぐったいよ。」
「間違いない。履いてないのはミキだ。」
「もう、やめてよ。恥ずかしいなぁ。」
そう言って、話はここまでと言わんばかりにミキは立ち上がった。
しかし、その横で立ち上がる時を見計らっていたかのように、勢いよくスカートをめくるノゾミがいた。私のことを出し抜いたと言わんばかりの良い笑顔をしていらっしゃる。
「残念っ!私の見せパンでしたー。」
「ああぁ…。その手があったか。」
どうりでミキが自身満々に履いていると主張するわけだ。あったのだ。もうひとつの
見せパンつまりは、インナーパンツ。スカートの中が見えても良いようにパンツの上に履くものだ。ピチッとしたタイプで、スパッツと言った方が伝わる人もいるかもしれない。これはこれで身体のラインが良く出るので、私は好きだ。
今日ノゾミがミニスカートだったことを考えると、もともとノゾミが履いていたものを貸してあげたのだろう。
だが、本来はパンツの上に履くものなのだから、直接履いた見せパンは、もはや見せパンと言えないのではないだろうか。いや、そもそも見せパンも見えても問題ないパンツであって、見せるためのパンツではないはずだ。
「見せちゃダメだろ。」
「え?だって私のだし。しかも見せパンだよ??」
あまりのことに理解が追いついていない様子で、ミキはゆっくりと自分の下半身へと目を向けた。
「きゃっ、やだっ!!」
かなり遅れた反応で、ミキはその場でサッとしゃがみこんで、難を逃れた。
「え?あれ?だめだった??」
ノゾミは不思議そうに首を傾げていた。やはり本当に天然ボケなのだろう。きっとこのままミキの
結果的に推理は外してしまったが、少しも悔しくはない。私はこの先の展開を想像して思わず笑ってしまった。
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