探偵は女子のヒップに顔をうずめる

那古野 賢之助

可愛い女の子は「XXX」を出さない




プスーッ。何の前触れもなく、どこからか何らかの気体が漏れる音が聞こえた。


この部屋には私以外に3人の女子がいる。まさにハーレム状態だ。私はその天国のような空間に放たれた気体が何なのか、一瞬のうちに理解した。


これは事件になりそうな予感がする。しかし、安心して欲しい。



おそらく毒性はない。





私たちは、大学の同じゼミに所属する仲間で、夏休みに出た課題を消化するために勉強会を開いて、・・・と言いつつ、おしゃべり会になっていた。



「ん、なんか臭くない?」



まず一番最初に気づいたのはリョウコだった。彼女は女子サッカー部で活躍するレギュラーで、ムッチリとした太ももと、キュッとしたくびれを持つ、ムチムチしたお尻のかわいい女の子だ。



「え?そう?美味しそうな匂いじゃない?」



ちょっと狂った反応をしているのがノゾミだ。天然ボケの彼女は、フワフワとした可愛らしい雰囲気の性格で、腰から下も私好みにフワフワのポニョポニョだ。とりあえず美味しいわけがない。



「やだっ。そんなのしないよー。」



最初から否定して入ったのがミキである。彼女はほっそりとした、女子が憧れるような体型の持ち主で、足は細いのに程よく肉がついたヒップは大変美しく、歩くときはプリプリと腰を振るようにして歩いている。



4人で囲うテーブルから立ち上がると私は言った。



「誰かがガスを放出したな。」







部屋に1箇所設置されている窓には鍵がかけられており、また部屋の入り口になるドアも先ほどから少しも開かれていない。つまり、ここは密室だ。今の状況に相応しいセリフを思いついたので言っておこう。



「犯人はこの中にいるっ!」



私の声にすかさず、リョウコが反応する。



「わかってるわよ!!あんたでしょ!」



これは完全に濡れ衣だ。犯人が私ではないことは、私自身が知っている。



「おい、リョウコ。何を焦っているんだ。犯人はお前じゃないのか?」



こうして犯人探しは幕を開けた。まずは現場を調べることから始めなくてはならない。私は床に手をついて、ガスのもとを辿るために鼻を鳴らしながら這った。空気が混ざりきってしまう前に濃度の分布を調べたいのだ。


正方形の形をした、冬はコタツになるテーブルは、私の部屋で唯一勉強ができる場所で、ちょうど4人という人数もあってテーブルを全員が利用していた。私の右手側にムチムチのリョウコ。私の向かいにフワフワのノゾミ。私の左手側にプリプリのミキだ。ちなみに部屋の4辺のうち私はドアのある側に座り、反対側のノゾミの側に窓がある。





まずは、第1発見者のリョウコの後ろへ。彼女が一番先に臭いに気づいたのだから、そこから辿るべきと判断したのだ。私はリョウコに気づかれないように、そっと静かに四つん這いで近づいた。



「リョウコ。臭わないぞ?」



失敗した。すぐに臭いを確かめなかったから、空中に散ってしまったに違いない。だが、確かにリョウコの周りへ近づくにつれて、臭いが薄くなっているように感じる。最後に確信を得るために、怒りに体を震わせるリョウコを無視して、白のショートパンツへと鼻を近づけた。



「リョウコ。お前じゃないな。」



こんな機会でないと、こんなに間近でヒップを見ることなんてないだろう。私はチャンスを最大限に利用すべく、リョウコの魅力的なムチムチヒップへとさらに顔を近づけた。



「知ってるよ!!」



パシン!と音と共にリョウコのノートが私の頭に降ってきた。



「すみません・・・。」






リョウコに叩かれた衝撃に頭を抱えて耐えていると、目を離していた隙に大変なことが起こった。


ガラガラガラ!!



「あ・・・、ノゾミ。なんてことを。」


「え?ダメだった?」



ノゾミはキョトンとした表情で四つん這いの私を見つめる。手がかりを消しにかかるノゾミの行動は、明らかに怪しかった。そう、なぜなら彼女は最初に言ったのだ。


《美味しそうな臭いじゃない?》と。もしも美味しそうな臭いだと思うなら、窓を開ける必要なんてないじゃないか。その行動に矛盾を感じる。まさかノゾミが犯人なのではないだろうか。



「だって、次はノゾミを確認しようと思ったのに・・・。」



そう言って落胆する私にノゾミは、予想外の言葉を投げかけてきた。



「え?ちょっとだけなら嗅いでもいいよー。」



許可を貰えたことに私は興奮を隠せず、窓に向かって中腰になるノゾミのヒップへ全力で鼻から突っ込んだ。全力で鼻をくっつけて息を吸えば、まだ間に合うかもしれない。



「キャッ!」


「あんた!何してんのよ!!」


「ちょっと、やめなよ二人とも!」



本当にされるとは思っていなかったのか、驚いて突き出されたノゾミのヒップに私の顔は弾き飛ばされ、鼻を強打し、リョウコには先ほどの3倍以上の力で頭を叩かれた。







やれやれ。大変なことになってしまったが、ひとまず確信したことがある。ノゾミのヒップは最強だ。あれに埋もれて窒息死するなら本望だ。そして、ついでだが、臭いの方も問題なかった。彼女の言う、美味しそうな臭いはしなかった。


さて、私の臭い確認は、もうできない雰囲気になってしまった。あとひとり、プリプリのミキを残していたというのに。できることなら、誰もが憧れるヒップに顔をうずめてみたかった。


しかし、私の類稀なる交渉力によって、最後のひとり、プリプリのミキのヒップは、リョウコとノゾミの2人で確認することになった。ひざ立ちになるミキの両側から、2人同時に腰へと鼻を近づけられ、顔を真っ赤染めて手で顔を覆うミキの姿は最高だった。やはり恥じらいは重要だ。



「んー、全然なんともないわよ?」


「うん。全然へいきー。」


2人揃って違うという。


「リョウコ、ノゾミ。ありがとう。」



真っ赤な顔で、ヒップの臭いを嗅いでもらったことにお礼を言うミキの姿を私は脳に永久保存した。



「ちょっと待て、じゃあ誰だ。」



私は調べたことをまとめにかかるが、それを望まぬ人が多数を占めた。



「いや、あんたでしょ。」


「えー?私じゃないよー?」


「やめてよ、もういいじゃない。」



もう一度、あえて言っておくが私ではない。






「犯人はこの中にいるっ!!」



さっき使いどころを間違えたようだったので、もう一度言っておいた。



「さっき聞いたわよ!だからあんたでしょ!!」



第1発見者というか、まず先に声を上げたリョウコだが、声を上げたのがリョウコだというだけで、発生源がリョウコではなかった。


次にノゾミだが、顔をうずめるほどヒップに鼻を近づけても、臭いは感じられなかった。手がかりを消しにかかったりするところは怪しいが、天然ボケがゆえの行動だろう。


ミキも、2人が確認して違うと言った。本人を加えれば3人が違うと言っているし、確かに美しいヒップを持つ彼女からガスが漏れているとは考え難い。



「犯人は・・・」



そう言う私に、リョウコは睨みをきかせ、ノゾミは不満そうにむくれ、ミキはそっぽを向いている。


私はもう誰が犯人なのかは分かっていた。彼女らは仲間を必死に庇っていたのだ。美しい友情だ。犯人探しなどして申し訳なかった。ガスなど誰でも出すのだから、私の部屋でよければ、好きなだけ出して欲しい。そう私は紳士なのだ!



「俺だ!!!」



ミキは、驚いた顔をして、そして笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る