ストロングゼロのなかの手紙
沙鳥
第1話
親友が死んだ。らしい。
もう何年も会っていないため、自分が親友と呼んでいいのかもわからない。高校のときの同級生で、大学進学する生徒が九割を超えるなか、自分たちより一足先に働き始めた親友。
噂というものは無責任に広がるもので、頼れる身寄りがいないだの高校進学の奨学金でやっとだっただのということが耳に入ってきた。それでも親友ということは変わらなかったから、特に気にしたりなぐさめたりはしなかった。
高校卒業後は連絡を取りあったり遊ぶことはよくあったが、いつの間にか回数がどんどん減っていまでは年末年始の挨拶さえもしなくなってしまった。
それでも親友は元気でいるんだろうな、とぼんやり思ってたら。あいつの職場から、仕事中に倒れて搬送された先の病院で亡くなったと連絡が来た。
出席者の少ない葬式に出て、火葬場まで付き添ってもまだよくわかっていなかった。もう話すことも一緒に馬鹿笑いすることもできないと。
あいつの住んでたアパートに来ても、隅にホコリがたまってたりまだ洗ってない皿が台所に置いてあったりと生活感が残っていて。「お菓子買ってきたから一緒に食べよう」と笑いながらやってくるんじゃないかと未練がましく思ってしまう。
業者が部屋を片付ける前に、なにか貴重品があれば形見分けしておいてほしいと言われたが、まだ生きてそうなのに形見なんているんだろうか。
テーブルを見てみると、チラシやスーパーの惣菜のパックで散らかったなかに、ギラギラと派手なパッケージの安酒缶が数本無造作に置かれてある。そのなかに、特に目を引くものがあった。
缶の飲み口のなかに、広告をちぎったものが丸めて突っ込まれてある。たった一つだけ。
酔っ払ってやらかしたんだろうか、何してるんだかと少し呆れて缶を手に取って紙を抜きとり、広げてみる。すると、文字が書かれてあることに気づいた。
手の震えを堪えながら、読んでみる。
そこには、「楽しい?」と一言だけ、たったの一言だけ黒字のボールペンで書かれてあった。
天井へ顔を向け、目に力を入れる。溢れてきた涙を紙に落とさないように。
シワにならないように折りたたんで、服のポケットにいれる。涙をぬぐって鼻水を吸い込み、遺品の整理を始めた。
天井の明かりがスポットライトのように、安酒を照らしていた。
ストロングゼロのなかの手紙 沙鳥 @mzsnsatori3
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