大罪SEVENS
「……ステフが殺されたな」
「暴食のステファン、逆に喰われたか」
「女を囲うくせに女に興味無いからね。歯の浮く台詞がムカついていたけど」
暗がりの中、三人の男たちが口を開く。
「だが、問題は二つ。一つは直に来る」
荒々しい足音が響き、扉の前で止まる。
───バタンッ!!
暗い部屋が一気に光を取り込んだ。
紳士風、強面、美少年がソファーで寛いでいる。
荒々しく扉を開けたのは派手目の美女だ。
「淑女が台無しだぞ。嫉妬のリリアナ」
「……その名前で呼ばないで。それより!
ステフが! ステフが! 」
「みんな分かっているよ」
「なら! なんで冷静なのよ! アタシのステフが殺されたのよ?! 」
「別にキミのものじゃないし、そもそも彼は食にしか興味が無いからね」
赤い炎のような髪のリリアナの、ルビーの瞳がギラギラと三人を睨みつける。
「……復讐しましょ。あなたたちがやらないならアタシ一人でもやるわ! 」
「駄目だ」
「う……」
息巻くリリアナを一言で黙らせたのは、紳士風の男。
「……高慢のノア。あなたは悔しくないの? 」
「悔しいとは違うな。アイツは学内のヒューマンを食い漁った。餌場を荒らしたのは他でもないステファンだ」
「食欲に負けてオレたちを危険に晒した」
「最後に来たくせに、1ヶ月で十五人は目立ちすぎでしょ」
リリアナ以外、ステファンを快く思っている者はこの場にいなかった。
「だが、十五人ものヒューマンを喰ったなら簡単には殺られないはず。我々の今後の対策を練らねばならない」
「そうそう、トバッチリは嫌だもんね」
「……アイツは
「この色欲のルカ様を差し置いてくれちゃってさぁ」
リリアナの顔は険しくなるばかり。
「……可哀想なステフ。アタシ以外悲しまない」
「庇いたい気持ちはわかるけど、一番大事なのは自分だからね? 」
可愛い顔が無表情になる。
「……じゃあ、殺したヤツを速やかに消すしかないわ。怪しいのは十六番目の
「誰だっけー? 」
「ジェニファー、ジェニファー・フロアストーン……」
「はぁ?! 僕が狙ってるハニーちゃんじゃん! 生きてて欲しいなぁ。あの蜂蜜色のフワフワした髪、陶磁器のようにキレイなのにマシュマロみたいに柔らかそうな肌……。ステフ何かに喰われてたら最悪だよ」
不貞腐れたように立ち上がる。
「ヒューマンの女なんてどこがいいの?!
」
「そんなことより……、そのヒューマンの女ジェニファーを調べよう。ヒューマンが我々を殺せるとは思わないが、ステフが死んだのは事実だ。憤怒のルーク、二人に連絡を頼む」
「わかった」
憤怒のルークと呼ばれた強面の男は、無表情を崩さないまま部屋を後にした。
「じゃ、僕も~。またねぇ」
小柄な体躯の色欲のルカも後に続く。
部屋の中には、高慢のノアと嫉妬のリリアナだけ。
「……リリアナ。一人での行動は避けろ。協調性のない我々だが、それこそが強みだ。単体で動けば欠点になりやすい。しかし、二人以上で動けば強みになる。バラバラの個性を活かしてきたからこそ、上手くいっていたと思わないか? 」
「ンなこと、考えたことも無いわよ。結果論でしょ」
ノアは皆のブレーン的存在だ。
その場で機転を効かせることが得意。
しかしながら、高慢のノアと呼ばれるだけあってプライドがエベレスト並に高い。
自分の考えが間違いではないと主張するために、あらゆる方向性を模索する。
逆にリリアナは気に入ったものに執着しやすい。
嫉妬のリリアナと呼ばれるほど他人のものが欲しくなり、手に入らなければ手に入らないほど嫉妬する。
周りが見えなくなるタイプだ。
そんな二人の意見が合うことは無い。
七人揃っていても、誰もが相手に合わせない。
自分の利益になることには賛同し、少しでも不利益になるならばすぐに裏切る。
諸刃の組織だ。
「協力しろとは今更言わない。自分を守れ。私も都合が悪くなればお前を切るからな。足を引っ張るなと言っているんだ。ステフのように死にたいならば好きにすればいい。そうなれば、おまえは他人だ」
「最初から仲間とも思っていないくせに。利害の一致がなければアタシたちが一緒にいる必要がないわ」
お互いを利用し、お互いを監視して。
彼らに信頼関係はない。
「個々でいる場合は他人。そもそもオトモダチですらないもの」
ふんっと鼻を鳴らし、部屋を出る。
開けっ放しの扉をバタンッと閉じて。
また部屋の中が暗がりになる。
「……礼儀がない所は気があっているんだがな」
ため息を漏らし、一人座り直す。
「さて、懸念すべき事項を洗い出そう。考えうるすべてで対応せねばならない」
一部のようなメガネを外し、目を閉じる。
メガネをクイッとさせ、嫌味を言う古典キャラではない。
自分をより安全で餌に困らない状況下に置く為ならば何だってする。
上手くいくなら優しくもするし、甘い言葉も囁く。すべては自分のため。
利用できるものは利用する。障害になるなら切り捨てる。危険になれば防波堤にする。
ノアだけでなく、全員が大小あれど利己主義者の集まりだ。
彼も動きやすい考えを提示されればその通りに動く。
その代わり、合わなければ離反する。
作戦発案権があるかないかしかない。
誰もリーダーではないし、リーダーを作ったところでまとまるわけがない。
お互いを敵にしないために、それは無駄な労力を使わないため。
「私の記憶が正しければ、あの女……。学年首席だったはずだ。だが、生徒会希望も出しに来ない。美人なのに気高い女だ」
エサにする以前にその頭脳に興味があった。
物事の整理や精査や嫡出能力、観察眼や記憶力は目を見張るものがある。
一介のヒューマンが持ち得る能力の範疇を超えた存在。
他の五人と天秤に掛けても、あのヒューマンの方が価値がある。
しかし、ヒューマンの時点でエサ。
喰うならば自分が最適、更なる知識の高みへと
だが物理的な力があるようには思えない。
容易に考えられるのは第三者の存在。我々を殺せるほどの力を有した第三者。
となれば……、我々以外の種族が現れた可能性。
強い種族は軒並み、数百年前に勇者や魔術師や敵対種族に根絶やしにされた。
当時弱小だった種族たちや敵対種族ばかりになり、平和になった。
ヒューマンが武器を持たなくなり、魔法を捨てた。
好機と飛び出し、敵対種族の村をいくつか灰にしてヒューマンの街に乗り込んだ。
もう次の街に行くほどの緊急事態なのかもはっきりしない。
おなじ目的の他種族、敵対種族。どちらも今では敵にほかならない。
最悪の事態のために逃亡準備も怠らないようにしておこう。
……アイツらを盾にしてでも。
減ったならまた補充すればいい。
探せば、バラけたガーゴイルなんでまだまだいるのだから。
優しいケモノの殺し方 姫宮未調 @idumi34
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