第3話

 ストーブを囲んでみんなで新しく入れたお茶を飲んでおりますと、かりかり、かりかり、と誰かが扉を引っ掻く音がしました。

 開けてみると、お隣のおばあさんが飼っている犬と猫がおりました。

 犬は口に、苺の入ったかごを咥えています。


「まあ、苺……!」


 双子は驚きました。

 今は冬の真っ最中なのに、一体どこから苺が出てきたのでしょう。


「この苺、どうしたの?」


「魔法を使ったの?」


「お隣のおばあさんは、魔法を使えるの?」


 ふたりは久しく会っていないお隣のおばあさんを思い浮かべて、口々に尋ねました。

 ふっくりと丸くて優しいおばあさんは、怖い魔法使いとは似ても似つかないのに。


 すると、犬と猫が元気に答えました。


「うちの庭で穫れたのをお持ちするよう、おばあさんから言いつかったんですよ!」


 双子はますます驚いて、同時に叫びました。


「え? だって、今は冬よ!」


 ふたりの言葉に犬と猫は笑いました。


「冬ですって? とんでもない!」


 犬はたたっと玄関に走り込むと、扉を大きく開けました。

 と、優しい柔らかい風がそよそよと入ってきたではありませんか。


 猫は家の中へ駆けていき、カーテンを二枚、さあっと一緒に引きました。

 そこには眩しいお日さまのひかりが輝いていました。

 光が窓いっぱいにあふれそうです。

 窓を開けると、さわやかないい匂いがみんなの鼻をくすぐりました。

 花と若葉の匂いです。

 春はもう来ていたのです!


「まあ、春なのね」


「まあ、すてき」


 ふたりは急いでストーブを消しました。

 ビロードのカーテンを外して、レースのだけを残しました。


 それから、焦げ茶色の厚い毛糸のワンピースを脱いで、薄くて軽い若草色の木綿のワンピースに着替えました。

 そして、その上にもう一度、白いエプロンをかけました。


 厚い靴下も脱ぎ捨てて、はだしになりました。


 最後に髪を二つに分けて三つ編みにすると、ひとりはピンクの、もうひとりは黄色のリボンをその先に結びました。


 双子はどちらからともなく言いました。


「みんなでお茶会をしましょう。

 春が来た、お祝いのお茶会を」


「お隣のおばあさんも呼びましょうよ」


「ええ、ぜひ、そうしましょう」


     *     *     *


犬は早速、おばあさんを呼びに行きました。


 ふたりは動物たちの持ってきてくれたものを出してきて並べました。


「めんどりさんの産んでくれた卵と、小鳥さんたちの咥えてきてくれた小麦を挽いた粉で、パンケーキを焼きましょう。

 熊さんのはちみつも添えて」


「うさぎさんのキャベツと人参で、サラダを作りましょう」


「牝牛さんの出してくれたミルクでチーズもできるわ」


「飲み物は、ミルクの入った冷たい紅茶にしましょう」


「デザートは、犬さんと猫さんから頂いた苺!」


 みんな、わくわくして言いました。


「さあ、作りましょう!!」


 熊はミルクを容器に入れると、しっかりふたを閉めて手が痛くなるほど振って、バターをこしらえました。

 牝牛がミルクにお酢を加えてお鍋で温め、布で越して塩を混ぜると、チーズができました。

 めんどりが小麦粉と卵を混ぜると、双子のひとりがバターで焼きました。

 もうひとりは、片面が焼けるとひっくり返して裏を焼きました。

 うさぎは治った耳をふりふり、キャベツと人参を細く刻んでサラダにしています。

 小鳥たちは洗った苺を羽根で風を送って乾かすと、へたをひとつひとつ丁寧にくちばしで摘み取りました。

 猫は鼻をひくひく動かしながら甘くて濃い紅茶をつくり、それを氷の入ったグラスに注いで、冷たいミルクを添えました。


 双子は真っ白い布の両端を持つと、テーブルの上にふわりとかけました。

 みながそれぞれ、できあがった食べ物や飲み物を並べると、すてきな春のテーブルのできあがりです。


 支度がすっかり整った頃、犬がお隣のおばあさんを連れて戻ってきました。


「こんにちは。

 お招きにあずかって、うかがいましたよ」


 おばあさんは杖をついて、ゆっくり椅子に座ります。

 その横で、犬がお土産のすみれの花束を咥えてしっぽをふっています。


 双子は花束をほどいてガラスのコップに活けました。

 それからみんなに呼びかけました。


「では、はじめましょうか」


 みんなは嬉しそうに楽しそうに席に着くと、手を合わせて声を揃えて言いました。


「いただきます!」





                                 (了)   

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春のお茶会 紫堂文緒(旧・中村文音) @fumine-nakamura

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