#04 Casus-滅び-



 フィニスはフラつく足を叱咤し、無理矢理立ち上がる。そして、また溢れ出てしまった涙を手のひらでゴシゴシと拭う。悪魔に見つからないように入れている赤い偽装コンタクトレンズがきらりと光る。


「私はずっと悪魔たちに苦しめられてきた。もう、魔女たちを殺させない……」


 フィニスは身体中の表面にに橙色のエネルギーを巡らせる。そして、右手に銀色の魔法の杖を出現させる。先端部に赤い球体が嵌められており、その中には宇宙に散らばる星のように煌めいている。それを下級悪魔へと向ける。


「滅びよ、悪魔。――ティティム・カントゥス」


 フィニスが身体中に蓄積されている魔力を一気に放出をする。まばゆい橙の光が小屋を埋め尽くし、茶色い森に広がる勢いだ。それは、魔女の捨て身の魔法である滅びの魔法。それを下級悪魔は己の渾身の力をぶつけて防ごうとする。


「死ねええええ!!!!」

「待って、ちびっ子、それは!!」


 下級悪魔も最後の力を振りしきり、フィニスに対抗して黒い大きな球体をフィニスにめがけてぶつけようとする。しかし、それはフィニスの魔法の杖から出る橙色の光に飲まれようとしている。


 リベロはフィニスが使った魔法が捨て身のものだということを察知し、フィニスの方へ駆け寄る。


「やめな!!自分が何をしているのかわかっているの!?」

「待って、来ないで!!」


 突然、フィニスの前にリベロが現れ、フィニスは驚きの表情を浮かべる。そして、有無を言わさずリベロに肩を掴まれ、赤い猫目にじっと見つめられる。炎のような赤い瞳の奥底に強い意志が感じられた。その炎に見つめられると、目を逸らすことが出来ない。


「自分の命を無駄にするな!!」


 少し悲しみの声が入り混じった声色でリベロは叫ぶ。すると、リベロはフィニスの顔に近付き、唇を重ねる。フィニスは突然のことで目を見開き、呆然としてしまう。なぜ、憎き悪魔と口付けをしているのか。フィニスの頭の中がぐちゃぐちゃになった。


 熱い、熱い、熱い。とにかく熱い。熱くて互いの唇が溶けそうだった。でも、何故か心地よい。この熱さ、柔らかさが癖になってしまいそうで恐怖すら感じる。そっと唇が離れていき、ぺろりとリベロに唇を舐められると、ぼーっとした頭が少しだけ正常に動き出す。


 フィニスとリベロの周辺に赤い文字と橙の古代で使われていた文字が浮かび上がる。それが組み合わさり、円盤の魔方陣を作り出す。それがぱあぁと光を放ち煌めいてフィニスとリベロの中に吸い込まれていく。すると、フィニスの滅びの魔法の効力が切れてしまった。なんで、と狼狽えているフィニスを余所にそれをチャンスとばかりに下級悪魔が黒玉の力を増幅させる。





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次回更新は3月28日です!

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インフェルノに光あれ 藤堂ゆかり @yukari_BxB

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