セックス・ガン・ガールズ

幸 石木

第1話 壊しやレナ&ルーナ

 こちらとよく似た別の世界。異能の存在が人々に認知されている世界。


 1900年代後半、超巨大国家アメリカ連邦。

 連邦制を布いたこの国は、移民によって出来た多種族国家であり、アメリカ大陸を跨ぐ資本主義自由国家である。

 金と自由が等価になったこの国では、持つ者は富み続け、持たざる者は飢えて消えゆく。

 北アメリカ大陸から南アメリカ大陸まで、パナマ地峡を通り繋がる長大な国土を支配するがゆえに、この国では凶悪な犯罪者どもが跳梁跋扈していた。

 彼らは持つ者持たざる者、区別なく奪い、破壊していく。

 国家では追いきれない大量の犯罪者どもを捕らえるため、この国では賞金稼ぎが他の職業と同等にありふれたものとして存在していた。




 ここはアメリカ連邦東部に位置する、自由と背徳の大都市ニューヨーク。

 多くの人が行き交い賑わいを作る表通りには、華やかで派手な明かりが右に左に立ち並び、夜が消し飛ぶような活気に満ちている。

 その路地を少し入った先にある、怪しげなネオンの光を放つ裏通り。ここには表通りの健全な賑わいとは打って変わって退廃的なムードが漂う。

 ニューヨークの性風俗を一手に引き受けるこの通りには、胸や足を大きく露出させた淫魔のような女たちが、今日も日常に疲れた男たちに奉仕せんと娼館の窓から扇情的な身体を覗かせて、酔うような色香をまき散らしているのだ。

 そんな女たちの強い香水の匂いと、男たちの飢えた獣のような臭いが充満する通り、その一角に軒を連ねる大人専用のおもちゃの店「ゴケグモ」。

 普段は男性客と、時にそのお連れとで賑わいを見せる店内は、今は黒いロングコートに黒いハットを被り、サングラスを掛けた全身黒づくめの異質な二人組に支配され静まり返っていた。

 店内に設置されたスピーカーから時折流れるおもちゃのCMが、凍える場に不釣り合いな陽気を連れてくる。


『フォオオオ!! みんなちゃんと腰を振れてるかーい!? 年を取って段々セックスマッスルが足りなくなってきたなって感じる時があるよね? そんなあなたにオススメのスーパーアイテムがあるんだっ!!』

「――うるさぁぁい!!」


 バンッ、と重い銃声とともに、スピーカーとその周辺のおもちゃが粉々にまき散らされた。


「ひっ」


 床に跪いていた男たちの叫び声。そんな彼らを羨ましがるように横目で睨みつつ、ゴケグモの店主はカウンターから涙ながらに命乞いを再開した。


「い、いのちだけは! 店にある金なら全部持ってってくれ! だから、ヒッ、命だけは助けてくれぇぇぇ!!」

「うるさい! いいから答えて!! さっきから聞いてんでしょ!? さっさと白状しろ!」


 鈴の音のような、心地よい女の声だった。

 彼女はその柔らかそうな手では扱えそうにない大きなリボルバーを店主に向け直した。


「言っとくけど! アタシはあんたのためを思って言ってんだよ!?」

「……」


 彼女の隣に立ち、店主に黙って銃口を向けていたもう一人が服を脱ぎ始めた。それはあまりに唐突で、男たちは開いた口が塞がらないでいる。

 黒づくめの衣服でも到底隠せていなかった大きな胸が、脱衣に合わせて風船のように揺れ動いた。――女だ。それもかなりのボンキュッボンだ。パンツとブラは付けている。

 店主は目の前の絶景に視線を盗まれた。しかし慌ててその視線を逸らし、彼女らの向こう側にあるおもちゃの棚に向けた。


「い、言っただろ!? その黒後家蜘蛛の会ブラックウィドワーズだか何だかしらないが! 俺の店には関係ない! 金ならやるから、い、いのちだけは!」

「ウソつけ! もう調べはついてんの! ……マジで早く白状した方が身のためだよ」

「……レナ、よ」


 そう言って裸の女が拳銃を降ろし、ゆっくりとした動きで店主の元へと歩き出した。

 店主は腰を引いた。


「し、知らねぇ! 俺はそんな奴らのこと知らねぇよ!!」

「ハァ、かわいそうに。ルーナ」

「うん」


 ルーナと呼ばれた女がカウンターの上に乗り、店主に抱き着いた。


「おほっ!」

「チッ! なっさけない声出さないでよ」


 レナと呼ばれた女が店主の頭を乱暴につかみ、耳元でささやいた。


「――イっちゃえ♡」

「あ!? なっ!? ――アッ!? アアアあ゛あ゛あ゛ああああ!!」


 そして店主は、になった。

 彼は力なく腰から崩れ落ち、抱き着いた格好のままのルーナだけが残った。


「で、どこにあんの?」

「うん。わたしたちの背後の、商品棚」


 ルーナはおもちゃの並べられた商品棚を指さした。


「さっさとチクっちゃえばイかずに済んだのに……」


 レナは商品棚に並べられたおもちゃを力任せに床に落としていく。

 卑猥な形をした棒たちがばらばらと床に落ち、そして展示品の一つに固定されたモノがあった。

 レナがためらわずにそれをつかみ、揺する。すると横たわる店主の向こう側、カウンター奥の床に地下へと続く階段が現れた。


「へっ。情報通りね。――行こう、ルーナ」

「うん、レナ」



 レナとルーナが降りた階段の先、そこにはテニスコートほどの広さの何もない空間があった。――いや、ど真ん中に一人、男が胡坐を組んでいる。


「やはり来たか。レナ&ルーナ」


 細身、細目のその男は口を真一文字にして腕を組んでいる。


「店主は最後まで我々に忠義を尽くしてくれたかな」

「バカな男だったよ! そのくだらない忠義のせいでイっちゃった!!」


 そう言ってレナが“ピースメーカー”の銃口を男に向けた。――ピースメーカーはコルト・シングルアクション・アーミーという回転式拳銃の通称だ。頭文字をとってSAAとも呼ばれるこのリボルバーは連邦陸軍に支給される軍用品であり、その45口径の弾丸は人に当たれば被弾部周囲を根こそぎ奪い取る威力を持つ。

 彼女のピースメーカーの砲身には『Looking for your sins』と彫刻されている。像牙製のグリップには星型のレリーフが刻まれていた。


「次は、あなたの…番よ」


 ルーナは“コルト・ディテクティブ”の銃口を男に向けた。――コルト・ディテクティブは口径9mmの小さな回転式拳銃である。その名に探偵ディテクティブとあるように、大っぴらに銃を携行できない場所や狭い屋内で使われるリボルバーだ。

 彼女のそれは、この「ゴケグモ」に来る前にガンショップで購入した市販品である。


ランフランコ・カッシーニ、あなたが犯した…殺人、強盗、…および強姦の罪――」

「その首に掛かった賞金!! 頂いてアタシたちのご飯代になってもらうよ!!」


 レナとルーナがランフランコに狙いを澄ませる。

 対してランフランコはその口を薄く開いて、。極めて楽しそうに、心躍るかのように肩を震わせている。


「ふふっ。壊しやレナ&ルーナ、巷を騒がせるバウンティーハンター姉妹。どんな奴らかと思えば、まだまだカワイイお嬢さんたちじゃないか。ふふふ……」


 メリッ、と音を立ててランフランコの肉体が盛り上がった。


「ふふっ、ハハハ、――ハハァ!!」


 ランフランコが輝く白い歯を見せて立ち上がった。彼の筋肉は今もムキムキと盛り上がり、ついに彼の着ていた衣服を破った。

 ランフランコは美しく力強いボディビルダーポーズ、モスト・マスキュラーを決める。かつての痩身は打って変わって、筋肉隆々のキレたボディに変身を遂げていた。はち切れそうな筋肉は、テカテカと濡れる彼の肌さえも打ち破りそうなほど肥大化し、留まることを知らない。


「んんん、んンゥゥゥ!! ハァッ! ――そのかわいらしい身体に直接教え込んであげよう。我らが、黒後家蜘蛛の会の恐ろしさを!!」


 笑わない男、ランフランコ・カッシーニ。別名、、スマイルゴリラフランキー。彼は輝く笑顔でレナとルナに襲い掛かった。

 彼はモスト・マスキュラーをやめ、両腕を頭の後ろに回すと下半身の筋肉を美しくアピールするアブドミナル・アンド・サイを決めて二人に迫る。

 一歩一歩と間を詰めるランフランコに、レナとルーナはじりじりと後ずさった。


「――な、なにこいつ!? こんなの聞いてないよ!?」

「……ジョッシュがランフランコは、ゲラで…風が吹く音でも、笑っちゃうから…耳栓してるって」


 ルーナはランフランコに2発撃ち込んだ。弾丸はランフランコの乳首とその耳を掠めたが、しかし、そのどちらも彼の筋肉に弾き返される。

 チラリと、彼の耳にはめ込まれた黄色い耳栓が見えた。横顔、そして三角筋と僧帽筋とを見せつけている……!


「んんゥ! ハハハ! 良い筋トレになるね!! もっと撃ち給えよ!!」

「いつもこうだと、目立っちゃう…から、そうしてるみたい」

「つまり笑うとデカくなるってこと!? なんて体してんの! ――てかずっと独り言なの!?」


 ルーナの銃が効かないのを見て、レナもピースメーカーを発砲する。その威力はルーナのコルトよりも遥かに強く、普通の人間ならばひとたまりもないが。


「んふぅ! いい! いいぞぉ! もっとだ!もっと気持ち良くしてくれ!! ――もっと! もっとだ!!」


 ランフランコの鋼の肉体には傷一つつかない。


「っくそ!! なにこいつ!!」

「二手に別れ、よ?」


 レナとルーナは二手に分かれ、ランフランコを挟み込むように動いた。

 ランフランコは一瞬立ち止まり、レナとルーナを交互に見比べる。彼の筋肉は美しく動いた。――いや、彼はその筋肉を美しく動かした。というのが正しいかもしれない。


「……んんゥ! 君の風船のような大きな胸の奥には良い大胸筋がついていそうだ。――君からいただくとしようか」


 ランフランコが現在唯一身にまとうパンツが盛り上がった。ほかの衣服はすでに弾け飛んでいる。アブドミナル・アンド・サイは速度を増し、そしてルナに襲い掛かる。


「筋肉は、好みじゃ…ないよ。おことわりします。そんなに気持ち良く、なりたいなら…してあげる。レナ、?」

「……ヤダなぁ。――とりあえず! あいつの耳栓を何とかしない、とっ!!」


 二人はランフランコの肉体に次々に弾丸を撃ち込んでいく。しかし、ランフランコはその刺激に喘ぎ声をあげるのみで、薄皮1枚すら破れていない。


「ンンゥ! オウ! ――オウッフ!! ふふっ、気持ちいいねぇ!! もっと! もっとだ!!」

「くっそキモイ!! マジでなにこいつ!?」

「レナ、右後頭部」

「! ――オッケイ、ルーナ!!」


 レナはすぐさま特注の弾丸をセットすると、ピースメーカーを両手にしっかりと握り直し、集中した。


「キメる!」


 バンッとピースメーカーが火を噴き、そしてランフランコの頭蓋は衝撃に左を向いた。


「ヌッ!?」

「そこ…」


 ルーナが自分に向いたランフランコの右耳、その穴を塞ぐ耳栓に、瞬時に込めなおした6発の銃弾をすかさず撃ち込んだ。


「ヲッ! ヲッヲッヲッヲッヲンン!! ンンゥ!? フハハハ! ヒィィィ! ――僕は音には弱いんだ! やめてくれないか!?」


 同じ個所に続けて着弾した6発の銃弾は、ランフランコの強靭な耳筋肉に挟まれていた彼の耳栓を弾き飛ばした。


「よっしゃ! さすがルーナ!」

「レナ、いくよ」

「うん!」


 レナは身を包んでいた黒いロングコートと黒いハットを脱ぎ捨てた。ルーナも黒いハットを脱ぎ捨てて、姉妹二人、束ねられていた美しい髪が露わになる。

 レナはゆるふわパーマのかかったプラチナブロンドの髪を胸まで伸ばし、対してルーナはオニキスのような漆黒の髪をマッシュショートに整えていた。

 パンツとブラのみになった姉妹にランフランコが微笑む。


「んんゥ!? ハハァ! 諦めたかな!? ――アハハッ!! さぁ! 僕の筋肉に抱かれるがいい!!」

「なわけあるか! ……スゥゥ――」


 レナは大きく息を吸った。肺の中が限界になるまで、その目一杯まで吸い切る。


『――


 鈴のような声が波のように広がった。反響し、木霊し、揺さぶられるような声が空気に染み込んでいく。


「ンゥーハハハ! ……なに? っく!? 頭が!?」


 ランフランコは頭を抱えて苦しみ始めた。


『今日も私たちに会いに来てくれたんだね。えへへ。うれしいなぁ。――いーっぱい、楽しもうね』


「ぐぅっ!? なん、だ、これは!? 脳が、かき乱されるっ!?」


 彼は叫んだ。


「き、気持ちいい!! だとぉ!?」


 その顔が微笑んだままであるのは、彼の矜持がなせる業か。この声に晒された者にはおよそ不可能な自意識の継続、彼は成せている……! しかし、


「ふふ、頑張ってるね。でも、レナのは…その甘い声で、異性の劣情を強制的に…煽るの」


『――気持ちいいよね。それは、あたりまえのこと』


「うわあああぁぁ!! あ、ああ、あ、あたりまえの、こと」


 ランフランコはやがてがくがくと全身を震わせ、その意識は光に溶け始めた。

 レナとルーナは、いまやすぐ側に立っている。その手の届く距離にまで近づいている。耳元で囁き続けるレナの口を塞ぐだけで助かる。

 彼はそれに気付いたが、しかし身動きができない。


「あ、あっあ、――、そして!!」


 ――巷で話題のバウンティーハンター姉妹。

 彼女たちが捕らえた犯罪者たちは、皆イキ狂い、真っ白になった状態で発見されていた。

 その中には、ご自慢のイチモツが玉無しになり、生きることを見失ってしまった者が多かった。

 そんな彼女たちについたあだ名が、壊しやレナ&ルーナ、ホワイトエンジェルズ、そしてゴールデンロストシスターズ。


「その呼び名きらい、だよ。わたしたちは、あくまで二人組の…バウンティーハンター、レナ&ルーナ」


『10から数えるよ。0になったら……ふふっ、どうなっちゃうのか、おにいさんなら、もう分かるよね?』


 レナの声に合わせ、ルーナはランフランコと一つ一つ繋ぎ合うかのようにピッタリと肌を合わせた。


『10、9……ほら、あと少し、8、7……』


「これはしかたなく、だから。わたし、たちの…奥の手」

「あっああぁ! き、きもちいい!! ――だ、だれか! たすけて!」


 ランフランコの顔はすでに微笑みを失い、涙と涎に濡れている。股間は痛いほどいきり立ち、我先にと慌てた子どもたちが漏れ出している。


『6、5……きもち良すぎてしんどい? もうイキそう? だーめ、まだガマン……4、3』


「安心して、わたしたちの必殺技…極限消失ライブロストは、あなたの…すべてを受け容れる、よ」

「ああああああ! んああっ!? あっ! ああっ!」


 ランフランコは極限まで昂り、その全身を固く昇り詰めた。もはや声は声にならず、しかし悲鳴は喘ぎ声となった。


『2、1……ふふっもうダメ? イク? もうちょっと。もう少しだよ』


「天国へ、どーぞ」

「ンアアアアアアア!!」



「『ゼロ』」



 ランフランコは極限を超え、遠く、遠く、天へ。


「――――」


 そして彼は、真っ白になった。


――――――――


 これは爆乳美人バウンティーハンター姉妹が繰り広げる、凶悪犯罪者との滾るバトル。

 そして、この後に出会う少年との絆と、愛と性との物語です。

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セックス・ガン・ガールズ 幸 石木 @miyuki-sekiboku

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