第5話友達作戦

そんなこんなで、人の目を避けるためにやってきた喫茶店では、確かに人の目は少なくはなったが、まあ、色んな人にチラチラ見られる。


確かに、西高のマドンナなんて美少女連れてる男がTheノーマル野郎だとは思わ無い。


完全に釣り合ってない。けどそんなのどうでもいい。今はセカンドミッション。雪の傍にいれるようになるの現在進行形だ。


「で、話ってなんですか?」

「そうだった話、話……すいません、注文いいですか?」

「ちょっと!話す気あります?」

「あるある……レモンティーのアイスと、パンケーキ1つ」

「ほんとにあります?ないなら帰りますよ!」

「あるって、あっ、雪は何にする?」

「ちょっと話きい……えっと……同じのを」


こんな感じでなんか調子よさそうな人を装って雪と接しているのは理由がある。


やっぱり、仲良くなるにはフレンドリーな対応だよね。

と言う、いかにも、単純な理由だ。

それでも今は、雪から、心を開いてもらわないと話にならない。


「それで話とは?」


雪が怒り気味で話してくる。

奏は少し考える。1年後事故で死ぬからそれを助けに11年前から来たよ。なんて信じてもらえるだろうか?


まあ、押しに弱い雪のことだから、いけそうと言われればいけそうだが……それでも、やはり色々怪しまれて、距離をとられるかもしれない。

それでは本末転倒。ならば……


「ちょっと聞いてます?」

「ああ、悪い、悪い。それで、話なんだが……単刀直入言う。俺は君と仲良くなりに来たんだ」

「……はえ?」


まあ、そうなるだろう。奏の考えた方法は、その名の通り単刀直入に言う。それだけ。

仲良くなりたいのは、嘘じゃないし、それに、雪のタイプからして、嘘をついて近づくことは難しい。

嘘がバレれば距離をとられるだろう。

そんな回りくどいことしなくても、本当のことを熱意を持って、伝える。それだけでいい。


「意味がわからない。仲良くなりたいからっていきなりメアド聞いたり、喫茶店誘ったり……やっぱりやばい人なんですね。帰ります」


雪は席をたとうとする。


「あーあ、待って、待って」

「なんですか?金輪際話しかけないでください」


雪が帰ろうとしたところでタイミングよく、注文していたものが届く。


「ほら、注文してたやつ来たし、せっかくなら、話を聞いて欲しい。奢るし」

「し、仕方ないです。それなら奢って貰いますからね」


ちょろい。圧倒的にチョロい。こんなんで俺が助けたあとも生きていけんのか?そう思うほどチョロい。


この後の仲良くなりたい理由は嘘で塗り固める。


「で、なんで仲良くなりたいかと言えばだな、君と俺は会ったことがあるんだよ」

「私の記憶にはないですけど」

「そりゃ11年ほどたってるからな」

「11年も前のことなんて覚えてないですし、それでいきなり、私と仲良くなりたくなるわけが分かりません」


(そりゃ、11年前じゃなくて11年後だから……)


「まあ、確かに。その時に俺は君に恋をしたんだ」

「はええ?ふぇ?」


(反応可愛いな)


「で、君に幼いながら恋をして、それを追いかけてここまで来たってこと。まあ、今となれば、雪に恋はしてないけどな」

「そんなこっこ恋だなんて……って、今は恋してないんですか」

「そりゃ、そうだ。だって11年も前だぞ?俺はまだ5歳だ」

「わっ私なんて3歳ですよ?」


(えっ!雪って2歳差なの!?3歳に恋するってやばくないか?設定ミスったか……)


仕方ないので何とかそれっぽいことを言っておく。


「まあ、まあ、幼き恋心だからな」

「ま、そうですね。それでどうして急に話しかけてきたんですか?」


(あっぶねぇ、なんかいけたわー)


「それは、たまたま、駅前で雪を見つけて、なんだかこう、ビビッと思い出したんだよ。雪のことを」

「そうなんですか、それで、勢で話しかけてきたと……」

「まあ、そんなところだ。ということで仲良くしてくれれば嬉しいんだが……嫌か?」

「嫌……というより……はあ、いいですよ。仲良くしましょう。悪い人じゃなさそうですし」

「ありがとう。まあ、そんなところで、これで話しかけてきた理由は終わり」

「はい」


これである程度、矛盾のないように、話を進めれた。かなり無理があったが……。

純粋すぎるというか、なんというか……もう少し人を疑うことをしないといけない気がする。


それでも何とか雪と友達になることができたので、セカンドミッションの第一段階クリアだ。


次にすることは、雪と親友ぐらいの仲になることだ。次にくる事故の日。3月13日に雪と一緒にいて事故を回避させる。


そのためには、これからもこまめに連絡をとって、友好関係をさらに深めないと……。

今の友達 (仮) のような関係から進展させるのだ。


その後15分くらい話したり、パンケーキを食べたりと、ある程度雪と喋った後、解散となった。


「それじゃ、今日はありがとうな」

「こちらこそ、奢ってもらって……ありがとうございます」

「いいよ。別に。それより、これからよろしく」

「あっ、は、はい。その……こちらこそ」


なんだか歯切れの悪い返事だが、とりあえずはそんな返事でもいいだろう。

後々、もっと仲良くなればいいだけだ。


「それじゃ、帰るわ」

「はい。さよなら」


家に向かって自転車を漕ぐ、気づけば少しだけ日が落ちてきている。

結構な時間を雪と過ごしていたみたいだ。


家に着けば母が出迎えてくれる。

やはり、家に誰がいるというのは良い。

誰が温かく出迎えてくれるというのは、一人暮らしを経験した身からすると、そのありがたみがよくわかる。


『ただいま』一言を言って、自分の部屋に戻る。


はぁ、と少し息を着く。

今日は疲れた。本当に色々あった。

そして、なれない、接し方で雪と会った。

普段、奏は、コミュ障とまでは行かないが、あまりフレンドリーに人に接する人ではない。

それでも、雪と何とか仲良くなろうと必死に行動をしたため、普段とは違う疲れが襲う。


上辺だけの友情、ただの仮染めの友情。

それでも、雪を助けるのに必要ならば、何でもする。


たった1人のために、11年前に来たのだから。







雪は、部屋で1人、息を着く。

今日は色々なことがあった。

変な人に声をかけられ、いきなり、メールアドレス聞かれたり、喫茶店で奢ってもらったり、初恋の人と言われたり、友達になってなんて言われて。

意味がわからない。


それでも、雪は嬉しかった。

自分に対して、西高のマドンナなんて呼び方じゃなくて、自分と対等な態度で、それよりもなんだか上からで。


初めて相手と自分が、一直線でいられた気がした。


なんだかよく分からない人だけど、何故か分からないけど、あの人と出会うのは運命のような気がして。


メールアドレスの連絡先欄を開いて一人呟く。


「桜木奏……なんだか、とっても、変な人」


クスッと何故か笑いが堪えられなくなり、笑ってしまう。

それでも、きっと、その瞬間は幸せだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は散り、君は吹雪き、2度目の春を待ちわびる @MARONN1387924

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ