第4話三度目の正直
どうしてここに?これが初めの感想だ。
頭が追いつかない、完全に処理落ちしている。
車に轢かれて異世界転生はあるあるだけど車に引かれてタイムスリップはなかなか珍しい。
そんな悠長なことを思っているが、裏を返せば、そんなことを言えるほど余裕が戻ってきている。
「今は何月何日の何時だ?」
急いで時計とカレンダーを確認する。
「4月6日……。朝の7時」
確か車に轢かれた日は4月6日だった気がする。なのでこれはきっと過去に戻ったに違いない。
これまでに過去に戻ることでわかっているのが、現在と過去の時間はリンクしていないが、日付はリンクしているということだ。
今回のケースもそれにあてはまっている。そして、この部屋は紛れもない自分の部屋である。
しかし10年前の部屋と少しレイアウトが違う。
「ちょっと奏ー?今日始業式でしょ?」
母と違う女性の声がする。この声は奏の姉だ。
奏の姉は10年前では、大学に行き、一人暮らしを始めているので、ここに姉がいるということは少なくとも10年前よりも前になる。
「姉ちゃんがいる?……ってことは10年以上前に戻ってるのか?」
「ちょっと奏?ご飯冷めるわよー」
「はあーい今行く」
もう、この朝にも慣れたものだ。奏は急いで階段を駆け下りていく。
リビングに向かう前に洗面台により、自分の姿を確認する。
そこに映っているのは正に子供の頃の奏だ。
背丈からして、高校1年か2年くらいだろう。
奏は3年で少し伸びたため、今はだいたい11年から13年ほど前だと予想できる。
「奏、ほらご飯。今日始業式でしょ?」
「あっうん。そうだね。母さん、ところで俺今何歳?」
「何言ってんの、16歳でしょ?」
「16歳……誕生日は?」
「何おかしなこといってんの、9月8日。高校2年でしょうが」
「あっありがとう」
「どうしたの?寝ぼけてる?さっさと用意して学校行きなさい」
「うん」
これでとりあえず今の時代が分かった。
11年前の4月6日。奏は16歳の高校2年生だ。
「11年前に戻ってきたのか?なら……」
なら、彼女を救えるかもしれない。雪が死ぬのはあと1年後の3月13日。
どっちにしろ本当はこの命、車に轢かれて無くなっていたものだ。せっかくならあの日できなかったことをしたい。そんなやけくそでもあった。
もし、過去から現在に戻るトリガーが、雪の死なのだとすれば、それまでにはあと1年の期限がある。
その1年で何とか雪を救う。三度目の正直だ。
「なぁに難しい顔してんの?奏が何か考え込むなんて珍しいね」
「うっせぇ、俺だって考えることだってあるよ」
後ろから声をかけてきたのは姉の桜木 琴音(琴音)だ。
11年前の姉は18歳になる高校3年生で、奏と違って頭もいい。かなりの名門大学に合格する姉はその後理科の教師をしている。リケジョってやつだ。
絶賛その来年には受かる名門大学に向けて受験勉強中である。
もちろん、姉とは違う高校に通っているため、通学路や、通学時間は違う。
「そんなに難しい顔して、もっと楽しくいこーよ」
「そんな呑気に」
「はは。まあ、姉ちゃん学校行ってくるわ。奏も遅れないように行きなよ」
「んー」
基本姉はマイペース人間なので、受験生になっても、気楽に楽しく学校生活を過ごしているようだ。
奏も学校の用意をして、家を出る。
一歩、歩みを進める度に心臓の速さが増していく、
人が多くなるにつれて、息が激しく切れてくる。
そして着いたのは例の駅前だ。事故が起こる約1年前の駅前で奏は必死に探していた。彼女のことを。
駅前に来て約10分。ついに奏は見つける。
彼女のうしろ姿を視界に捉える。
一歩、彼女に近ずいて行く。二歩、我慢できなくて走っていく、三歩、思わず涙が流れてくる、そして……
「雪」
「だっ誰ですかってキャっ!」
ほんの数回顔合わせただけの彼女が愛おしくて、つい抱きついてしまう。
「キャーっ!!!」
パチーン!!!
無理やり引き離されて、思いっきり左頬を叩かれた。
「なっなんなんですか?けっ警察!警察呼びますよ!」
「いや、俺怪しいヤツじゃないから」
「それは怪しいヤツのセリフです!しかもなんで私の名前知ってるんですか」
「いやー、会いたかったよ雪。ここまで長かった」
「なんのことですか?!あなたとの面識なんてありませんよ!」
「まあ、そんなことより。生きててよかった雪」
「なんですか?どういう意味ですか?あと雪って呼ばないでください気持ち悪い。本当に警察呼びますよ」
「分かった。分かったよ。雪、メアド交換しない?」
「気持ち悪いです。なんで見ず知らずの変質者にメアドなんて教えなきゃいけないんですか?」
あの時のように鬼気迫る表情で雪に言う。
「雪、メールアドレス交換しよう」
あの時のように雪は渋々メアドを見せてくる。
本当に押しに弱いやつだ。
「なっなんなんですか?これでいいんですか?もう二度と近寄らないでください」
「ありがとう。それと、雪。知らない人にメアドなんか教えちゃダメだぞ」
「誰が言ってるんですか?!」
「もう近寄らないでください!」と言い残し雪は足早に立ち去ってしまった。
これにより奏のファーストミッションは完遂した。
まずは雪の連絡先の入手。
セカンドミッションは、雪との仲を深め、雪の傍に居れるようにすること。
そしてサードミッションは、雪を事故から救うことだ。
足早に立ち去る雪の背中を見ながら、時刻を確認する。午前8時20分だ。
ここから学校まで15分ほど。
登校時間が8時25分までなので遅刻確定コースである。
とりあえず学校に向かって歩みを進める。
奏が学校に着いたのは8時35分。
校門の前には松田が腕組みをして待っている。
奏は松田と目が合う。軽く会釈をして、横を通り抜けようとすると……
「おい、桜木。始業式から遅刻とはたるんでないか?」
「すっすいません」
「どうして遅れたんだ?」
「駅前で女の子まってて……」
「ほう、なるほど。ちょっと生徒指導室まで来い!」
「でっですよねー」
始業式は松田の生徒指導で潰れ、反省文を書き、教室に戻れば、何やら哀れな目で奏を見ている人が2人。
幸樹と環奈だ。
「始業式から遅刻とか何してんの?」
「いやー、色々ありまして……」
「それで松田に怒られて反省文と……目も当てられないわね」
「ですよねー」
「ほら、そんな態度だから1回目の遅刻で反省文なんて書かされるのよ」
「そうかもしれない」
「なんだよそうかもしれないって。てか、今日の奏、なんかいいことでもあった?」
「ん?なんで?」
「いやー、表情というか雰囲気が。まさか松田に怒られている事が嬉しかったとか……」
「ないので安心しろ。なーに、ちょっとこの先の生きる希望を見つけただけさ」
「なんかキモイわね」
「ひどいなぁ」
奏は自分の席に戻り、携帯を開く。
さっき交換した雪のアドレスに、
─もし、放課後暇だったら駅前の喫茶店でお茶しない?割と大事な話がある。─
とだけ打ち込み送信する。こんなただのナンパみたいなメールでも雪は必ずくる。
雪は真剣とか、大事とかそういうのに弱い節がある。
だからこれできっと来る。
ホームルームを終え、木本と山本に挨拶して、直ぐに駅前に向かう。
駅前に着いて10分後。
今日はどの学校も始業式らしく、早めに終わった学生たちが駅前には沢山いた。
そんな沢山の学生たちの中に一際輝く女子生徒が見える。
「うわっ、あれ、西高の柳原ってやつじゃね?」
「すげぇ可愛い」
「何だ?こんな駅前に。待ち合わせか?」
「彼氏か?どんなやつなんだろ」
「そりゃ西高のマドンナと付き合うやつだぜ。イケメンに決まってる」
そんな声をうっすらと聞きながら奏は雪に向かって手を振る。
「雪ー。来てくれたんだ。優しいな」
「うっうるさいわよ。そんな大きな声を出さないでください。恥ずかしい」
「ごめんごめん」
「謝る気あるんですか?それより大事な話って……」
「それもあるが……とりあえず喫茶店入らないか?」
「なんでですか?」
「いやー、よくよく考えると周りの視線痛いなーって」
そこでようやく2人は気づく。周りの人が超見ていることに。
「なんだ?アイツ?彼氏か?見合ってねぇ」
「西高のマドンナは男のセンス0かよ」
「ほら、雪。喫茶店行かない?」
「そっそうですね。行きましょうか」
2人は足早に喫茶店に向かっていく。
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