第7話 学年一の美少女と付き合うことになった件
帰りのSHRを終え、教科書類を鞄に詰め込んでいく。Twitterを少しだけ確認して、鞄を背負うと教室を出る。
廊下に出ると、ちょうど達也も教室から出るところだった。
「おっ、タイミングいいな。今日遊びに行かね?」
「あー、ごめん。朝比奈さんに呼ばれてて」
達也の笑顔が凍りついた。無言のまま固まっている。
しばらくすると、停止の呪いが解けたのか廊下を全力で走り去っていった。
「ちくしょぉっ! 裏切り者ぉぉっ!!」
恨み言を吐きながら、遠くへと走っていってしまった。これ、僕の悪評が広まる展開じゃないか?
明日、達也に何かお仕置きしようと考えつつ、西階段で待機する。どうやら朝比奈さんはまだのようで、スマホを片手に一年生が通りすぎるのを見ながら待つことにする。
やがて、校舎内に吹奏楽部の演奏が聞こえるような時間になる。まだ、朝比奈さんは来ない。
スマホをスリープ状態にして、ポケットに入れる。
「……来ないな。からかわれただけ?」
朝比奈さんに限ってそんなことをするとは思えないが、からかわれただけだということも否定できない。
諦めて帰ろうと踵を返した。その時。
「待って北谷くん! 遅れてごめん!」
息をせききらせて朝比奈さんがやって来た。急いで来たようで、髪が少し乱れている。
やはりからかわれたわけではなかったようだ。そのことに安心し、朝比奈さんを見る。
「大丈夫だよ。それで、どうしたの?」
「待たせてごめんね。誰もいなくなるのを待ってからお手紙書いてたから」
手紙? 先生に頼まれたのかな? でも、誰もいなくなるのを待ってたっておかしくない?
朝比奈さんが胸に手を当てる。意を決したような表情をしてから、僕に向かって綺麗にデコレーションされた紙を差し出してきた。
「私のラブレター! 受け取って!」
「……え?」
何か、よくわからない五文字の単語が聞こえた気がしたけど……疲れてるのかな?
そんな風に考えると、朝比奈さんが続けて言う。
「北谷くんが好きです。お付き合いしてください!」
はいストップ。今流行っている芸人じゃないけど、時を戻そう。
冷静になって考えてみる。そして、僕はとある結論にたどり着いた。
「あの階段の噂? あんなもの真に受けなくていいと思うよ。朝比奈さんが思う人と付き合えば……」
「そう。あの時北谷くんとぶつかって、運命を感じたの。私の相手だって」
あーこれダメだ。恋する乙女の目だ。
なら、僕も遠慮しない。思っていたことを言ってしまおう。
「実は、朝比奈さんがあまりにも人気だから言い出しづらかったけど、僕もその、好きです」
「っ! じゃあ…!」
「うん。これからも、よろしくね」
朝比奈さん――咲良が涙ぐむ。それから、勢いよく僕に抱きついてきた。
抱擁を交わしながら、僕は階段の曲がり角を見る。思えば、ここでの出来事が始まりだった。噂って、都市伝説って怖いね。
北校舎二階の西階段で、女子からアイスクリームをかけられた男子はその女子と付き合う。
これは、僕の物語。ラノベとかのタイトルに置き換えるなら、そうだな。
『学年一の美少女と激突してアイスクリームをかけられたら付き合うことになった件』なんてのはどうだろう?
学年一の美少女と激突してアイスクリームをかけられたら付き合うことになった件 黒百合咲夜 @mk1016
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