(3)
「来週って……俺がここで働いている前提ですか」
フランツは困った顔をした。
「働いていただけるなら、宿が見つかるまで、しばらくここで暮らしていただいても構いませんよ。臨時ベッドも裏にありますから」
「ずいぶん信用してくださるんですね」
「それは、ガリウスさんの部下さんですから、ご身分も保証されていますし。面倒ごとを持ち込まれちゃ困りますけど」
「はあ……ここまで来れば大丈夫だと思います。でもまあ、当座の生活の見通しは立っていませんし、そこまで言っていただけるのなら、少しの間お願いしてもいいですか?」
ルピナスは顔を輝かせた。
「本当ですか? やった! イケメンゲット! よろしくお願いしますね」
彼は若干引きながら頭を下げた。
「こちらこそ。それで、ベッドがあるなら少しお借りしたいのですが。実は、丸二日寝ていなくて」
「ええっ、それでお酒はダメですよ。寝ましょう」
ルピナスは後ろの扉をノックし、用心棒に声をかけた。
「アーノルド、新入りさんが決まりました! ちょっとお疲れなので寝させてあげてください」
扉が静かに開き、声だけが聞こえてくる。
「明かりは消せないが、構わないか?」
青年は頷く。
「ここ、元々は住居なのでシャワーも浴びられますよ。よければ使ってください。替えの服まではないんですが」
「ありがとうございます」
ルピナスは、そうそう、と手を合わせた。
「フランツさん。参考までに、どのお酒が一番良かったか教えてくださいませんか?」
彼は「あのエメラルドグリーンのです」と即答した。
「どの辺が良かったですか?」
「うーん……美しい海のような色もいいし、なんだか心が落ち着く優しい味でした。すっきりしていて爽やかなんだけど、ちょっと懐かしいような。たぶん、何度も思い出して飲みたくなると思います」
「あら、そんな風に言ってくださるなんて。説明文に加えようかなあ」
「どうぞ」
「ではお言葉に甘えて。ゆっくり休んでくださいね」
ルピナスは青年が扉の向こうに消えると、カウンターの下で小さくガッツポーズを作った。それから、カウンターの隅にある黒い電話のダイヤルを回す。
「国際電話でクリステヴァ王国西部にお願いします」
***
ABT1. のBGMはBill Evans / My Foolish Heartです。
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