第33話:伝説の終焉——「人間魚雷」の死 1
伝説の走り屋「人間魚雷」の最期について、最初に書こうと思ったのはオレが二十九歳の時だ。二十代の終わり、当時付き合っていた女性……今の嫁さんだが、との結婚も考えていたオレは、何だろう、うまく言えないのだが、人生を次のフェーズに進めるにあたり、これまでの自分の人生、というか、青春、と言うか、そんな輪郭の定まらない「何か」を総括して、評価して、そしてその上で、未決の課題とでも言うべきその「何か」を、忘却という人生のゴミ箱に投げ捨て、清算してしまう必要があると考えていたのだ。やっぱりうまく言えない。
「大人になるために、何かを捨てなければならない」
そう考えていたのだ。何となくの気分的なものでは無くて、リアルで、強迫的な想念だった。
当時まだ入手が容易だった「人間魚雷」関連の特集記事を掲載したバイク雑誌を集めたり、オレ自身の周囲にもいた深沢カケルの関係者に取材をしたりしてるうちに、ヤマガミ輪業の山神社長のツテで、あの日、人間魚雷のRZ250を追尾した神奈川県警察交通機動隊の白バイ乗務に従事していた警察官、所謂「白バイ隊員」に直接話を聞く機会を得た。
カケルの最期については、当時すでに山神社長から詳しく聞いていたし、その白バイ隊員の存在も併せて知らされてはいたが、その時点では特に会って話を聞きたいとも思っていなかった。しかしこの時、カケルの死後八年の歳月を経て、オレは彼との面談を山神社長にセッティングしてもらったのだ。その白バイ隊員はその時点で転職していてすでに警察官では無く一般人で、そしてヤマガミ輪業の古いお客さんで、しかも社長のツーリング仲間だった。
彼が語った内容を当時、一度文章に起こしたりもしたが、結局それを使うことは無かった。今回、二十年振りに文章を見直し、改稿しようと考えてもいたが、今回、そこまでするつもりはすでに無い。冒頭で述べたとおりだ。
彼から聞き取った内容を、「人間魚雷伝説」の終焉を、聞き取ったとおりに、ただ淡々と語りたい。
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