第28話:追走、「人間魚雷」——GS400 4

 一分も経ってなかったんじゃないか?

 右側のミラーが白く、


 チカッ

 と光った。


 その小さな発光は、

 次の瞬間、

 目が眩むほどの光芒のカタマリとなって、

 オレの背中を照らし付けた。


 混乱したさ、

 何かの間違いなんじゃないか、ってさ。

 追い付いてくるのが早過ぎるし、

 それにオレの背中を焼くヘッドライトの、

 照らし付けてくる、

 その角度がオカシかった。

 上手く言えない、

 でも、違和感しかなかった。


 左コーナーをスライディングで曲がりながらオレは、

 視線を一瞬ミラーに投げる。


 驚いた、

 ビビッた、

 コケそうになった。


 コーナーのアウト側の擁壁を、

 走って来やがった。

 分かるか?

 壁を走ってたんだ!


 横向きになって、

 石垣みたいに組まれたその壁にタイヤを接地させ、

 普通に道路を走るみたいに、

 壁を、走ってたんだ。


 反則だそんなの、

 そう思った、分かるだろ?

 速いに決まってる、

 スピードを全く殺さずにコーナーをクリア出来るんだ。


 もちろん、いつでも出来るってワケじゃないだろう。

 しかし条件によっては、

 擁壁だったり、

 コンクリート・キャンバスだったり、

 路肩の縁石だったり、


 ——時にガードレールを、


 ジェット・コースターのレールみたいに、

 自在に使って走れるんだヤツは。


 ウワサは本当だった。

 バケモノだ。

 走り屋の亡霊——

 背後から、

 非現実的なスピードで迫りくるその姿は、

 なるほど、

 その名にふさわしい。


 擁壁が切れて、

 その壁をタイヤで蹴って路面に戻った人間魚雷は、

 その、こちらを圧倒するスピードのままに、

 一気に抜き去ろうとする。


 カーブのイン側に、

 つまり高速でコーナリングしているオレの方に寄ってきた、

 そのRZ250の燃料タンクを、

 オレは思いっ切り蹴っ飛ばす。


 負けてたまるか、

 走りで勝った負けたなんてどうでもいい。

 ケンカで負けるワケにはいかねえ。

 それも「ビビッて負けた」、

 なんて死んでも許されねえ。


 蹴っ飛ばされたRZはバランスを失い、

 アウトに膨らみ、

 そこで再び激しくスピンする。


 ——が、


 停車することなく、

 ほとんどスピードを殺すことなく、

 クルッと鮮やかに一回転すると、

 蹴っ飛ばされた時の勢いそのままに、

 前に向かって、

 ヤツは走り出した。


 ——さすが、


 と思った。


 ——スゲエ、


 そう思った。

 背中の毛が、

 ゾワッと一斉にそそけ立つ。


 いや違う、

 ヒビッてなんかいねえ!


 いや、

 いや、そうじゃない、


 そうさ、


 オレはヒビッてた、

 ヤツが怖ろしかった。


 でも、

 でも、嬉しかった。


 怖ろしいと思えるほどのヤツと出会えて、

 上手く言えねえ、

 人間らしい、そんな気持ちになれたんだ。


 このオレが、だぜ?

 俺ってフツーじゃん、みたいな。


 だって、


 後から追い駆けてくるこのバケモノは、

 魑魅魍魎の、

 人外羅刹の、

 そんな連中の類だろハッキリ言って。


 楽しくなってきた。

 笑いが込み上げてくる。


 人間を代表して、

 暴走族という荒くれどもの代表者として、

 キッチリブッ殺して、

 その人外どもに思い知らせてやる。


 オレ達の怖ろしさを、

 救いよう無いこの人間という存在の、


 その浅ましいほどの猛々しさを。






















































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