第27話:追走、「人間魚雷」——GS400 3
風が鳴ったような気がしたんだ。
夜空に星が瞬くのが見えて、
虫の音が、
瞬間、止んだ。
スゲー音がしたぜ。
鉄とバネの塊が落っこって来て、
ブッ壊れるような音。
ズガンッ、っていう路面を砕くような音と、
バキンッ、っていう金属が破断するような音。
猛スピードで加速して行くその路面が、
揺れたような気がした。
「チッ」
舌打ち、したさそりゃ。
張ってたヤマが外れた。
着地しようとするRZに体当たりして、
モロともに、
ブッコケさせるつもりだったんだぜ。
でも人間魚雷の走行ライン上にオレがいるってことは、
その落下音の位置から知れた。
「死ね」
直後に急ブレーキ、
ブレーキレバーを圧し折るくらいの力加減だ。
前後輪ともすぐにフル・ロック、
気持ちいい程クソうるせえスキール音と、
タイヤが焼け焦げる臭い。ははは、
でも次の瞬間、
ハッ、とした。
えッ、って思った。
ヤツは、
ジャンプからの弾みで跳ねながらも、
しかしRZの車体を素早く左にスライドさせて、
路肩から、
イッキに抜きに来た。
——さすがだ、巧い、でも、
「させるかッ!!」
オレは幅寄せして体当たりし、
人間魚雷を、
自分ごと路肩に押し付ける。
想像してたより、
華奢な感じの手応えだった。
もっと分厚い身体の、
大男なんだと思っていた。
悪魔のライディング・テクニック、
怪物「人間魚雷」、
そう聞いていたんだ。
タイヤが砂の上を滑り、
その砂を派手に巻き上げる感触。
三十メートル先、
二台もつれて滑り流れるその路肩の、
オレ達の真っ正面の位置に、
制限速度を告げる、
その道路標識が、こっちに向かってスッ飛んで来る。
衝突すれば、頭蓋がブチ割れる。
願ったり叶ったりだぜ。
は、
肩と肩を押し付け合っている、
その悪魔と呼ばれた単車乗りに、
オレは、
顔をわずかに寄せて笑いかける。
はは、
死ね。
ヤツはゴーグル越しにオレの目を覗き込みながら、
表情を変えずに次の瞬間、
フルブレーキをかけタイヤを前後輪ともロックさせ、
無理矢理にオレから離脱する。
「へっ」
オレは吐き捨てる、
ウワサ程にもねえ。
ヤツの姿はあっという間に遠ざかり、
小さくなり、
そしてバランスを失って激しくスピンし、
辛うじて停車するのが見えた。
あの状態からコケずに停まれたのは、
——さすが、
と言いたいところだが、
「人間魚雷」だろ?
「カミカゼ」なんじゃねえのかよ!
そう思う。
路肩から離れて速度標識を鮮やかに躱したオレは、
横顔を後方に向け、
あごを上げてヤツを見下ろしながら、
ヤツの株を奪うダート・トラック走法で、
派手に火花を散らしながらのコーナーリングを見せ付けながら、
走り去ってやった。
驚いたか?
それくらいは出来るぜ、
オレだって単車に命賭けてんだからな。
ブッコケて死ぬのが怖い、
なんてヤツには出来ないかもな。
オレは猛スピードでツバキラインを駆け下る。
どっちが速いかのバトルなんかに全く興味が無い、
にも関わらずこのオレが、
それでもアクセルを緩めないのは、
ヤツが追ってくるのが分かっていたからだ。
最速の名に賭けて、
追ってこないハズが無い。
ガードレールを走るってウワサ、
まだ見てねえぞ!
どう走るのか知らねえが見せてみろ!!
そんなことを大声で嘯きながら、
ドリフトで、湯河原方面に下って行く。
しかし、
ガードレールをどう走るのかについては、
この後、
血が凍るくらいに思い知らされることになった。
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