第17話:追走、「人間魚雷」——TZR250/3
深夜の箱根を三島方面へと駆け下って行くRZを追走しながら、ボクは思った。
コイツは素人だ。
オンロードの走り方を知らない。いや、それは勿論、流れるような、最低限の減速でコーナーをクリアして行く非常にスピード感のあるライディングなのだが、何だろう、アスファルトの路面では無く、不整地を、ダートを走るような乗り方なのだ。
シートから腰を、ややスタンディング気味に少しだけ浮かし、肘を外側に張ってハンドルをしっかり握るそのスタイルは、オフロード車でダートを走る時のものに近かった。だが身長があり腕が長いため上体はあまり前傾せず、オンロードバイクであるにも関わらず、姿勢には余裕があるように見えた。
急なカーブでのコーナーリングは、ハング・オフでは無く、スタンディングで身体は立てたまま、バイクだけベタッと寝かす、リーン・アウト走法だった。
アールの比較的緩やかな、つまり高速カーブでは、曲がる方向にある脚を大きく斜め前に投げ出して体重移動し、或いは腰から全身をカーブの内側に放り出すような、ハング・オフの動作をもの凄く極端にしたような体重移動で曲がった。
そしてこれ等のコーナーリングの多くは、グリップ走行では無く、スライド走法で行われた。車体の向きや、速度の調節を、タイヤを二輪とも滑らせ、アスファルトの路面を擦過させることで行っていた。グリップ的には不利であるリーン・アウト走法でコーナーを曲がるのも、多分タイヤをワザと滑らすためにそうしてるのだ。
ドリフト走法、
ダートではよく見るこの走り方は、摩擦係数が大き過ぎるオンロードでは大変危険であり、そもそも前提となる速度があまりに違い過ぎた。しかしそれにも関わらず、人間魚雷のその走りは、危険を感じさせない安定的なもので、高い技量と、優れたライディング・センスが窺い知れた。
「ド」派手なライディングだった。しかしその走りには破綻が無く、勝負を仕掛けるのが難しかった。つまり「抜きどころ」が無いのだ。理論的にはメチャクチャだが、
なるほど上手い、
そう舌を巻いた、その刹那だった。人間魚雷が、後ろを振り返って、こちらを見た。やや伸ばし気味のボサボサの髪が風に流れる。ああそうだ、コイツはノーヘルなんだな、と改めて気付く。ビンテージタイプのゴーグルに隠れて目の表情は分からなかったが、口元が、少しだけ笑っているように見えた。
この時、ボクは初めて恐怖を覚えた。コーナーリングしながら、ドリフトしながら、後ろを見る。ハッキリ言う、それだけで既に自殺行為だ。しかもパッと振り返った視界の中にこちらの姿を捜し、顔を見て焦点を合わせ、笑い掛ける。オカシイだろ??どう考えても!!!
夢を見ているような気がした。そうして、それがこれから悪夢に変わる、その前兆を、今ボクは目の当たりにしているのだ。
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