第12話:五月の風と、緑と、飛行機と、
カケルをツーリングに連れ出したんだ。
オレの仲間たちと一緒に。
なんか、落ち込んでるみたいだったしさ。
あいつヤマハのDT200ってオフ車に乗ってて、
そう、あいつオフ車乗ってたんだよ、
カケルらしいよな、
あの時代の若いヤツがオフ車なんてさ、
オンロードタイヤ履いて、
って、オレが履かせてやったんだけどさ、
タダで、
そんで、バイカーズっぽく乗ってたな。
結構速いんだよカケル、
驚いた、
単車って、結局「腕」だから、
オフ車だからって、バカに出来ねえんだよ、
相当走り込んでるみたいだったな、アイツ。
オレはホンダのブロス
あとは単車仲間のオッサン連中で、
XR250、SR400、Z400GP、
あと店に入り浸ってる若いのでアマリって小僧がいて、
カケルと同んなじくらい、
そいつがどこから捜してきたのかFZ250フェザーっていうずいぶんマニアックなマシンに乗ってた。
五月の連休で、
穏やかに晴れた、暖かい日だった。
エメラルドグリーンの海を左手に見ながら、
カケルの奴、浮かれてた、走りが。
前輪ポーンと上げてウィリーしたまま、
どこまででも走れるんだよアイツ、
怒ってやったけどな、
ライディングをナメんじゃねえ、ってさ。
小田原の街中で信号待ちしてる時、
ああ、こいつの単車は結構マジなんだな、って思った。
だって、
アイツ、足突かねえんだよ、下に。
自然にしてるから、最初分かんねえんだけど、
なんか違和感あって、
不思議な感じがして、
なんだろうってよく見たら、
足を突かないでバランスとって静止してるんだよ。
で、
そのうち疲れてくると、
左足のライディングシューズの踵で、
カンッ、ってスタンドを蹴り出して、
ギッチラコ、って自重を預けて休むんだ。
そして信号が青になると、
ギッ、って単車を起こし、
同じように踵で、スコーン、ってスタンド仕舞って、
前輪ハネ上げて走り出す。
やるじゃねえか、
ってホメてやったら、
アイツ、
子供みたいな、
にっこにこの細い眼でさ、
Uの字を横にびよーんって伸ばしたみたいな口でさ、
そんで、
溶けるような笑顔で笑うんだ。
バーカ、
って、
言ってやったよ、
だってさ、
あんな無垢で、
儚い、
子供みたいな笑顔でさ、
なんだか、
胸が、
詰まっちまったんだよ。
そんで箱根のあたりを散々走ってから、
沼津で昼飯とんかつ食べて、
柿田川湧水群でわさびソフト食べて、
みんなで写真撮って、
箱根峠から、
みんなでターンパイク下って、
その時の光景を、
今でも鮮やかに覚えてる、
忘れられない。
新緑と青空のコントラストと、
爽やかな五月の風の中、
時速80キロくらいで下ってて、
その時、
カケルはギアをニュートラルに入れて、
ハンドルから両手を離したんだ。
そして、
飛行機みたいにさ、
手のひらを下にして、
両腕を翼みたいに水平に広げて、
その腕で風を切りながら、
後ろにいた俺の方に振り向いて、
何かを言ったんだ。
空飛んでる。
風で聞こえなかったけど、
きっとそう言ったんだと思う。
ぼく、空飛んでる。
子供みたいに両手の指を広げてさ、
溶けるような、
にっこにこの笑顔で。
危ねえぞ!
下りでギアをニュートラルに入れるバカがいるか!
って言ってやったよ。
だって、
なんだか、
涙が出そうだったんだよ。
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