第72話 アフターエピソード3・初夜


 雅と式を挙げた翌日、ホテルに一泊したのち、アパートに帰る予定だ

両親への挨拶は無事に終わったが、結婚式が終わるまでは怒涛の毎日だった。


 式当日の二次会も、三次会も、四次会も……。

気が付いたら朝になっており、ホテルのベッドで寝ていた。

隣には雅も寝ている。幸せそうな寝顔、そっと雅の頬をなで、カーテンを開ける。


 いい天気だ。まるで俺たちを祝福しているかのように……。

そんな事を考えていた。


 俺は少しだけ冷や汗を流す。

初夜! なんてことをしてしまったんだ!


 思わず子心の中で叫んでしまった。

ダメだろ、初夜だよ? 人生で一度しかない初夜!

なんで寝てるの? しかも三次会位から記憶ないし!

やってしまった。この後、雅が起きたらどんなことが起きるのか……


――


「純平、ひどいよ! 私の事どうでもいいの!」

「先に一人で寝るとか、最低なんですけど」

「まさか、こんなことに……。純平、私……」


――


 落ち着け、大丈夫。

結婚式も無事に終わったんだし、二次会も楽しかった。

三次会は、それなりで四次会は……。


 窓の外を眺め、空を見上げる。

いい、天気だな。


 後ろのベッドからもぞもぞと音が聞こえた。

そして、内心ドキドキしながら俺は窓の外を眺め、気が付かないふりをしている。


「んっ、おはよ」


 後ろから抱き着かれ、石鹸のいい匂いが漂ってくる。


「お、おはよ。いい天気だぞ」

「そだね。んー、純平の匂い……」


 振り返り、雅を見つめる。

着崩れたバスローブ。片側の肩が見え、ウエストあたりで結んでいたと思われる紐はすでにほどけている。


「雅……。昨日の夜は……」


 心拍数が高鳴る。

この後、俺にはどんなことが待ち受けているのか?


 平手打ちかな? 往復びんたかな? それともグーパン?

もしかしたらアイアンクローかもしれない。


「昨日の夜?」

「お、おう。実は記憶があいまいでさ……」


 嘘です。

曖昧ではありません。ほぼナッシングです。


 雅は頬を赤くし、急にもじもじし始める。

なに、この態度、何が起きていたの?


「純平ったら、さすがにあれは恥ずかしいよ? 本当に覚えてないの?」


 え? 俺は一体何をした?


「自分の目で見る?」


 雅はスマホを操作し、俺に画面を見せる。

これは、三次会か四次会か?

あー、俺が結構大変なことになっている……。


 映し出された動画。

そこには酔った俺が雅に抱き着いている動画が流されている。


「これは、私の友達が撮ったの。送ってもらったんだけど、さすがにこれは……」


 雅と二人でベッドに腰かけ、流れる動画を見る。


――


「俺は! 世界で! 一番! 雅の事を愛してるぞぉぉ! 大好きだぁ!」


 ナニコレ?

なんで飲み屋のステージで叫んでるの?

周りも盛り上がっている。みんな酔っているんだな。


「雅! 俺は、お前を幸せにするぞ! 普段は恥ずかしくてて言えないけど、お前のためだったら何でもできる!」


 そういって俺は、注がれたグラスの酒を一気に飲み干す。


「……ダメじゃん。ごめん。これはさすがに雅に迷惑をかけたね」


 雅が俺に寄りかかってくる。


「あ、これじゃないの。ちょっと恥ずかしいけど、まぁ、一つの思い出?」

「ん? これじゃないの?」


 雅はスマホの画面を閉じ、俺に抱き着いてくる。


「ホテルに帰ってきた後、覚えてないの?」

「あー、ぼちぼちかな?」


 雅が俺の頬を人差し指で突っつく。


「嘘は良くない。覚えていないんでしょ?」

「すいません、覚えてないです」

「ホテルに帰ってきたあと、ワタシを姫様抱っこしてそのままベッドに放り投げたんだよ?」


 ほぅ。

なかなかパワフルですね。


「そしてさ、『好きだ、大好き』って言いながら、ずっと私にキスするの」

「……」

「お風呂入りたいって言っても、放してくれなくてさ。明け方までずっとキスの連続……」

「……」

「何度も『わかったよー、もう寝ようね』って言っても、純平が『今日は初夜だから、俺の好きな気持ちを伝えたいんだ!』ってさ」

「そ、そうですか……」


 なんだか、いろいろとやっちまったな。


「明け方、やっと純平が寝てさ。私もお風呂に入って一緒に寝たんだ。純平の寝顔も、なかなかかわいかったよ」

「そうですか、ごめんなそんなことになっていたとは」


 雅が俺の頬にそっとキスをする。


「そんなことないよ。たくさん愛してくれてありがとう。私も純平の事、愛しているよ」


 俺たちは式を挙げた。

入籍もしたし、家族になったんだ。

俺の愛する雅と、俺は家族に。


「俺も」


 まだ、起きたばっかり。

ベッドの上で二人で転がる。

ふかふかのベッド、なかなかいいベッドだ。


「もう少し、まったりする?」

「せっかくだし、まったりしますか」


 やわらかいベッドの上、俺は雅と一緒にもう少しだけ眠る。

この温もりを、あの日から忘れることのできなかったぬくもり。


 俺はこの温もりを絶対に忘れない。


「雅」

「なに?」

「愛してるよー」

「私もー」


 ちょっとふざけながらベッドの上で転がる。

そんな時間を俺達は楽しんだ。




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可愛い後輩の選択 ~寝取られた彼女、そして俺が最愛の人と結ばれるまで~ 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox

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