第六話
「なっちゃった、って……私がどれだけ心配したかわからないの!?ここ最近は一緒に住んでても全然会えないし。もう無理、貴方についていける自信がないの」
気が付いたら、そう口走っていた。彼が「困ったなぁ」とでも言いたげに見つめてくるが、そんなことは関係ない。私はさらにこう続ける。
「私より仕事の方が大事なんでしょ。だって仕事が恋人みたいだもの。もう知らない、勝手に仕事してれば」
言いながら、涙が頬を伝った。今まで抑えてきた感情が、どんどん流れてしまう。
彼はしばらくの間黙っていたが、やがて口を開いた。
「そう、だよね。本当にごめんなさい。どんな理由であれ、春香より仕事を優先したら嫌だよね。でも、聞いてほしい」
彼はそこで一度言葉を切り、深呼吸をした。
「こんなところで言うなんて全然格好つかないけど、春香のことは本当に好きで、愛してる。仕事を頑張ってたのは、春香に少しでもいいものを渡したかったから。これ以上不安にさせたくないし、僕は不器用だから一言で言うね。
僕の傍にずっと、居てほしい」
それがどういう意味か分からないほど、私は察しが悪くない。どう答えようか迷っている間に、彼はこう続ける。
「僕はこれから君の信頼を取り戻すよ。好きな人からの信頼を、ね」
私は本当に迷っていた。今日は、もう別れようと思って見舞いに行ったのだ。そこで求婚されるなんて、考えてもいなかった。
「後、今の会社はもう辞めるよ。こうなっちゃったし、僕には向いてないってわかったから。それに、春香とすれ違ってばかりだから。本当は凄く寂しかった」
目を伏せがちにそう言う彼を見ていると、考えも変わってきた。本当は、彼も会話できなかった状況が嫌だと伝わったから。それならば、答えは一つ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彼と目を合わせてそう言うと、「じゃあ今度、指輪渡すよ」と微笑まれた。
「まずは元気になるところからよ」
つられて私も笑う。先ほどまでの緊張感が急におかしく感じられ、病室には笑いが溢れた。
仕事熱心 景文日向 @naru39398
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