『自殺公社』(後編)

 『ここでの、プログラムには、大きくふたつございますのよ。まず、体育会系と、文科系ですにゃん。文科系は、面白くはないです。薬品や、電気や、一酸化炭素や、空気抜きゲームや、そんなのです。 』


 『クラブ活動みたいですね。』


 『はいにゃんこ。やはり、それぞれのこのみもございますが、迫力あるのは、体育会系でしょにゃん。まず、体育会系を、見学してみましょうにゃんこ。』


 やましんさんは、ねこママとともに、ぐんぐん、山の上に上がりました。


 標高は、1500メートルとか。


 長い長いエスカレーターを降りると、『歓迎』の真っ赤な二文字が、空間に浮かび上がります。


 『あなたは、真の英雄です。いざ、新しい旅に向かって❗飛び立とう‼️』


 と、続きます。


 『すこし、軽くないですか?』


 と、やましんさんは、言いました。


 『そう、にゃんこかな?でも、他に言いようがないにゃん。』


 『はあ。』


 薄い、ピンクな建物があります。


 『ここが、入口です。プログラムは、こうです。まず、ごく単純な、自由落下。こちらにどうぞ。』


 ママは、パンフレットを、わたしたのです。



 やましんさんは、ここを、知っていました。


 もともと、単なる崖っぷちです。


 自殺の名所として知られていた、知る人ぞ知る、危険な崖です。


 それを、さらに、パワーアップさせていたのです。


 『以前には、途中に出っ張りがあり、そこに、引っ掛かるかたがありました。宇宙ごきさまの指令で、見事な直角にされたのですにゃん。

 しかも、下は、がりがりの、強固な岩石で固められましたにゃん。


 まず、助かりません。


 ほら、ステップが出ました。拷問ではないので、わりと、ひろめでしょう。歩きやすいにゃん。


 後ろから、ほら、あの、かわゆい、援助ロボットがついて行きまして、秒読みしたり、『そーれ』、とか、言ったり、ご希望があれば、ちょい、と、押したりも可能です。すいと、ステップを、引っ込めることもできます。それならば、飛ばなくてもいい。多少、カッコは、つかないけどもね。まあ、あくまで、ご本人の意向ですにゃんけど。『やめた』、と、言えば、それで、おしまいで、帰宅も自由ですにゃん。また、他のプログラムに行くことも、オーケーにゃん。日を改めて、再挑戦も、自由にゃんこ。』


 『飛ぶと、100%だめ?』


 『もちろん。ただ、過去、一人だけ、死ななかった人があるにゃん。大ケガはしたけどにゃん。理由はない。偶然にゃん。』


 『すると、どうなるの?』


 『特別な称号が与えられて、称えられますにゃん。』


 『それだけ?』


 『はい。それだけ。でも、一種の高い資格くらいの価値があるにゃんこ。』


 『どんな、称号?』


 『《自由落下の鉄人》とかにゃんこ。とくに、就職には、有利になるみたいにゃん。その人、ある、『宇宙ごき大臣』の警護で、出世したにゃん。』


 『はあ…………そらまあ、確かに…….運、強そう。』


 『すぐ。やりますにゃんこか?』


 『一応、他もみたい。高所恐怖症なんです。』


 『あらにゃん。ま、それが、良いにゃんこか。じゃ、つぎにゃん。』


 やましんさんが、ふと、見渡せば、遥か向こうに、あの、『白い家』が見えていました。


 どうみても、『白い家』です。


 それは、やまはしんさんには、特別な意味がある、建物なのです。


 『あの、白い家は? あの、白い家かなあ。』


 『はいー。あれは、ここでは、文科系の自決場になったにゃん。やましんさんには、だいじなおうちですにゃん。。』


 『ああ。あそこでは、生きなければ意味がないんだ。なぜ? 自殺用になってるんだろう。王女さんならば、事情なら、よく知ってるのに、なんで、あそこに、あの家があるの?』


 『まあ、いろいろ、都合上ね。貸し出し中です。あの家には、定まった時間がない。前にも言ったかとおもいますが、あれは、あなたのお家でもあるのです。でも、存在する時間が違うにゃん。』


 『にゃん。は、いらないです。』


 『ほほほほほほほ!』 

 

 それは、紛れもない、『火星の女王さま』=『ヘレナ第1王女』の、笑い声でもありました。



 

  ・・・・・・・・・・・・・



 『ここは、ボブスレーコースにゃんこ。ふもとまで、駆け抜けるにゃん。快感にゃん。ブレーキないなゃん。最後、壁にぶつかって、鋭い刃で、ぐさり、にゃんこお〰️〰️〰️〰️〰️。』


 『どこが、快感なの?助かった人は?』


 『それが、一人だけあるにゃんこ。なんと、体重が重すぎたのか、壁 も、槍もぶっ壊して、施設を一月、使用不能にしたにゃん。もと、横綱だったにゃん。《ボブスレーの破壊者》と、称えられて、宇宙ごきギャングの用心棒になったにゃん。』


 『ほんとかな?』


 『やましんさんは、たぶん、向かないにゃん。いつも、安全低速運転だからね。』


 『そうかな。』


 『あ、きたきた!ほら。』


 『ゴア〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️‼️』


 1人乗りのそりが、猛スピードでやってきます。


 ヘルメットは、被ってはいるのですが、なんだか、おもちゃみたいです。


 お顔は、よく見えません。


 そりは、ますます、スピードを上げました。


 それから、暫くして、かなり、下の方から、どっか〰️ん‼️と、響いてきました。


 なんだか、雪煙りみたいなのが、高く上がりました。


 『みごと。昇天なさいましたあ。にゃん。にゃん。こ〰️〰️〰️。さあ、あと、まだ、極めつけがあるにゃん。あのスタジアムで、宇宙怪獣コブジロと、一騎討ちするにゃん。ちょうど、これから、始まるにゃん。みてみる?』


 『そうだな。』


 やましんさんは、ねこママ(王女さま)といっしょに、スタジアムにはいったのです。


 ローマの、円形競技場と、まるで、そっくりでした。 


 なんと、観客は、それなりに入っています。


 わ~わ〰️と、かなり、殺気だっていました。


 『自殺希望でなくても、これだけ見にきても、オーケーにゃん。まあ、観客の大部分は、モニターですにゃん。コンピューター映像にゃんこ。』


 『はあ。びっくし。湯気がたってる。』


 『それでは〰️〰️〰️、本日のメーンエベント❗ 挑戦者、グレート・カブキマン‼️』


 ものすごく、大きな、アナウンスが響きました。


 『うあ〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️‼️』


 負けないくらい、ものすごい、歓声が上がりました。


 グレート、と呼ぶには、ごく、普通のおじさまでした。


 『迎えうつは、天下無敵、宇宙怪獣『コブジロ』‼️ 不滅の王者あ〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️〰️‼️』


 『ぎょあら〰️〰️〰️〰️〰️〰️❗』


 またまた、激しい歓声が上がりましたが、ブーイングも、聞こえてきます。


 『やっちまえ〰️〰️〰️〰️‼️グレート・カブキマン❗』


 という、サポーターらしき歓声も聞こえてきます。


 現れたのは、巨大怪獣ですが、まあ、いかにも、憎まれ役そのものです。


 『コブジロは、宇宙ごきの、ペットにゃん。あれで、愛嬌があって、可愛いにゃん。ゴロゴロ言いながら、転がるにゃん。』


 『うそだろ。あ、始まった。はやい。あー!掴んだ。あ、………潰した。ぐちゃぐちゃだ。なんと。瞬殺。』 

 

 『まあ、これが、普通にゃん。』


 『勝ったやつが、いるの?』


 『いまんとこ、出てこない。やってみるにゃんか?飛び入りは、大歓迎にゃん。』


 『え、そりゃ、まだ、心構えが………あり?』


 やましんさんは、気がつくと、すでに、風が吹き抜けるフィールドに立っておりました。


 『でたあ、飛び入りだあ。コブジロに立ち向かう勇者は、えと、情報が入りました。『サンダー・やましんー』‼️無敵の、無職無収の大家だあ‼️』


 『なんだ、こりゃ。うそだろ。なにが、助け出すだよ。まあ、これが、本意ではあるが、さっきのは、あまりに、切ないな。』

 

 やましんさんは、逃げ足は年のわりに早いです。


 さっさと、ぐるぐる、走り出しました。


 ただ、それにしても、いささか、早く走れ過ぎでした。


 それもそのはずで、じつは、ママが、つまり、ヘレナ王女が、『意志力』で、援助していましたのです。


 やましんさんは、スポーツ・カーのように、走りました。


 『怪獣コブジロ』は、それを、不思議そうにみていましたが、何を思ったのか、『おわ〰️ん』と、叫び、どさんと、ひっくりかえり、おなかを上にしました。


 『ごろごろ』


 これは、『コブジロ』の、撫でてくださーい❗の、ポーズでありました。


 走り回るやましんさんを、『宇宙ごき』と勘違いしたらしいです。


 『やましんさん、お腹、なでろお‼️』


 ねこママが叫びました。


 やましんさんは、こわごわ、『コブジロ』に近づき、よしよし、したのです。


 『ぎょわん。』


 と、怪獣コブジロは、嬉しそうに鳴きました。


 『あー!コブジロ、戦意喪失う‼️ 勝者、サンダー・やましん〰️〰️〰️〰️‼️』


 『どぎょわわ〰️〰️〰️〰️‼️』


 歓声が渦巻きました。


 『今日から、『コブジロの覇者やましん』と、称されます。』


 『うわ〰️〰️〰️〰️〰️〰️‼️』


 『すでに、『宇宙ごき行宙船株式会社』から、オファーがかかりました。さらに、『タルレジャ王国』のヘレナ王女さまから、招聘が出されました。やましんさんに、選択権が与えられます。』


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

      

       🚙 ➰➰………




 『あのね、なんなんですか?これは?』


 やましんさんが尋ねました。


 高級リムジンのなかで、正体を現わしたヘレナ王女が、答えました。


 『だってね、あなたがいなくなったら、この宇宙が、消滅する。それは、非常に、こまるんだから。』


 『遠からず、滅亡するよ。』


 『まあね。でも、いまは、まだ、タイミングじゃないわ。そのときは、ちゃんと、送ってあげるわよ。』


 『あしたのことでも?』


 『そうね。で、『自殺公社』は、廃止にしなさいませ。』

 

 『さあて、これから、需要が増えるんじゃないかな。続きがありそうな。需要がでたら、続き考えなきゃ。』


 『まあ、せいぜい、5pvくらいだわ。でも、もし、もう少し出たとしても、やはり、『自決』は、あたくしの趣味には合いませんわ。』


 『事実上、自殺勧告ばかりして出している今の社会に対して、それは、いささか、楽観的で、優しいな。』


 『やさしいのが、あなたの、唯一の資産でしょ。さあ、帰りましょう。夜の営業を始めないと。』


 やましんさんは、おうちに帰りました。


『宇宙ごき戦争』で、焼け残った小さなおうちに。屋根は、やっと、残っていますが、壁は、あまりありません。


 ヘルメットを被った、宇宙ごきの兵士が立っていました。


 『やあ。』


 なぜか、いつもより、愛想の良い態度でした。


 『やましんさん、お帰りなさい。』


 ごき一族や、ネズミさん一族や、やすでさん一族、あと、くまさんたち、などが、出迎えました。


 地下では、ねこママが、喫茶店兼、スナックを、ずっと、やっております。


 その、カウンターには『『自殺公社』申し込みできます。』という、縦長で、三角の広告が置いてありました。


 ママは、それを、下の物入れに、片付けました。


 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




  ・・・・・・・・・・・・おしまい


 


 


  

 

 




 



 


 

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『自殺公社』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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