第2話 CD

この季節は、ちょうどぶどうのパフェだった。


 渋谷のフルーツパーラー。平日の昼間だからか、暇な大学生二人しかお客はいない。メニューを開いてぶどうパフェを目に留めるなりCは注文を決め、Dもほぼ迷わずに苺サンドを頼んだ。

——あんたって季節問わずにいつも苺のやつよね。

 ウェイトレスが去ってからCがつぶやく。

——今はぶどうが美味しいのに、もったいない。

 Dはちょっと微笑む。それを肯定の意と捉えて、Cはさらに畳み掛ける。

——ねぇ、あんたいつも季節外れなのよ。苺が好きなのはわかるけど、一番美味しいときに食べなきゃー

 かちゃかちゃと、食器の触れ合う音。口をつぐんだCの真向かいで、Dがレモンティーを淹れ始めていた。そうして二人分注いだ後、

——でもね、季節外れだからって誰も食べないでいたら、もっと勿体無いと思うわ。

 カップに口をつけてから、Dはぽつりとそうこぼした。

——いつもいつも、いっとう新鮮なものに飛びつくんじゃなくて……。

——わかんないなあ。その時に選ばれなかったものはみんな腐っちゃうとでも思ってるの? 今が旬のものって、あるじゃない。それ以外のものはちょっと型落ちなわけで、選ばれないのは仕方ないのよ。

 沈黙。静まり返ったテーブルに、ウェイトレスが注文を運んでくる。

 責めるような言い方をしたことを、Cは後悔しはじめていた。パフェグラスには、鮮やかな紫のぶどうが盛り付けられている。それを透かしてDを見やると、Dはナイフとフォークを綺麗に扱い、いちごサンドを切り分けていた。切り分けた一口を、自身の口元に運ぶ。白いクリームの中に、苺の鮮烈な赤が垣間見えた。

 Cは目をそらす。そうしてパフェの奥底にスプーンを差し込む。

——ねえ。

 ぼんやりと口を開いたのは、Dだった。

——一口交換しない?

——そうね。

 自然に頷きかえし、Cは微笑む。

 そうして、どちらも新鮮な心持ちで、お互いの選択を味わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

甘いABCD @tart_nununu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ