しなものや

安良巻祐介


 春鬼坂の途中にあるその階物しなもの屋には、由緒のある物品ばかりが持ち込まれ、主の手によって丁寧に寂べられて、いつも見た目よく並べられている。

 組み合わされた品々の模様を目で追うだけでも、慣れぬ客なら頭が変になりかけて、無事に済んでもその日は起きられないだろう。

 それほどにその店にある階の数々は尊く、はろばろと不可思議であった。

 その組み縞を盗むために忍んでくる偸盗も少なくなかったが、それも結局は縞を写し見る前に階の内側へと迷い組んで、縞の一部に織り込まれ、二度と帰ってこないのだった。

 こんな恐ろしいしなばかりを集めて並べて人目に晒して、鬼の名の付く坂に構えて、来る日も行く日も飽かないのだから、あるじ店子たなこもとうの昔に、階の一部になっているのだと、燻火壺くすぶりひつぼけむりのごとく、井戸端会議で専らの噂。

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しなものや 安良巻祐介 @aramaki88

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