第96話 意地悪46(間接キス2)

「はぁ、はぁ、疲れたな」


「そ、そうですね……」


 えりはなぜか顔を赤くして俯くようにしていた。二人三脚を走り終えた俺たちは、あまりの疲労にふらふらとした足取りで歩く。


 二人三脚自体は、可もなく不可もなくといった順位で終わった。特に問題も起きることはなかった。


 少し気になったとすれば、走っている最中にえりが隣で「ひゃあ!?」とか「きゃあ!?」など悲鳴らしき声を上げていたことぐらいだ。それ以外はいたって普通に無事に終わった。


 スタート地点に戻って荷物を回収する。荷物に飲み物が入っていたことに気付き、喉が乾いていることを自覚する。


 キャップを開け、ゴクゴクと飲んだ。飲みながら、見られている視線に気付く。


「ん?どうした?」


 えりがじーっとこっちを見つめていた。


「せーんぱい!私にも一口下さい!」


 えりは少しだけにやりとしながらそう言ってきた。


「?ああ、別にいいぞ」


 そんなえりの様子を不審に思いながらも、別に渡さない理由もないので渡してやる。何かしてくるのか、と一瞬警戒したが特になにも仕掛けることなく、えりは俺のペットボトルに口をつけて飲み始めた。


「……」


 間接キス、という言葉がふと頭に浮かぶ。

前ならなんとも思わなかったが、何故だか少し気恥ずかしく、俺はついっとえりから視線を逸らした。


「ありがとうございました、先輩!」


「あ、ああ」


 飲み終わったえりは礼を言いながら渡してきた。俺はまだえりのことを直視出来ず、目を合わせずに受け取る。


「あれ〜、せーんぱい?もしかして間接キス意識しちゃってます?」


 えりは目を少し細め、クスッと小悪魔的な笑みを浮かべ、からかうような口調で言ってきた。


「なっ!?」


 図星をさされ、動揺してしまう。顔に熱が篭り始めるのを感じた。


「ふふふ、先輩、顔が赤いですよ?」


 逸らす俺の顔を覗き込むようにしてくる。甘く惑わすような言い方が俺の耳をくすぐる。えりが余裕そうにしてからかってくるのが癪で俺はついズバッと強めに言ってしまった。


「うるさいな、意識して悪いかよ……」


 自分で認めたことが恥ずかしく、さらに顔が熱くなる。もう耐えきれず俺はえりから顔を逸らして身体ごとそっぽを向いた。


「え!?……え、えっと……、悪くないです……」


 なぜか少し驚いたような声がして、だんだん声が小さくなるえりの声が背後から聞こえてきた。






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