第91話 反撃43(好きな人)
「なあ、えり。もの凄い周りから注目を浴びているぞ」
ドキドキで胸が苦しくて俯いて歩いていると先輩が声をかけてきました。
「ま、また名前……。注目を浴びているのは分かってます。だから恥ずかしくて下を向いているんじゃないですか……。」
もう、名前呼びは反則です……!ドキドキが止まらなくなっちゃうじゃないですか!ああ、また顔が暑くなってきました……。
だいたい、こんな手を繋いで歩いている姿みんなに見られるのは恥ずかしいはずなのに、先輩なんでそんなに嬉しそうなんでしょう……?私は恥ずかしすぎて前を向けません。
私は自分の真っ赤になった顔が見られないように必死に下を向きながら先輩に連れられてゴールへ向かうのでした。
そろそろでしょうか。私は頃合いを見計らって顔を上げました。予想通り、私達はもうすぐゴール地点の場所まで来ていました。そんなゴール地点に見慣れた女の子の姿がありました。
「え!華!?」
驚きすぎて思わず、声が出てしまいました。
「あら、えり」
私の声に反応して、華がこちらを向きました。
「こんなところで何しているんですか?」
やることがあるって言っていましたが、一体なにをしていたのでしょうか?
「私がゴールの判定係なのよ。ちゃんとくじで指定されたものを借りてきたかどうかのね」
なるほど、そういうことでしたか。で、でもだったら言って欲しかったです。さっきから華が私と先輩の繋いでいる手を見てにやにやしていて恥ずかしいです……。
「神崎先輩は一体なにを指示されてえりのことを選んだんですか?」
華は先輩の方を向いて、私も気になっていたことを聞いてくれました。
「それはす……」
先輩はなぜか私の方をちらっと見て、話すのをやめてしまいました。今、「す…」って言いましたよね?言いましたよね!?
ちょっと、先輩!そこまで言って黙るのはなしです!とても気になるじゃないですか!
まだ分かりませんが、心が勝手に期待しちゃいます。早く言って欲しくてつい先輩の方をじっと見てしまいました。
「……ほらよ」
先輩はくじの紙を華に渡しました。華は中を確かめるため、折っておいた紙を開いて読み上げました。
「えーと、なになに……。あれ〜?神崎先輩、好きな人って書いてありますよ〜?」
「……え?え!?」
え?嘘!?本当に好きな人でした!
先輩のくじの内容が好きな人なのも驚きですし、その内容で私を選んでくれたことも驚きです!ああ、もう!嬉しすぎてにやけてしまいそうです。
なんとか口元が緩まないように力を入れますがそれでもにやけるのを抑えられません。
「そうだ、好きな人だ」
「ちょ、ちょっと先輩!?」
せ、先輩から好きな人って言われました……!もうなんなんですか!?これは夢ですか!?名前呼びでさえとても幸せだったのに、好きな人って言われるのはそれ以上です!胸が締め付けられすぎて苦しいです……。
どうにもならないと思いつつも、胸を抑えてしまいます。
「へ〜?そこは認めるんですね。どういう意味か分かっているんですか?」
そんな私をちらっと視線を送りにやりと笑いながら、華は先輩と話を続けていました。
「ああ、分かっている。好きな人は読んだその字のごとく、好ましい人、好感を持てる人という意味だ」
はぁ、ですよね。分かっていました。さっきまでの気分の盛り上がりが嘘のように冷静になりました。先輩が私をまだ恋愛対象として見てくれていないのは分かりきっていたのに……。
盛り上がっていた分、その落差でとても落ち込みます。
「好感を持てる、そういう意味なら東雲も多分好きな人だろう」
先輩は、そのまま言葉を続けます。
「……へぇ」
その言葉に華は言葉が意外そうにしました。私も少しだけ驚きます。先輩が誰かを受け入れている、その姿は私がずっと望んでいたものであり、じんわりと胸が温かくなりました。
よかったです。先輩が誰かと仲良くしているのを自覚して進んでいるのを知れて。少しだけ落ち込んだ気分が治りました。
「ただ雨宮はそんな友人の中でも大切な人だ。とても大事で絶対に失いたくないかけがえのない人だ。俺にとって雨宮は特別な友人なんだ。だからくじ引きの相手に選んだんだよ。文句あるのか?」
ホッと息を吐くのも束の間、先輩が信じられないことを次々と口にし始めました。
え?え!?ちょ、ちょっと、先輩!?なに言っているんですか……!?特別をそんなに連呼しないでください!嬉しいですけど、そんなに一気に何回も言われたら心臓が……。
肩でなんとか呼吸をし続けます。その下げて上げるのやめて下さい!先輩に言われたらすぐ喜んじゃうんです。先輩のそういうところずるいです!
ああ、またドキドキしています。先輩のそばにいると落ち着く間もありませんね。いつも心臓が鳴りっぱなしです……。
胸締め付けのあまりの苦しさに思わずしゃがんでうずくまります。はぁ、やっぱり先輩のこと好きです。
こうやって勝手に期待して先輩の言葉一つ一つに振り回されてそれでも嫌いになれず、ますます好きになっていきます。本当にもう手遅れなほど重症ですね……。
抱えた想いの強さに、ますます先輩のことが愛しくなります。
「ふふふ、いいえ、何もないわ、神崎先輩。先輩にとってえりが好きな人というのは認めましょう。それにこれ以上聞いたら、えりが保ちそうにないしね」
真っ赤になった顔を隠している私の頭上でそんな華の声が聞こえてきました。まったく、華、絶対楽しんでいますね。こっちは心臓が苦しくて大変なのに……。まあ、そこが華らしくていいのですが。
「?なにしてんだよ?」
先輩が不思議そうな声で話しかけてきました。
「…………先輩は無自覚に嬉しいことを言い過ぎです…」
私はこんなにドキドキしているのに、平然としている先輩に少しだけ腹が立ち、文句を言うようにしました。もう少し自覚してもらわないと私の心臓が保ちません。
言われるのは嬉しいのですが、嬉しすぎるんです。キュンとする言葉を何回も言うのはこれっきりにして欲しいです。
「ふふふ、神崎先輩の慌てた顔を見れましたし、もういいですよ。早くえりを連れてゴールして下さい」
こうして私は想像以上に先輩に赤面させられて借り物競走を終えたのでした。
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