第92話 意地悪44(次に向けて)
雨宮を連れてゴールした借り物競争は残念ながら一位になることはできなかったが、4位と悪くない順位だったので十分満足できる範囲だった。
その後顔を真っ赤にしたままの雨宮と別れて、自分のクラスに戻った。
クラスメイト達が活躍しているのを見ながら、自分の競技が来るのを待つ。しばらく眺めていると、体育祭実行委員の仕事を終えた東雲が戻ってきた。俺と目が合うとにやっと笑って近寄ってくる。
「やあ、神崎くん」
「おう、東雲。意地悪のアドバイスありがとな」
東雲のおかげで借り物競走の意地悪は大成功したので、その礼を言っておく。
「役に立ったならよかったよ。雨宮さんの反応はどうだったんだい?」
俺の返事を聞いて東雲は楽しげに微笑む。
「ああ、めちゃくちゃ真っ赤になっていた。特に東雲の選んでくれたくじの内容を伝えた時とかにな」
あの時の真っ赤になっていた雨宮を思い出し、つい口角を上げてしまう。
「随分楽しそうだね。神崎くんがにやけてしまうぐらいに、雨宮さんは真っ赤になっていたのかい?」
少しだけ目を大きくして、驚いたようにする東雲。
「ああ、それはもう夕焼け空ぐらい赤くなっていた。あれは相当怒っていたな」
「ふふふ、そうだね。そんなに意地悪されたならきっと雨宮さん大変だっただろうね」
なぜかクスクスと笑いながら俺の言葉に同意してくる。
「ああ、俺の意地悪が最高過ぎたからな。雨宮にとっては大変な思いをしたはずだ」
話している内容は俺が思っていることと同じはず。それなのになぜ東雲が可笑しそうに笑っているのか理解できない。
「なんでそんなに笑っているんだ?」
思わず少しだけ圧をかけるような口調で聞いてしまった。
「いや、相変わらず神崎くんの意地悪がね……」
クスクスと笑い声を抑えながら話すので、最後の方が聞こえなかった。
「なんだよ?」
「な、なんでもないよ。まあ、そこまで雨宮さんを追い込めたなら良かったじゃないか」
どこか誤魔化すようににやっと笑ってそう言ってきた。
「まあな、あの真っ赤になった反応からしても、雨宮のことを追い込めたと思っている」
まったく、こいつも俺と同じく意地悪が好きだからな。俺だって楽しかったのだから、東雲が話を聞いてこんなに楽しそうにするのは無理もない。こういうところが気が合うと言うのだろう。
「じゃあ、次の二人三脚も頼むよ?」
「ああ、任せとけ。そっちこそ俺と雨宮をペアにする話は大丈夫なのか?」
「ばっちりだよ、ちゃんと僕と華が二人三脚の委員になったからね」
得意げな表情ににやりとする。
「そうか、なら安心だな」
こいつの準備の良さは、これまでのことからも信用できる。
「借り物競走の時と同じようにこの紙を持って来てくれればいいよ。華が雨宮さんに神崎くんと同じ番号のくじを渡しているはずだから」
そう言って東雲は俺にまた借り物競走のくじと似たような紙切れを渡してきた。
「なるほどな。分かった」
くくく、これでまた雨宮に意地悪できるな。二人三脚も楽しみだ。俺は心の中でほくそ笑んだ。
こうして、俺と東雲の協力の元、二人三脚の競技の幕が開けた。
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