第69話 反撃33(お姫様抱っこ)

 ゼリーを食べていると先輩のことが少し気になり、先輩に視線を送ります。すると先輩は私のことを見ていて、バッチリ目が合いました!私は慌てて逸らしてしまいます。


 ですが、やっぱり気になるので先輩の方を見ると、まだ私のことを見ていました…!

もう、いつまで私のこと見ているんですか?流石にそんなに見られるのは恥ずかしいです…。


 なんとか羞恥に耐えながらゼリーを食べ終わりました。さっきは先輩に私を意識してもらうことに成功しました。ですが急に先輩が照れるから私まで照れてしまいました。


 今度こそは完璧に先輩を意識させてみせます!


 んー、でもどうやって意識させましょうか?やっぱりくっつくのが1番な気がします……。


 わ、私から先輩にくっつきにいくなんて、想像するだけで恥ずかしいですが、ここが勝負です。頑張らないと!自然にくっつくとなれば、あれしかないですね。


 ふふふ、先輩、覚悟して下さい!

 これからやることにドキドキする心臓を抑えながら、私は立ち上がりました。


「あ!」


 わざとらしくならないように、声を上げます。


「どうした?」


 先輩が不思議そうな顔でこっちを見上げてきました。


「せ、先輩に飲み物出すの忘れてました!下から持ってきますね!」


「いい。すぐ帰るから、大丈夫だ。大人しく寝てろ」


 すみません、先輩。私のこと心配してくれて、そう言ってくれるのはありがたいのですが、今は先輩には意識してもらいたいんです!


「あっ……」


 先輩の注意を無視して、一歩進んだところでわざとつまづきます。


「は?」


 私は先輩の方へ倒れ込みました。案の定、予想した通り先輩は座ったまま私を抱き留めてくれます。


 わ、わぁ!?ち、近いです……!


 自分からやったことですが、こんなに近いとは思いませんでした。先輩の心臓の音が聞こえてきそうです。やっぱりこれだけ近いと先輩の匂いもよく分かります。


 この匂いはいつ嗅いでも落ち着きますね……。


「なにやって……」


 先輩が慌てたような声を上げました。当然です、私が急に倒れ込んできたんですから。先輩の方を向くと先輩と目が合いました。

 目が合った瞬間、先輩は言いかけていた言葉を失って固まります。目が合ったまま先輩のことを見続けていると、だんだん先輩の顔が赤くなり始めました……!


 わぁ!まだ見慣れません……!赤い顔の先輩は可愛くてドキドキしますね……。


「ご、ごめんなさい、先輩」


 流石に倒れ込むのは怪我する危険性もありましたし、やりすぎました。ですが、こんな赤い顔の先輩を見れたなら、恥ずかしかったですが頑張ってくっついてみてよかったです。


「ふふふ、顔が赤いですよ?」


 いいですね〜先輩が恥ずかしがってる姿は。思わずにやにやしちゃいます!


「うるさい、気のせいだろ」


「ふふふ、そうですね、そういうことにしておきますね〜」


 そんな強い口調で言ってきても、嘘はバレバレですよ?まあ、そんな意地っ張りなところも好きですから、いいんですが。


 先輩の反応が可愛くてにやけていると、先輩は少しだけ眉間にシワを寄せて、私に言い聞かせてきました。


「まったく、何転んでんだよ。危ないだろ。」


「え、あ、はい。すみません」


 真剣な声で言われてしまいました。流石に反省しないと……。


 先輩の言葉にしゅんと大人しくします。すると私が大人しくした瞬間でした。


「ひゃ、ひゃあ!?ちょっと、先輩!?」


 私を仰向けにするように身体を動かして、私を抱え上げました……!


 え?ちょ、ちょっとこれって…….。


 一瞬何が起きたか分からず、頭の中は真っ白になります。ですがすぐに今の私の状況を理解しました。これは、お姫様抱っこです!


 おそらく私をベッドに戻そうとしてくれたのでしょうが、急すぎます……。急にお姫様抱っこなんて、反則です!こんなのドキドキしちゃうに決まってるじゃないですか。


 せっかく先輩を意識できたのに、またやり返されてしまいました……。ああ、顔が熱いです。今頃私の顔は真っ赤に染まっているでしょう……。


 ちらりと頭上の先輩の様子を伺うと、先輩は私を見ていたらしく、目が合いました。


「どうした?雨宮、顔が真っ赤だぞ?」


「……っ!?そ、それは、先輩が……」


 今の先輩のセリフ、私がからかった時とまったく同じセリフです。こんな形でやり返されるなんて……。


 私は先輩と話しているだけでもドキドキするんですから、やり返されたら赤面しちゃうのは当然です。しかも先輩、わ、笑いました……!今、先輩がまた笑いました!


 ああ、もう。先輩の笑顔には弱いって分かっているのに笑顔を見せられたら、もう無理です。ときめかないはずがありません。心臓の音がうるさいくらい拍動しています。


「なぁ、雨宮、心臓がうるさいんだが、大丈夫か?」


「……だ、大丈夫じゃないですよ……!こんな格好で抱き上げられたら、ドキドキするに決まってるじゃないですか!?」


 何当たり前のことを聞いているんですか!?先輩が私をドキドキさせているくせに、そんなこと聞いてくるなんて意地悪です……!


「こんな格好?抱き上げただけだろ?」


「お姫様抱っこですよ!?それを好きな人にされれば、ときめかない方がおかしいじゃないですか…。それに先輩とこんなにくっつくいていたら、ドキドキはいつまで経っても治らないです…。」


 まったく、お姫様抱っこされてドキドキしない女子がいるわけありません。それにこんなにくっついたらそれだけで、胸が締め付けられるくらい嬉しくなるんです。


 先輩の体温はじんわりと服越しに伝わってきますし、先輩の低めの声が近いのでよく聞こえます。それに先輩の匂いがより濃く感じるので、それだけで心臓の音が鳴り止みそうにありません。


 ああ、本当にいい匂いです。もう顔を先輩の胸に埋め込んで嗅ぎたいくらいです。もう、本当にお姫様抱っこはドキドキします……。


 私は真っ赤になったまま先輩にお姫様抱っこされ続けるのでした。

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