第67話 反撃32(あーん2)

「じゃ、じゃあ、ここに座ってください」


 せ、先輩が私の部屋にいます。昨日は先輩のお家に行きましたが、また別の緊張感がありますね……。自分の部屋に好きな人がいるのは、それだけでドキドキします…….。


 まさか、先輩が見舞いに来てくれるなんて思いもしませんでした。もしかしたら、午前中にメッセージ送った華が何かしてくれたのでしょうか?もしそうだったら、感謝をしなくちゃいけませんね。


 先輩と一緒に過ごせる幸せな時間をくれたのですから。でも、先に連絡ぐらいはして欲しかったです。急に先輩に会うのは心臓に悪すぎます……。先輩に会うのにはやっぱり心の準備が欲しいです……。


「……お、おう」


 先輩を座布団に案内して、逆側に座ろうとすると先輩から声をかけられました。


「雨宮はまだ風邪なんだからベッドに入ってろよ」


 真面目な表情でこっちを見てくる先輩。その鋭い視線に少しだけドキッとしてしまいました……!


「へ?わ、分かりました。じゃあ遠慮なく……」


 ふふふ、先輩が優しいです!どうしたんでしょう?身体を労ってくれるなんて思いもしませんでした!


 やっぱり熱が下がったとはいえ、まだまだ本調子じゃないので起きているのは辛かったので、先輩の優しさがありがたいです。こういうところで優しくしてくれるから、好きになるのを止められないんですよね……。


「身体、大丈夫なのか?」


 こちらの様子を伺うようにして見てきます。

 し、心配してくれているのは分かりますが、そんな目で見られたら、せっかく落ち着いたのにドキドキしてまた体温が上がってしまいます……。


「はい、ずっと寝ていたので随分と体調は良くなりました」


 先輩に心配はかけたくないので、少しだけ嘘をつきます。

 ですが、先輩は私が調子が悪いままなのを気づいているみたいで、いつまでも心配そうに見てきました。


 ふふふ、本当に優しい先輩です!


「これ、やる……」


 少しの間、沈黙が訪れると、先輩がおずおずと手に持っていたビニール袋をくれました。


「これ、なんですか?」


 袋の中にはずしりと重さを感じる何かがありました。


「見舞いの品だ。ゼリーとか、スポーツドリンクとか」


「わぁ、わざわざありがとうございます!」


 先輩から貰ってしまいました!先輩から貰えるならなんだって嬉しいです。こんなところでも気を使ってくれるなんて、本当に優しい先輩です。


 あ、ゼリーがありました!


 袋の中を覗くと、桃味のゼリーが入っていました。


 ふふふ、これは使えそうです。


 キスのおかげか、既に少しは私に対して意識してもらっているみたいですし、ここでさらに追い討ちをかけます。


 さあ、先輩!私をもっと意識してもらいますからね!


「なぁ、あま……「先輩!私、ゼリー食べたいです。食べさせて下さい」」


 先輩が何か言いかけていましたが、それより早くゼリーを食べさせて欲しいとお願いします。


 先輩にペースは握らせません。先輩から進んでしてもらえると、私ばっかりドキドキして全然先輩には意識してもらえませんからね。


 昨日、カレーの時に何度もお願いさせられたおかげで、スムーズに口にすることができました。まったくあの時の先輩は本当にドSでした……。


 ま、まあ、あんな先輩でも好きだからいいんですけどね?い、今はそんなことは置いておいて、先輩をからかって意識させないと!


「わ、分かった。ほらよ」


 目を閉じて、口を開けて待っていると柔らかさと少し冷たいプリンとした感覚が口の中に入ってきました。


「ふふふ、桃ゼリーです。甘くて美味しいです!」


 久しぶりに桃ゼリーを食べましたがやっぱり美味しいですね。美味しいものは食べるだけで幸せな気分になります。


 んー、でも、あーんはあんまり先輩には効き目がないみたいです。もう何回もしてもらっていますし、いまいちですね。


 あ!いい方法を思いついてしまいました!ふふふ、先輩?覚悟して下さい!


「先輩!もう一回お願いします!」


「はいはい、ほら」


「ふふふ、せ〜んぱい?これあーんですよ?私たちカップルみたいですね〜?」


 やっぱりされるがままってのがよくなかったんです。ここで一回カップルぽいってことを言っておけば、先輩だって少しは意識してくれるはず……。


「なっ!?」


 ちらりとからかう表情をしながら先輩の方を伺うと、顔がほんの少し赤くなっています……!


 しかも、ついっと私から目を逸らしました……!


「……え?え!?せ、先輩が照れないでくださいよ……」


 先輩が照れました!?あの赤い顔ってそういうことですよね!?わぁわぁ、どうしましょう、どうしましょう!?!?


 頭の中は軽くパニックです。意識してくれるとは思っていましたが、まさか照れるなんて思いもしませんでした……。なんですか、あの赤くなった先輩は!


 あの照れた時の先輩の顔が脳裏に強烈に焼き付いています。その姿を思い出すとぎゅうっと心が強く締め付けられます。


 こ、これはすごいです……!く、苦しすぎます……。


 これまでも何度かキュン以上に苦しい時がありましたがその比ではありません!もう苦しすぎて呼吸が危ういです……。ドキドキで身体が熱いです。まるで熱そのものになったみたいです。意識させるつもりが、結局自分も照れてしまいました……。


「照れてねえよ。変な勘違いすんな。ほら、早く食え」


 先輩は早口で捲し立てて、強引にゼリーを食べさせてきます。照れてないと言い張っていますが、やっぱり先輩の顔は赤いままです。


 もう、そんな顔見せられたら、もっと好きになってしまうではないですか……。


「……も、もう終わりだ。あとは自分で食べろ」


 先輩からのゼリーを食べると、すぐに私に残りのゼリーとスプーンを渡してきました。


「は、はい……」


 結局、私は真っ赤に染まったまま、赤い顔の先輩を横目にゼリーを食べ続けるのでした。

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