第53話 被害25(雨宿り)

 凄いドキドキしました……!落ち着かないと!


 スーー、ハーー、スーー、ハーー


 深呼吸を何回も繰り返し、落ち着きを取り戻します。やっと慌ただしかった心臓が平常に戻ったので先輩の方に振り返ります。


「仕方ないですから、勝手にプニプニしてきたことは許してあげます」


 私ばっかりドキドキしていたらダメです。先輩を意識させるんです!自分がときめいていたのを悟られないよう、強がる表情を先輩に見せて誤魔化します。


「それで、えっと……」


 これは言っても大丈夫でしょうか?華が言っていたし大丈夫だとは思うのですが……。


「どうかしたのか?」


「……きょ、今日、一緒に帰りませんか?」


 せっかく放課後一緒にいられるのですからもっと長く一緒にいたいです。そばにいて先輩の存在を感じていたいです。少しでも先輩を笑顔にしたいです。


 断られたらどうしましょう……。やっぱり言わない方が良かったでしょうか……。でも……。


 ぐるぐると頭の中で誘ったことへの不安と期待が渦巻いて、だんだん訳が分からなくなってきました。じっと先輩の方を見つめ答えを待ちます。


「ああ、いいぞ」


「ほんとですか!?やった!」


 嬉しすぎてついガッツポーズをしてしまいました。


 ふふふ、もっと長い時間先輩と一緒にいられます!頑張って誘って良かったです!嬉しすぎてにやけてしまいます。


「じゃあ、帰りましょう、先輩!」


 先輩の隣に立って指差します。


「そうだな」


 こうして私は先輩と一緒に帰れることになったのです。


 校門を出てしばらく歩いていると先輩が口を開きました。


「これからも一緒に帰るか」


「……え?え!?」


 一瞬、先輩の言ったことが理解できず、頭の中が真っ白になりました。


「これからも用事ない時は一緒に帰ろうって言ったんだ。返事は?」


「……イ、イエスです!もちろんイエスです、先輩!」


 え?え!?どういうことですか!?もちろん、先輩と一緒に過ごせる時間が増えるので嬉しいですが、なんでこんな急に!?先輩の考えていることが分かりません。


「じゃあ明日からよろしくな」


「は、はい。これから先輩と毎日放課後一緒にいられるんですね!もうとても嬉しいです!」


 急な提案に戸惑いもありましたが、それでもやっぱり先輩と一緒にいられるのは嬉しいです。これからは毎日放課後一緒です!もっとたくさん先輩と話せるなんて夢見たいです!


「俺も明日から楽しみだよ」


「ふふふ、私も楽しみです!」


 こうしてよく分からないうちに、先輩とこれから一緒に放課後過ごせることになりました!


 ポツポツポツポツ


「わぁ!?先輩、雨降ってきましたよ!?」


 しばらく歩いていると、曇り空から雨が降り始めてきました。


「雨宮、傘持ってるか?」


「いえ、先輩は?」


「持ってない、仕方ない雨宿りするか…」


 ザァザァザァザァ


 そんなことを話していると雨が強くなってきました!


「きゃあ!?先輩あそこ入りましょう!」


「おう」


 ちょうどよく見つけた建物の屋根の下に慌てて避難します。


「凄い雨ですね。もう服がびちょびちょになってしまいした」


 屋根の下に入り、雨の様子を伺うと景色が霞むほど強く雨が降り注いでいます。地面に落ちる滴は跳ね落ち、一面水浸しです。


「そうだな……っ!?」


「先輩?」


 言葉を詰まらせて言い淀むなんてどうしたんでしょう?


 言葉を失った先輩は私をじっと見つめています。あまりに変な行動に思わず首を傾げてしまいました。


「なんでもない……」


「ふふふ、変な先輩ですね」


 先輩らしくない言い方が少し面白いです。クスリッと笑みが溢れ出ました。


 ザァザァザァザァ


 それっきり先輩は黙ったままになったので、私も口を閉ざします。異様に強く雨音が耳に入ってきます。不自然に黙ったままの先輩に違和感は感じながらも、ただ呆然と土砂降りの雨を眺め続けます。


「……ん」


 不自然な沈黙を破るように、先輩は着ていた制服の上着を脱ぎ、私に渡してきました。


「……?なんですか、これ?」


「服透けてるから、これで隠せよ」


「……え?え!?」


 嘘!?それってつまり……。慌てて下を見ると、透けて水色の下着が薄く見えています……!


 雨に濡れて冷えた身体が、ぼわぁっと一瞬で沸騰しそうなほど熱くなるのを感じました。急いで先輩から制服を受け取り、前を隠します。


「み、見ましたよね、先輩?」


 渡してきたってことは完全に見たってことですよね?好きな人に見られるなんて恥ずかしすぎます!これならもう少し気合の入れた下着を着けておけば良かったです……。


 ドキドキとうるさい心臓にますます先輩を意識してしまいます。もはや先輩を直視できず、貰った制服で顔まで隠してしまいました。


「見えたから言ったんだろ。とっとと隠せ」


 先輩はぶっきらぼうに言ってきますが、こっちを見ようとはせず、目を逸らしています。もしかして少しは意識してもらえたのでしょうか?


「わ、分かりました」


 先輩が逆を向いたので、ありがたく先輩の制服を急いで着て身体を隠します。


「も、もういいですよ……。制服ありがとうございます」


 まだ恥ずかしくて先輩の方を見れません。見ようとするたびに顔に熱が篭るのが分かり、どうにもできません。止むを得ず下を見続けます。ちらっとだけ先輩の様子を確認すると、居心地悪そうにして、私の方を見ようとはせず、不自然なほどに雨の方を見ています。その頰は少しだけ赤くなっています。


 その姿にドキッと心臓が締め付けられます!やっぱり意識してもらえたみたいです……!


 嬉しいような恥ずかしいような感じで心がムズムズします。もっと別なことで意識してもらいたかったですが、どんなことであれ女の子として見てもらえたのは嬉しいです……!


 まあ、恥ずかしすぎて自分からはもう二度と使えない手ですが。少しだけ進歩したことを実感して喜びを噛みしめる私でした。

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