第37話 被害17(仲間)

 先輩が話しかけに来ていいと言ってくれました!嘘みたいです!信じらません!私は夢の中にいるのではないでしょうか……。


 私は先輩と別れ家に帰るとすぐベッドに飛び込み、今日あったことを思い出していました。


 最初の待ち合わせから始まり、今日は色々ありすぎました。

 先輩はどこまでもかっこよくて優しくて、でも冷たい態度を取ってくるのは変わらなくて、私の気持ちは振り回されっぱなしでした。


 あんなに色んなことをされて好きにならないはずがありません!普段冷たいくせに肝心な時だけは優しくしてくれるんですから、ずるい人です。


 今日一日でますます好きになってしまいました。本当は今日告白なんてするつもりなかったのに、あんなに好きが高まったら、我慢できません。


 これ以上迷惑をかけたくなくて告白したのに、まさかまた話しかけていいって言ってくれるなんて思いもしませんでした。


 あの時の顔はほんの少しだけ優しかった気がします。自分の言葉であの優しげな表情を引き出せたことがとても嬉しいです。


「〜〜〜〜っ!」


 今思い出しても胸の内が温かくなって、思わずベットの上で足をばたつかせます。


 今回の告白で少しだけ先輩との距離が近づいた気がします。期待してもいいのでしょうか?先輩の隣に立つ未来を想像してもいいのでしょうか?


 私が先輩の隣に立つ資格がなかったとしても、それでも叶えたい願いがあります。私は先輩に幸せになってほしいです。幸せになって笑顔を自然に見せるようになってほしいです。


 この願いが叶うかどうかはわかりません。ですが叶えるための努力をしなければ願いは叶わないことだけは分かっています。

 少しでも人と関わり合うことの楽しさを知ってもらうためにも、明日からもっと関わるとしましょう!


 こうして私は明日からもっと頑張っていくことを決意したのです。

 決意を新たにし、この先について考えを巡らせ始めた時でした。


ピリリリリ


 スマホから着信音が鳴り響きます。鳴り止まないことから電話のようです。


一体誰でしょうか?


 画面を見ると『晴川華』と表記されていました。


「はい?」


「あ、えり?今日のデートどうでしたの?連絡が来ると思って待ってましたのに…」


「あ、ごめんなさい、華。連絡を忘れてました」


 華にはこれまでも何度も好きな人について相談してきました。華も私の恋が報われるのは難しいのを知っているのか深くは聞いてきません。軽薄に大丈夫だと口にしないそんな彼女が私は大好きです。


「ちょっと!まったく、私の心配を返してほしいわね。それでデートどうでしたの?」


「えっと…。こ、告白しちゃいました…」


 あの時のことが脳裏に一瞬蘇り、カァッと頬に熱が篭ります。先輩はいないのに思い出すだけでドキドキします……。


「こ、告白〜!?なにしてんのよ、えり!?あなた、あれだけ自分は嫌われているからこの恋は叶いそうにないって言っていたじゃない」


「そ、そうなんですけど、あまりにかっこよすぎてどんどん気持ちが高まってしまいまして…」


「それで、返事は?」


「私と話すのは悪くなかった。また話しかけて来いって」


「なるほどね、普通の人がそんなこと言っていたらキープしているみたいで最悪なんだろうけれど、あの神崎先輩がそう言ったとなると意味が違ってくるわね」


「そうなんです!これまで1度も人と関わり合おうとしなかった先輩が、話しかけていいって言ってくれたんです!もう幸せです!」


 自然と頬が緩みます。ああ、きっと今私にやにやしているに違いありません。


「いいじゃない。これでもしかしたらえりも付き合える可能性が出てきたんじゃない?あの先輩がそんなことを言うなんて相当よ?自惚れてもいいんじゃない?」


「や、やっぱりそうなんでしょうか…?ま、まあ、付き合う付き合わないを抜きにしても先輩にはもっと笑顔を見せてくれるようになってほしいので、そこは頑張っていきます」


「ふふふ、相変わらずえりは健気ね。でもせっかく少し距離感が近くなったのだし、我儘の一つや二つぐらい言っても大丈夫だと思うのだけれど」


「我儘というわけではないのですが……、先輩の手作り弁当は食べてみたいです……」


 うう、親友に言うだけでも恥ずかしいです……。先輩に直接言えそうにはありません……。


 もし弁当を貰えたなら私が先輩に弁当を作ってあげる流れも作りやすいですし、弁当を作り合うのはなんというか恋人っぽいので憧れます……。


「可愛い願いね。これまでは上手くいきそうにないって聞いていたから、敢えて手伝ったりはしなかったけれど、2人の距離は近くなったみたいだし、これからはもっと協力していくわね!」


「え、いいですよ!これまでのままで十分助かっていました。本当に華には感謝しかありません」


「そう言わないで。協力していくから明日は楽しみにしてて?」


「楽しみですか?」


「ええ、そうよ。用事が出来たから電話切るわね。おやすみ」


「は、はい、おやすみなさい」


 そう言って華との電話は終わりました。


 一体何だったんでしょうか?協力してくれるのは嬉しいのですが、なにをする気なのでしょう?


 華の提案を不思議に思います。


 それにしても、明日からまた先輩と話せるなんて本当に幸せです!もう出来ないと思っていたことがまた出来るなんて本当に夢みたいです。


 ああ、早く明日になって先輩と話がしたいです!


 わずかな戸惑いと明日への期待に胸を膨らませて私は床に就きました。

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