第31話 意地悪15(猫カフェ)

 ご飯を食べ終えた俺たちはお店を出た。

 俺は上手くいった作戦の時のことを思い出す。雨宮は俺の精神攻撃によって最後の方は黙って食べていたな。


 くくく、あの真っ赤に染まった間抜け面は最高だった。


 このままいけばこのお出かけが終わる際に、一言二言罵倒の言葉があってもおかしくない。何と言って罵ってくるのか、今から楽しみすぎる!


 次の意地悪を仕掛け、雨宮をもっと追い詰めてやるわ!


「よし、雨宮。ご飯も食べたし、次の場所移動するか」


「そうですね!先輩に連れてきてもらったこの店凄い良かったですし、次の場所も楽しみです!どこに行くんですか?」


 余程テンションが上がっているのか、顔が上気している。かといっていつものようなのかというとそうではなく、目は輝き、真っ直ぐこちらを見てきた。どうやら大層この店を気に入ったみたいだ。


「ああ、結構歩いて疲れてるだろうし、休憩がてらカフェにしようかと」


「いいですね!気を遣ってもらってありがとうございます!」


「気を遣うというか俺が疲れた」


「それは、普段先輩が寝てばかりいるからですよ?少しは運動しましょう?」


「やだよ。その時間あったらもっと寝る」


「えー、じゃあ、この可愛い私が相手してあげますから!ほら、運動したくなってきたんじゃありませんか、先輩〜?」


 いつものからかう表情で見てくる雨宮。何回も見ているがいつ見てもうざいな。


「いや?まったく。むしろよりやる気を失ったわ」


「なんでですかー!!」


 頰を膨らませて睨みつけてくる雨宮。

 いや、睨まれてもまったく怖くないわ。それ絶対狙ってるだろ。そんなことに俺は騙されない。


「いいから、行こうぜ」


「先輩、誤魔化さないで下さいー!!」


 こうして俺たちはカフェへと向かった。しばらく歩き目的の場所に到着する。


「せ、先輩!?もしかしてここって…!」


「ああ、猫カフェだ」


 カランカラン、ドアを開けるとベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」


 店員が出てきて、色々説明を受けた。


「では、お楽しみください」


 説明を終えた店員はそう言って下がっていった。


「先輩!猫がたくさんいますよ!」

 目を輝かせ、ちょこちょこと歩いて猫へと近づいていく。


くくく、何も知らないで喜びおって。


 俺の作戦はこの部屋に入った時点で完了している。雨宮は可愛いものが大好きだから猫たちを撫でて抱くだろう。そして時間がきて終わった時に気付くのだ。自分の服が毛だらけだと。


 自分の服の状態に気づいた雨宮は落胆し、一気にテンションは下がるのだ!


 猫を愛でてテンションが上がったところからの落下。この落差に雨宮のメンタルは崩壊するに違いない。


 さあ、猫どもよ、雨宮の服を毛だらけにするのだ!


 こうして俺の作戦は実行された。


♦︎♦︎♦︎


「せ、先輩ー!」


 しばらく経ち、俺は自分の計画の甘さを痛感していた。涙を見に浮かべ、俺に泣きついてくる雨宮を横目に計画を見直す。


 失敗の原因はわかっている。雨宮が猫に嫌われすぎなのだ。1匹も寄り付かない。


「ずるいです、先輩!なんで先輩の周りにばっかり猫が群がっているんですかー!」


 そう、そしてなぜか俺の方に殆どの猫たちが集まっていた。

 猫どもよ、しっかり仕事をしてくれ。毛だらけにするのは俺じゃなくて雨宮だ……。


 そう心の中で目の前にいる猫にお願いしてみるが、クリクリした瞳で、にゃー、と鳴くだけだった。


 はぁ、仕方ない、いつまでこうしていても現状は変わらない。多少強引だが俺が直接手を下すとしよう。


よいしょ


 一番大人しそうな猫をすっと抱き、雨宮の方へ向かう。


「ほらよ、抱いてみろ」


「あ、ありがとうございます!で、でもどうやって抱いたらいいんですか?」


 抱き方が分からないようで猫を前にしておどおどと慌て出す。


「知らないのか。とりあえず抱えて。教えるから」


 抱いてもらわないと服が毛だらけにならないだろうが。


「こうやって、こうするんだ」


「え?え?こ、こうですか?」


「違う違う。こうだ」


 教えようとはしてみるが、向かい合った状態だと腕の位置などが上手く伝わらず悪戦苦闘する。


 そうか!後ろから教えればいいのか!


 どうしたものか考えているとふとそう思いついた。


「こうやるんだぞ」


「え?先輩?」


 雨宮の背後に回り包み込むようにしてその両手を取り、位置を指導していく。

 格好的に耳元で囁く形になってしまったが、まあいいか。


「ひゃ、ひゃあーー!?ちょっと、先輩!?み、耳が!手が!」


「雨宮うるさい。ちゃんと聞け」


「!?は、はい、すみません…」


 変な声を上げるので黙るように耳元で言うと、ビクッと体を震わせたあと静かになった。


 その後猫の抱き方の説明を終え、雨宮から離れると、真っ赤に染まったうなじが目に入る。


 なんだ?


 ……そうか!毛で服が汚れることに気づいたな?俺が意図して猫を仕向けて怒っているのか。


 くくく、それならそれでやりようがある。


 またしても新たな意地悪を思いついてしまった。


「ほら、雨宮、こっちの猫も抱いてみろよ」


「い、いや、猫を抱くのはもう…」


「俺がもう一回教えてやるから、な?」


「も、もう一回あれをやるんですか!?わ、分かりました…」


 くくく、顔が真っ赤に染まってやがる。内心の怒りが今にも爆発しそうだな。

 怒っているのにわざともう一回抱かせてやるとは最高の意地悪だ!


 こうして俺は、抱く猫を変えては何回も雨宮に猫の抱き方を教えてやったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る