第17話 意地悪8(ビデオ通話)
さて、どうするべきか。身長で屈辱を与えることには成功したが、通信制限の方は失敗してしまった俺は、次の作戦について考えていた。じっと思考を巡らせ続け、ふと気がつく。
別に写真にこだわる必要はないな。動画の方が通信量が大きいし、そっちにするか。早速実行するとしよう。
「わかった、雨宮。ツーショットはなしでいい。その代わり今日の夜、いや今週のどこかでいいからビデオ通話しないか?」
流石に動画を撮って送り合うのはなかなか難しい。撮るものがないし、今すぐどうこうというわけにはいくまい。だがビデオ通話なら話すだけで済むし、夜のメッセージのやり取りの代わりにもなる。
さらにビデオ通話には素晴らしいことがある。夜ビデオ通話をするということは家での無防備の姿を見せるということ。よほどの相手じゃなければ嫌なはず。
女でも親しくなければしたくないのだから、もちろん男の俺など嫌だと思うに決まっている。だが俺が先輩という年上としての立場からお願いすればあいつは嫌だと思っていても断れない。
嫌だと思いながらもビデオ通話をしなければならないなど、雨宮からすればたまったものではないはずだ。まさに名案すぎる。くくく、俺の意地悪の才能が恐ろしい。
「ツーショットの次はテレビ電話ですか?別にいいですけど何でですか?」
やはり理由を尋ねてきたか。問題はここだ。ここでふざけた理由を言っても警戒されるだけだ。嘘をついてでもでっち上げるべきだろう。まあ、いつ聞かれても誤魔化せるように曖昧にはしなければ。ふむ、どんな理由がいいか…。よし、これでいくとしよう。
「ああ、実は大事な話があってな。夜どうしても話したいんだ。ビデオ通話なら顔を見せて話せるし。」
我ながらよく考えている。大事な話、こう言えば、具体的な内容は言っていないがそれでも聞かなきゃと相手に思わせられるのだ。
「だ、大事な話ですか?それって私じゃないとダメな話なのですか?」
雨宮は少し顔を赤らめ、チラチラと視線を送ってくる。
「ああ、お前に言わなきゃ意味がない。別に今日じゃなくてもいい。都合のつく日で構わない。」
そりゃそうだろ。お前に対する意地悪なんだから。他の人にやってどうするんだよ。
「い、いえ!別に今日で大丈夫です!わかりました。今日の夜楽しみにしています。それではそろそろお暇しますね。バイバイです、先輩!」
雨宮は急に顔を強張らせ、緊張した面持ちでそう述べ、教室から出て行った。なぜあんなに緊張していたのかは気になるが、何はともあれ誘いはうまくいった。
くくく、夜が楽しみだ。
〈夜、自宅〉
夜9時過ぎ、雨宮にRINEで確認したところもう大丈夫だそうなので、電話をかける。プルル、プルルと通知音が鳴り響く。
今頃雨宮は憂鬱な気分なはずだ。ははは、それを想像するだけで気分がいい。きっと俺の学校での安眠はもうすぐだ!
通知音が何回か繰り返された頃、「はい、雨宮です。」と聞こえてきて、俺と雨宮のビデオ通話が始まった。
「…っ!よ、よう、雨宮。昼以来だな」
「そ、そうですね、先輩」
画面に映る雨宮の姿に言葉を忘れ、一瞬目を奪われる。お風呂上がりらしくほんのり肌が朱に染まり、上気した顔。その色っぽさは普段のそれをはるかに超えており、思わず生唾を飲み込む。
髪は完全に下ろしており毛先は巻かれておらず、完全に広がっている。そこからも雨宮がセットをしておらず、寝る前の無防備な状態であることがわかる。
普段している薄化粧も落とされ、どこか普段より幼さを感じさせてくるが、やはり美少女というだけあってその魅力自体は損なわれていない。そんなあどけなさと色気の相乗によってその破壊力は抜群だ。
雨宮に興味のない俺でさえ、男の本能が刺激されてしまう。極め付けはその服装だ。普段着ている制服とは打って変わって首元は緩く、昼間隠されている肌がチラチラと見え隠れする。
俺も男な訳で、そんな肌に視線が吸い寄せられそうになるのを懸命に堪える。危ねえ。女子の無防備な姿がこれほどとは想像以上だ。
だがこんなことを気にしていてはいけない。これから長時間話して、雨宮の通信量を増やしてやるのだ!
「せ、先輩!そ、それで大事な話というは…?」
雨宮の魅力に取り憑かれ言葉を失っていると、いつになく真剣な表情で雨宮は問いかけてくる。
「あ、ああ、すまない。本当は大事な話などないんだ。こうやって雨宮と面と向かって話してみたくてだな…。」
目的は達成されたしもう嘘つく理由がない。さっさと打ち明けるとしよう。
「へ?大事な話は何もなかったんですか?」
緊張が解けたのか間抜けな顔を晒す雨宮。その腑抜けた顔に今まで纏っていた色気まで吹き飛ぶ。まったく、こういうところが残念美少女なんだよな。
「あ、ああ。こうやって話すために言っただけなんだ。大事な話と言えば雨宮なら断らないだろうと思ってな」
「んーーーっもう!!それならそう言ってくださいよ!先輩の誘いならそんなこと言われなくても断るわけないじゃないですか!妙なこと考えて、変に緊張しちゃったじゃないですか…」
顔を赤くして、はぁぁと大きく息を吐く雨宮。
「妙なこと?ってなんだよ」
「え!?そ、それは、もしかしたら告白されるのかなーなんて…」
俺の問いかけにみるみる肌が赤くなり、ボソボソと俯きながら小さく呟く。
だがもちろん、そんな小声ではスマホが音を拾うはずもなく、俺には雨宮が口をパクパクさせているようにしか見えなかった。
「悪い、上手く聞こえなかった。もう一回頼む」
「もういいですから!それより今後はそんな嘘やめてくださいよ!?本当に私の心臓に悪いですから…」
頰を赤くし、涙目でお願いをしてくる雨宮。どうやら俺の大事な話を変なふうに勘違いしていたらしい。
「悪かった。今後はやめておく」
「はい、そうしてください。あ、でもビデオ通話のお誘いはとても嬉しかったです。今後もお誘い待ってますよ?先輩?」
ニヤニヤといつも通り腹立つ顔をしてくる。よし、明日会ったら一発殴ろう。そう決意した俺と雨宮は夜遅くまでビデオ通話を続けたのだった。
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