第15話 意地悪7(ツーショット)
雨宮とRINEを交換して1週間ほど過ぎだ。夜のメッセージのやり取りは続いており、なかなか順調に俺の作戦は進んでいると言えるだろう。
だが俺はさらなる意地悪を思いついてしまった。確かにメッセージのやり取りだけで通信量は増えていくが、それ以上に簡単に通信量を増やす方法があるのだ。そのやり方とは写真や動画を送ることだ。それだけでかなりの通信量が増える。これを生かさない手はない。
くくく、雨宮が通信制限で狼狽える日は近い。さあ、今日も意地悪していくぞ!
そして待ちに待った昼休み。いつも通り雨宮が俺の教室に現れた。
「あ、先輩!」
教室の入り口から中を覗き、俺と目が合うとちょこちょこと手を振りながら小走りで寄ってくる。その小動物的可愛さだけで、男の本能をダイレクトに突いてくる。ぐらっと一瞬絆されそうになるがなんとか踏ん張る。
危ない危ない。あれはどう考えても狙ってやっているな。気をつけなければ。緩んだ気を引き締め直し、俺は今日の作戦を決行した。
まずは写真だ。この場で何か撮れば自然に写真を送り合う流れになるはず。何かないか?キョロキョロと周りを見回すがそんな都合のいい被写体なんてすぐに見つかるわけがない。
どうするべきか…。思考を巡らせ始めるとすぐに俺は閃いた。なんだ、こんな近くに被写体があるじゃないか。これに気付くなんてさすが俺、冴えているな。
くくく、しかもこれなら通信制限だけでなく、さらなる屈辱を雨宮に与えられる。完璧な作戦だ。
「そうだ、雨宮。ツーショット撮ろうぜ。」
俺が見つけた被写体はもちろん雨宮だ。そしてなぜツーショットにしたのかというと、ツーショットを撮るとき2人は必ず並ぶからだ。
2人が並べば自ずと、自分と相手の身長差を比べることになる。ここで雨宮は気付きこう思うだろう。え!?私、先輩よりこんなに小さかったなんて屈辱!
これなら俺に嫌気がさして離れていくはずだ。ふふふ、悔しそうにする雨宮が楽しみだ。
「へ?ツーショット?なんでですか?」
流石に『ツーショットを撮ろう』は急過ぎたか。雨宮は不思議そうにコテンと首を傾げている。作戦のためだ、なんて言えるわけがないので理由など適当にでっち上げておこう。
「いや、せっかくこうやってRINEするようになったわけだし、その記念にな。」
「なるほど〜。ふっふっふ、先輩は恥ずかしがり屋さんだからそうでも言わないと私を誘えなかったのですね?ちゃんと撮ってあげますから安心して下さい。私のスマホで撮りますね」
途中ムカつくセリフが聞こえてきたが無視だ。いちいちこいつの言葉など気にしてられない。
「ああ、いいぞ。」
ニヤニヤする雨宮など見たくもないので、早速スタスタと移動し、写真を撮るために雨宮の横に立つ。
「せ、先輩、ちょっと近くないですか?」
さっきの腹立たしいニヤケ顔は何処へやら。頰を赤らめ緊張に声をうわずらせながら、ちらっとこっちを見上げて尋ねてくる。
「そんなこと言われてもこれぐらい近づかないと写らないだろ。というかまだ俺の顔写ってないな。」
雨宮は155センチほど。それに対して俺は175センチほどなのでその背丈の差は明らかだ。
「先輩って結構身長大きかったんですね…」
くくく、意識しているな。今頃内心は穏やかではあるまい。
「そうだ、175センチくらいだから身長の小さいお前よりは結構大きいぞ」
くくく、ここでさらに雨宮を煽っていく。さあ、雨宮、心の中ではさぞかしお怒りだろう。
「そうだったんですね。やっぱり先輩は男の人なんだなーって思ってしまいました…」
そう言ってはにかみながら笑いかけてくる雨宮。くっ、怒りながらも笑うとは、さすが普段から猫を被っているだけあるな。
雨宮の揺るがない態度に感心しつつ、自撮りの距離では普通に立つと俺の顔は写らないようなので屈んで同じ高さに合わせてやる。雨宮の顔の横に自分の顔が来るように屈む。
「ちょ、ちょっと、先輩!?流石に近いです!顔が…!」
「うるさい、早く撮れよ。」
「ひゃ、ひゃあ!?」
離れようと暴れるので雨宮の話など聞かず、途中悲鳴が聞こえたが無視して強引に肩を掴んで押さえ込み、写真を撮らせる。
撮り終わるや否や、ぱっと雨宮は俺から離れ、すぐにスマホを見始める。ちらっとだけ見えたが、なぜか雨宮の顔は涙目で頰が朱色に染まっていた。
「どうだ、撮れたか?」
撮った写真を確認しているのか、じっとスマホを見ている。
「一応撮れましたけど、ダメです。先輩には渡しません!」
こちらを向くと、スマホを抱くようにして隠し、ブンブンと首を振って拒絶してくる。
「なんでだよ、顔が変だったのか?もう一回撮り直すか?」
「何回撮っても同じです。やっぱりツーショットはなしです!」
「はあ?ふざけんなよ」
それから何回言っても結局撮らせてくれることはなかった。くそ、まさか作戦が失敗するとは。それにしてもなんで急に撮らせてくれなくなったんだよ。不思議に思いながら、俺は次の作戦を考え始めた。そんな俺の後ろで雨宮は俯きながら小さく呟く。
「ごめんなさい、先輩…。でもツーショット撮ったら、先輩を意識しすぎて私の顔が真っ赤になってるのバレちゃいます…」
作戦が失敗し、次の作戦に思考を巡らせていた俺が、雨宮の零したその言葉に気付くことはなかった。
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