第14話 被害6(通信制限)
「先輩!今日こそはRINE交換して下さい!」
最近は毎日話しかけても無視されることなく相手されるようになりました。ほんの少しだけ先輩に近づけた気がします。
そういうわけで次に距離を詰める方法として考えたのがRINEです。
これでたわいもない会話をして少しでも仲良くなろうと思ったわけですが、やはり先輩のことですからガードが固く、なかなか交換してくれません。毎日RINE交換をお願いしている気がします。
「やだ」
そして今日もまた断られてしまいました。
「えー、いいじゃないですか!ちょっとピッとやるだけですから。ほらほら」
ですが私は諦めません。まだまだ積極的にお願いします。最近、だんだんと先輩の表情が分かるようになってきました。
いつもしかめっ面をしている先輩ですが、本当に不機嫌な時と、少しだけ優しい雰囲気が滲み出ている時の2パターンがあるのです。もちろんあからさまに変化しているわけではなく、普通の人なら気付かない程度の些細な変化です。
もしかしたら私の気のせいかもしれません。私が先輩に心を許され始めているという願望が作り出した虚像かもしれません。それでも、一縷の望みがあるなら私はその可能性を信じます。
そうして希望にすがりついていないと足元から崩れ落ちそうになってしまうんです。まだまだ話しかけ続けたい所ではありますが、流石にしつこすぎたのか、先輩の顔が本気で嫌がり始めたのでここら辺でやめておきましょう。
残念です……。今日も交換できませんでした……。
「はぁ、わかったよ、雨宮。RINE交換してやるよ」
「え!?交換してもらえるんですか!?やった!」
諦めようとしていたら、まさか交換してもらえることになりました!ものすごい嬉しいです!これで夜に先輩と話せるのです。もう、想像するだけで顔が勝手ににやけてきます。
嬉しすぎたあまり思わず声に出して喜んでしまいました。
「お、おう、そんなに喜ぶことか?」
「そりゃあ、家でも先輩と話せるんですよ?嫌でもテンションが上がります。先輩もこんな美少女とRINE出来るのですからもっと喜んでもいいんですよ?」
やっぱり私が喜んでいるのは先輩にも伝わってしまったみたいです。うう、恥ずかしい……。また恥ずかしくてからかう感じで言ってしまいました。ああ、もう!なんでもっと素直に言えないのでしょう。
「俺は早速RINEを交換したことを後悔し始めてる」
ほら、やっぱり先輩はめんどくさそうな顔をしました。でも少しだけ、ほんの少しだけ口調が優しかったのに気付き、私は心が安らぐのを感じました。
〈夜、自宅〉
家に帰ってきました。帰ってきたのはいいんですが、先輩からメッセージが来ないんです!あの先輩が承諾してくれたんですから、何かしら言いたいことがあると思ったんですが……。
スマホの画面を見ても何も変化はなく、かれこれ一時間は経っていました。
私から送っていいんでしょうか?夜までこっちからいくのは流石に先輩は嫌がりそうです。でも、せっかく交換したのに話せないのは嫌です……。
分かりました、できるだけ私がメッセージをしたがってはいない風に見せましょう。それなら、先輩も気にしないはずです。こうして私は緊張しながらもメッセージを書き始めたのです。
『先輩のことですから、メッセージ送るの忘れてるでしょう。なので、私から送ってあげます。感謝して下さいね!』
こ、これでいいでしょうか…。あれから1時間ぐらい書いては直しを繰り返しました。どう頑張っても私の本音が漏れてしまっている気がして納得いかず、何度も書き直しました。
よし、送りましょう!緊張で心臓がドキドキしながら送りました。あれから1時間くらい経ちましたが、既読になったきり何も返ってきません。
やっぱり、私からメッセージを送ったのが悪かったんでしょうか?それともただ忙しくて後回しにしているだけなんでしょうか?ああ、もう!何回考えても全然分かりません!
もうメッセージは送ってしまったんです。どうせもう、先輩には私が話したがっているのは伝わっています。素直になってあと一回だけお願いしましょう。それで返ってこなかったら諦めます……。
『あの…感謝はいらないので返事下さい…』
返ってきますように!想いを乗せて私はメッセージを送信しました。
返ってくるでしょうか……。返ってきてほしいです。せっかく交換したのに夜話せないのはなんというか寂しいです……。
はぁ、と小さくため息を吐きながら待ちます。待っていた時間はほんの数分だったと思います。
ですが私にはその時間は悠久にも思えるほど長く感じられました。その間、私の心臓が落ち着くことはなく、普段以上にうるさく鳴り響いていました。
ピロン、スマホから音がしました。わ!?せ、先輩からでしょうか……。おそるおそる画面を見ます。
『悪い、勉強していた。』
わあ!!先輩から返信が返ってきました!もう嬉しすぎます!さっきまでの不安など一切消え去り、私の心は甘美な幸せで満たされました。それから私は夜の間、至福の時間を過ごしたのです。
次の日、昼休み私はいつも通り先輩の教室に向かいました。ああ、昨日は幸せでした。あんなに沢山先輩と話したの初めてです。もう最高の1日でした。
あのあと寝付けなくて苦労しました。お陰で今日は寝不足です。ですがそんな寝不足を打ち消すほど嬉しくて、今も顔を律しておかないと、昨日のことを思い出してにやけてしまいそうです。
あ、先輩がいました!
「せ〜んぱい!昨日はありがとうございました!」
「いいって。俺も楽しかったしな。今日も夜話そうぜ」
「え、今日もいいんですか!?ぜひしましょう!」
まさか、今日も出来るなんて!これは今日も寝不足になってしまいそうです。ふふふ、それでも先輩と話せるなら構いません!
これまで知らなかった先輩の色々な話を聞けて私は幸せです。これからも色々先輩の話は聞きたいです!しかも私だけが勝手に楽しんでいると思っていましたが、先輩も楽しんでくれていたなんて!
本当に良かったです。聞けて安心しました。昨日返信が返ってきていないのに、2回目も送ってしまったので嫌がられてないか心配でした……。
私だけでなく先輩も一緒に2人で楽しめることがこんなに嬉しいことだなんて、まったく知りませんでした……。今日の夜が楽しみで今から待ち切れません!
「ああ、それにしても今日はやたらとテンション高いな。何かあったのか?」
「え、そんなに私のテンション高いですか?」
「ああ、なんかにやけてるし。」
「え、うそ!?」
まさか先輩の前でにやけていたなんて!それは恥ずかしすぎます。慌てて私は自分の頰をグニグニとして元に戻します。
うう……、先輩に見られてしまいました。引かれてないようで良かったですが、これから気をつけないと。
「えへへ、実は昨日の夜ちょっといいことがありまして…」
流石に先輩に面と向かって、昨日のやり取りを思い出してにやけてたなんて言うのは、恥ずかしすぎます。ここは誤魔化しておきましょう。
「そうだったのか。よかったな。じゃあ今日の夜も頼むよ。」
「はい!」
こうして、今日の夜も話せる幸せを噛み締めながら昼休みを先輩と過ごしたんです。
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