第13話 意地悪6(通信制限)

「先輩!今日こそはRINE交換して下さい!」


 いつもの昼休み。せっかく寝ていた俺を起こしてくるのはお馴染みの雨宮だ。前からずっと俺とのRINE交換をお願いしてきてうるさい。


 RINE、それは若者のほとんどが使っていると言われるメッセージアプリの名前だ。最近では、このアプリを用いて連絡取ったり、コミュニケーションを取ったりするようになっている。だが、俺にとっては面倒でしかない。よって「やだ」

と断るだけだ。


「えー、いいじゃないですか!ちょっとピッとやるだけですから。ほらほら」


 そう言ってこっちににじり寄ってくる。あー、もううるさい!何度も繰り返されたやり取りに嫌気がさしてきた頃、ふと、意地悪が思いつく。


 くくく、またしても意地悪を思いついてしまった。これなら、この押し問答も解決するし、雨宮を困らせることもできる。まさに一石二鳥の完璧な作戦。早速実行だ!


「はぁ、わかったよ、雨宮。RINE交換してやるよ」


 これからの作戦に、にやけそうになるのを抑え、目的を悟られないように、いかにも仕方のない感じで誘いを受ける。


 くくく、ここまで完璧な演技、見破れまい。


「え!?交換してもらえるんですか!?やった!」


 目がパッと輝き、喜びに溢れた表情で声を上げる雨宮。その姿は普段の快活さと相まって、眩しいほどの魅力を出していた。


「お、おう、そんなに喜ぶことか?」


 俺の悪巧みなど一切気付かず、あまりにも無邪気に喜ぶので思わず聞いてしまう。


「そりゃあ、家でも先輩と話せるんですよ?嫌でもテンションが上がります。先輩もこんな美少女とRINE出来るのですからもっと喜んでもいいんですよ?」


 うぜえ、そのニヤニヤとからかってくる顔が一番腹立つ。


「俺は早速RINEを交換したことを後悔し始めてる」


 そんなことを言いながら、雨宮とのRINE交換を終えたのだった。


〈夜、自宅〉


 寝る前に明日予習をしておこうと勉強していると、ピロンと、スマホから音が鳴った。ん?なんだ?

 聞きなれない音に疑問を持ちながら画面を開くと、そこには雨宮からのメッセージが届いていた。


 あ、完全に交換したの忘れてた。なんのために交換したんだか。危ねえ、作戦を無駄にするところだったぜ。どれどれ、どんなメッセージだ?

  

『先輩のことですから、メッセージ送るの忘れてるでしょう。なので、私から送ってあげます。感謝して下さいね!』


 既読にしてそっとスマホを閉じた。今返信するとなお一層うざいメッセージが返ってくることが目に見えている。


 よし勉強するか。俺は雨宮のメッセージを放置してもう一度勉強に取り掛かった。1時間ぐらい経っただろうか。予習が終わったころ、ピロンとまたしても通知音が聞こえてきた。


『あの…感謝はいらないので返事下さい…』


 画面を見てみるとそうメッセージが入っていた。仕方ない、作戦のためにも返してやるか。やれやれと思いながら、その後、寝るまで雨宮とのやり取りを続けたのだった。


 次の日、昼休みいつも通り雨宮はやってきた。ピョコピョコと少しスキップしながら、いつも以上に明るい笑顔で話しかけてくる。


「せ〜んぱい!昨日はありがとうございました!」


「いいって。俺も楽しかったしな。今日も夜話そうぜ」


 俺の作戦は毎日続けないと意味ないからな。


「え、今日もいいんですか!?ぜひしましょう!」


「ああ、それにしても今日はやたらとテンション高いな。何かあったのか?」


 普段から明るい雨宮だが、今日のこいつはいつも以上だ。随分機嫌がいい。


「え、そんなに私のテンション高いですか?」


 どうやら自覚はなかったらしい。


「ああ、なんかにやけてるし。」


「え、うそ!?」


 慌てて頰を抑え、グニグニと解きほぐす。そして、照れ笑いを浮かべながら、


「えへへ、実は昨日の夜ちょっといいことがありまして…」


「そうだったのか。よかったな。じゃあ今日の夜も頼むよ。」


「はい!」


 そう言って、たわいもない会話をしながら昼休みを終えた。


 くくくっ。午後の授業中、俺は心の中で笑いが止まらなかった。もちろん作戦が順調に進んでいるからである。

 まず、RINE交換をする。そしてRINEでメッセージのやり取りを続ける。俺の作戦はこれだけだ。なぜこれが意地悪になるのかというと、スマホには通信量というものがある。

 これはスマホの様々なアプリを使うと増えるのだ。つまりRINEのやり取りでも増えていく。そしてある一定の量を超えると通信制限がかかり、スマホでネットに繋ぐのに不自由になるのだ。


 要するに、俺が雨宮とRINEをすればするほど通信量は増えていき、あいつはどんどんスマホでネットに繋ぐのに不自由になっていくのだ。


 くくく、この先通信制限がかかって狼狽えるのが目に浮かぶぜ。今からその姿を見るのが楽しみだ。未来のことを考え、にやけ顔を抑えながら俺は授業を受け続けた。

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