第11話 意地悪5(相合傘)
放課後、学校から帰ろうと外に出ると雨が降っていた。朝は降っていなかったので、傘を持ってくるのを忘れたのだろう、何人かは入り口付近で立ち尽くしていた。
そんな人達の中で見知った雨宮の姿を発見した。話しかけるべきか?いや、無視すべきか?
無視すれば、家に帰って柔らかいベットでの素晴らしい睡眠が待っている。
もし、雨宮に話しかけたならば、少なくとも夕方の睡眠時間は減ってしまう。だがここで嫌われることに成功すれば、この先莫大な睡眠時間が手に入る。
どうするべきか…。うん、そうだな。損得勘定の結果、俺は話しかけることにした。だが問題はどんな意地悪をするかだ。
ここで思い出した。俺が持っているのは折りたたみ傘で普通の傘より小さいことに。くくく、最高の意地悪を思いついてしまった。さあ、いくぞ!
「おい、雨宮。傘ないのか?」
「せ、先輩!?昼休みぶりですね。そうなんです、実は傘を忘れてしまったみたいで…。あ、もしかして、可愛い私と相合傘したくて話しかけに来たんですか?」
雨宮はニヤニヤと笑みを浮かべてからかってくる。相変わらずうざい、デコピンしてやろうか?ん?
「ああ、そのつもりだったんだが、お前のそのニヤケ顔がムカつくからやっぱりやめるわ」
「え?え!?、本当にそうだったんですか!?」
「だからそのつもりだったって言ってるだろ。なぜそんなに驚く?」
「だって、まさか先輩から誘ってくるなんて思わなくて…。」
ニヘラと、さっきより気持ち悪いニヤケ顔を晒す雨宮。まったく、美少女が台無しである。
「まあ、雨宮が腹立つ顔でからかってくるからやっぱりやめるわ。1人で帰ってくれ」
すぐ人のことをからかってくるのがこいつの悪いところだ。流石にこれに付き合うのは面倒なので置いて帰るとしよう。別にわざわざ作戦にこだわる必要はないしな。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!からかったのは謝りますから、一緒に帰りましょ!いえ、ぜひ帰らせてください」
急いでかけてきて、俺が広げた傘に入ってくる。それならそれで作戦を決行するまでだ。そして俺は立てた作戦を実行していった。
★★★
雨宮の話しかけてくる声は一切なく、ポツポツポツと、傘を叩く水の音だけが俺の耳に届いていた。
くくく、上手くいったみたいだな。折りたたみ傘は小さい。つまり2人で入ると必ず体が傘からはみ出て雨に濡れてしまうのである。おそらく雨宮は誘われてこう思っただろう。これで濡れずに帰れると。
だが実際はどうだろうか。肩あたりから濡れるのだ。これは落胆するに違いない。普段黙ることなどない雨宮が今静かなのはきっとこのことにショックを受けているからだろう。
うなじまで赤く染まっているのが少し気にはなったが、作戦は成功したといっても過言ではないだろう。自分の成果に満足しながら歩いていると、ふと更なる意地悪を思いつく。
ははは、今日は調子がいいな。まさかもう一つ思いついてしまうとは。嫌われる日も近いに違いない。雨宮はもう十分に濡れたし次の作戦に移っても問題ないだろう。沈黙を破り、雨宮に話しかける。
「なぁ、雨宮」
「ひゃ、ひゃい!」
どういう返事だよ。噛みすぎだろ。
「肩濡れるだろ。もう少しこっちに寄れよ。」
「え、え!?だ、大丈夫です。これ以上は限界というか、緊張で心臓が…。」
大丈夫、までは聞き取れたが語尾がどんどん小さくなり聞き取れなくなってしまった。まあ、遠慮していることだけはわかった。だが俺の作戦のためにはこっちに寄って貰わないとな。
「いいから寄れって」
そう言って強引に雨宮の肩を抱いてこちらに近づけた。
「ひゃ、ひゃあ!?ちょっ、ちょっと!?」
驚いて小さく悲鳴を上げる雨宮。もう少し抵抗するかと思ったがすぐに大人しくなった。それにしてもこいつ体温高いな。触れてる側が熱い。
「せ、先輩、肩濡れてますよ?やっぱりさっきのようにしません?」
チラチラと俺の濡れてる肩に視線を送ってくる。
くくく、やはり作戦は上手く言っているようだな。自分だけ濡れずに俺を濡れさせてるなんて凄い罪悪感を受けているに違いない。
だがここで離れられては作戦が無駄になってしまう。ちゃんと家に帰るまで罪悪感を受けてもらわなければ。
「気にするな。お前が濡れるよりはましだ」
「…!?し、仕方ないですね。そこまで言うなら大人しくこのままいてあげることにします!」
なんでお前は上から目線なんだよ。雨宮は顔を俺から背けながらそう言うと、大人しく俺にくっついた状態で、俺と雨宮は一緒に帰ったのだった。
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