第10話 被害4(テスト勉強)
んー、この問題わかりにくいですね……。もうすぐテストがあるのでその対策のためテスト勉強をしていました。その最中に難しい問題に出会い、分からなくて悩み中です。
あ!これを放課後、先輩に話しかける理由にしましょう!普段と違うテスト勉強のような真面目な話題だったら、先輩もちゃんと話してくれるかも知れません。真面目な理由なら放課後でも少しは迷惑がらず話してくれるでしょうか?
どうしても放課後先輩と話したい私は、この話題を持って話しかけに行きました。
「先輩!また寝てるんですか?テスト前なのに余裕ですね」
先輩の教室に行くといつも通り寝ていたので声をかけます。私の言葉に反応し重そうに先輩はゆっくりと頭を持ち上げました。
その顔はいつもより少し幼く、目をシパシパとさせていました。ふふふ、寝起きの先輩は怖さが抑えられているので可愛いです!少し跳ねてる寝癖がまたその可愛さを上げています。
どうやら今日は本当に少し寝ていたようです。起こしてしまったみたいなので申し訳ないです。
「まあな、睡眠学習は得意だからな」
「それ絶対意味違いますからね?」
先輩は何を言っているのでしょうか?ドヤ顔で訳の分からないことを言うので思わずジト目で見てしまいました。見られた先輩はプイッと横に目をそらし話題を変え始めました。
「ま、まあ、それより珍しく放課後に来てどうした?いつもは昼休みだけだろ」
「実は勉強が苦手でして…。それで先輩に教わろうかと」
嘘です、ただ先輩と放課後も話したくて来てしまいました。
「ふーん」
「な、何ですか…?」
私を観察するように見てくる先輩。も、もしかして私の嘘がバレているのでしょうか?い、いえ何も不自然な態度はとっていないはずです!バレるわけがありません!
「お前頭いいだろ。嘘が下手すぎ」
「な、なんでわかったんですか!?」
そんな!怪しい動きはしていないはずなのに……。
「挙動が変だったし、顔に出すぎ。それに成績の上位の方に張り出されただろ」
「一生の不覚。先輩と一緒にイチャイチャしながら放課後を過ごす作戦が…」
まさか嘘がバレてしまうなんて……。
「誰もイチャイチャしねえよ。変な妄想に巻きこむな」
「それは残念です、誘うの失敗してしまいました。すみません、お邪魔しました!」
これ以上話しかけるのは先輩の迷惑になってしまうでしょう。せっかく昼休み話してくれるようになったんです。ここでしつこく話しかけてまた無視される日々に戻るのは嫌です。もっと話したいですが我慢しましょう…。
「待てよ、教えないとは言ってないだろ。ほらそこ座れ」
「え、いいですよ!冗談で誘っただけですし」
本当にいいのでしょうか?誘われたのは嬉しいですが……。どう考えても先輩、面倒だと思ってますよね?それは嫌です……。
「いいから座れって。勉強分からないところがあったのはほんとだろ?そこ教えてやるから」
「ま、まあそれは本当ですけど……。よく本当だってわかりましたね?」
「まあな、伊達に毎日話してないからな。嘘か本当かぐらいは分かるよ。いいから、早く席につけ」
なんでしょう、今のセリフに少しキュンとしました。私と先輩の距離感が近づいている感じがします。ふふふ、こんな小さいことでも嬉しいです!
「ほんとに教えてもらえるんですか?あ、ありがとうございます!」
失敗したと思ったのに、先輩のおかげで放課後まで話せるなんて、心踊ります!
「やった…、先輩と放課後まで一緒に過ごせるなんてラッキー…」
とろけるような幸福感で思わず本音が漏れてしまいました……。こうして私は先輩と放課後、一緒に過ごすことに成功したのです。
★★★
「それでどこが分からないんだ?」
「実は数学のこれが…」
「なるほどな、それはこの公式を使うんだ」
「その公式ってどんなのでしたっけ?」
「覚えてないのかよ。ほら、お前のペン貸せ」
「ちょっ、ちょっと先輩!?」
先輩がグイグイとこちらに近づいて来ます!大方書きにくくて寄ってるだけなんでしょうけど、私からしたら意識してしまいます。触れている部分にどうしても意識がいってしまいます。先輩と触れている部分が熱いです。
これだけ近いのですからうるさい心臓の音が聞こえていないか心配です。それになんというかいい匂いがします。本当に恥ずかしくて顔から火が出そうです……。たまらず声を上げてしまいました。
「なんだよ?」
私の呼びかけに怪訝そうな顔で見てきます。ですが私が先輩を意識しすぎて羞恥で体が火照っているなんて言えません。
「な、なんでもないです……」
私はそう言い残し、先輩に心が向かないよう黙々と勉強に集中し続けました。
★★★
ふぅ、頭を使いすぎて疲れました。あれ?先輩は?集中が途切れ頭を上げると先輩がおらず、空っぽの教室に1人私だけでした。
どこにいったんでしょうか?トイレでしょうか?すると扉がガラガラと音を立てて先輩が入ってきました。
「先輩!どこに行ってたんですか。気付いたらいなくなってて置いていかれたのかと思いましたよ」
「お前の中の俺はどれだけ外道野郎になってるんだよ。飲み物買いに行ってただけだ」
「なるほど、それでペットボトルを2本持っている…。2本?」
「ほら、勉強を頑張ってたご褒美だ。」
「え、ありがとうございます!」
わぁ!先輩からご褒美を貰ってしまいました!!嬉しすぎます!
前にも飲み物を奢ってもらいましたが今回は何もお願いしていないのに飲み物をくれました!しかもこれって……
「しかも抹茶オレじゃないですか!?」
「前に美味しいって言ってたからな。ダメだったか?」
心配そうに私の顔を覗いてくる先輩。
「い、いえ、ちゃんと私との会話覚えてくれたんだなーって。」
ダメなわけがないじゃないですか。先輩が選んできてくれたものなら何でも嬉しいです。しかも私と話した内容ちゃんと覚えてくれてたなんて……。
はぁ、そういうところが先輩のずるいところです。先輩分かっていますか?さりげなく優しくしてくるから諦めきれず、どんどん好きになってしまうんですよ?
あまりに嬉しすぎて思わず貰ったペットボトルを抱いてしまいました。
「……。まあな、あいにくと人と話すことが少ないからな」
自虐ネタを言ってきた先輩を気にすることなく、私は幸せを噛み締めます。どこまでもどこまでも。先輩を想うだけで幸せがひしめきあうようにして溢れて出てきます。
溢れ出た幸せは体中を優しく柔らかに、手足のはしばしまで溶けていくように流れていました。
そんな幸福感に満ちた私と先輩のあいだに沈黙が漂います。でもこの沈黙はいつもの無視から生まれる沈黙と違ってどこか暖かく、柔らかい空気を纏っているようでした。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。先輩」
このまま2人の沈黙を味わいたくはありましたが、いつまでもこうしているわけにはいかないので、先輩に声をかけます。
「そうだな。公式うまく使いこなせてたし、テストうまくいくといいな。ただ、さっき解いてた問題の3問目と5問目、計算の部分だけ間違ってるから解き直しておけよ」
「え、そうだったんですか!?わざわざ教えてくださってありがとうございます!」
最後まで優しい先輩。教えるのも上手でしたし、また教えて貰いたいです。
「どういたしまして。じゃあな」
「バイバイです、先輩」
はぁ、本当に幸せな時間でした……。先輩とくっついた時のあの温かい感じ、よかったです……。
私は今日あった出来事を何度も思い返しては、にやけながら家に帰ったのです。
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