第7話 意地悪3(靴箱交換)
朝登校すると背伸びをしている後輩の姿があった。珍しく髪を後ろで縛り、ポニーテールにしていた。普段下ろして髪に隠れている陶器のような白いうなじが見え、その色気に思わず唾を飲み込み、喉をゴクリと鳴らす。
これだから容姿が優れているのは困るのだ。どんな髪型でも似合うし、それぞれで雰囲気が変わり、さまざまな魅惑を辺りに振りまくのだから。男の本能に直接語りかけてくるような色気を必死に振り払う。
雨宮が何しているか気になるが、関わるのは面倒なので無視して行くとしよう。
「ちょっと先輩!私が困っているのになんで無視するんですか!?」
気付かれないように後ろを通ろうとすると、唐突に話しかけられる。ちくしょう、やはり気付いていたか。
「いや、関わると面倒だし。それに眠いから早く教室に行って寝たい」
「そんなの後でも出来るじゃないですか!こうやって美少女の私と話せるなんてなかなか出来ないんですよ?普通は話しかけてくるじゃないですか!?」
「お前、毎日俺の教室に来て話しかけてくるだろ。有り難みも何もないわ」
「…っ!?いいんです!ほら、困ってるんだから聞いてください!」
こいつ誤魔化しやがった。はぁ、仕方ない。解放してくれなさそうだし、やってやるか。
「わかったよ。雨宮、何してるんだ?」
「おはようございます、先輩!靴箱が上の方にあるから入れにくくて。まあ、背伸びをすればなんとか届くので問題はないのですけど」
「問題ないのかよ!じゃあ別に困ってないだろうが」
なんだよ、この茶番劇。話しかけた意味全くないじゃん。
「まあまあ、先輩に話しかけてもらえて嬉しかったし、これからも話しかけて欲しいです」
ちょっともじもじしながら猫撫で声でお願いしてくる。あざといわ。
「必要に迫られなければ絶対話しかけねえよ。悪いな」
そう言い返しながら、腰を下ろし、靴箱一番下の自分のところに靴を入れる。はぁ、毎日靴を入れるのに屈むのは辛いな。腰が痛くなるし。
「じゃあな、雨宮。教室に話しかけに来るなよ」
「残念ながら今日も可愛い美少女が先輩を起こしに行ってあげますからね。バイバイです、先輩」
ほんと手を振るだけで可愛いとかずるいな。そんなことを思いながら雨宮と別れた。
〈放課後〉
「お、」「あ!」
靴箱前で雨宮と偶然は鉢合わせする。
「…」
目が合ったが気にせず無視しよう。急いで帰ろうとするが袖を掴まれる。
「ちょっと、先輩!全然朝から成長してないじゃないですか!話しかけてくださいって頼みましたよね!?」
「必要に迫られなければ話しかけないと言っただろ」
「もう!先輩はツンデレだから困ったものですね〜」
「ツンデレどころかツンツンしかねえよ。デレとか期待すんな。本当はツンすらしたくないから関わるなよ」
「残念ながらそれは約束できませんね。先輩と話すの楽しいですし」
そう言いながら雨宮は背伸びして靴を取り出そうとする。雨宮のセリフの一つ一つ、絶対狙ってるに違いない。俺は騙されんぞ。
そうだ、意地悪を思いついた。これでまた嫌われるのに一歩近づくな、くくっ。いい考えが思いつきにやけそうになるのを抑えながら雨宮に話しかける。
「おい、雨宮、お前の身長じゃその位置の靴箱から靴を取り出すの大変だろ。俺の靴箱と交換してやるよ。そしたら取り出しやすいだろ?」
「…!?あ、ありがとうございます」
噛みながらお礼を言う雨宮が少し気になったが無事交換が終わる。くくく、明日になって気づくがいい。一番下の靴箱から靴を取り出すのかどれだけ大変かを。そして腰を痛めるがいいさ。
「せ、先輩!」
「な、なんだよ?」
もしかして俺の作戦がバレたのか!?雨宮と目が合い、じっと見つめ合う。時間にしたら2、3秒程度だろうがなぜが長く感じられた。
「……本当に先輩は優しい人ですね」
どうやら俺の作戦はバレなかったようだ。ホッと息を吐く。ただ、目を潤ませ、顔に赤みがかかり、少し声を震わせながら告げられたそのセリフはいつまでも俺の耳に残り続けた。
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