第6話 被害2(間接キス)
初めて先輩から話しかけて貰えた日から、昼休み話しかけると反応が返ってくるようになりました!もう毎日が幸せです!あんなに無視されていたのが嘘のようです!
一体先輩の心境にどんな変化があったんでしょうか?もしかしたら私に絆されたんじゃないかと思うかもしれません。もしそうだったらどれほど嬉しいことでしょうか。
ですがそれはありえません。変わらず私を見る目は苦手な人を見る目のままです。そんな目で見られると非常に胸が苦しくなりますが、それは自分が選んだ道。
今日も傷ついた心を見ないふりをして話しかけに行くのです。
今日はどんな風に話しかけにいきましょうか……。やはり後輩らしいアピールでいきましょう。いつものように寝ている先輩のもとへ行き、その正面に立ちます。
「先輩〜、飲み物奢ってください!お願いします」
腰を屈めて顔の前で手を合わせ、上目遣いで先輩の方を見ます。
自分がどのようにすれば可愛く相手に映るのか。雑誌やネットを見て練習しました。こういう技があるのは知っていましたが、まさか私がやることになるとは……。
少し恥ずかしいですが我慢しましょう。私の羞恥と引き換えに少しでも先輩にドキッとしてもらえるならいくらでもやります。私にやれることなんてこれくらいしかないのですから。
「雨宮、俺がお前に奢ると思うか?」
体を起こして開口一番にそう口にする先輩。ああ、その冷たく理性的な目で見られるだけ胸が高鳴ります!
「いいえ〜?全く思いませんね。むしろ私に奢れとか言いそうです」
「流石にそこまで酷い性格はしてねえよ」
「冗談です。飲み物奢って欲しいと思ったら、クラスの男子にお願いすれば一発なので、別に先輩にそこは期待してませんよ〜。先輩に反応してもらいたくて話しかけてるだけなんですからね」
まさか先輩と冗談を言い合える日が来るなんて……。はぁ、ほんとうに幸せだなー。じんわりとした暖かい思いが胸を包みます。
「お前の可愛さならそれが出来そうだから、俺は怖いよ」
へ?え!?今先輩私のこと可愛いって言いました!?言いましたよね!?
なんで急に言うんですか!?不意打ちはずるいです!ああ、また胸が高鳴ってしまいました。絶対私、今顔が赤いです…。どうしましょう、先輩に見られてしまいました。私の気持ちが気付かれていないか心配です…。
「…!?もう!流石にそんなことしませんからね?冗談ですからね?」
「わかってるよ。お前がそんなやつじゃないってことは。もう何回話したと思ってるんだよ」
「ふふふ、私の作戦は順調なようですね。強制トークで親密度は上がってるようで嬉しいです!」
親密度なんて最初から全く変わってないの自覚してます。むしろ、悪化し続けているでしょう。これはただの先輩の気まぐれ。期待してはダメです。結局辛くなるのは私なのですから…。
「そんなのは気のせいだ。まあ、今、俺の気分は上がっているから、飲み物奢ってやるよ」
「え!?いいですよ!本当に冗談ですから!」
まさか、本気にされたのでしょうか!?それは嫌です。自分から奢られにいく嫌な後輩になってしまいます。せっかく話せるようになったのに…。また、無視されるのは嫌です。
「いいから大人しく奢られとけって。この俺が奢ることなんて滅多にないんだから」
そこまで言うならいいのですが……。
「友達いないボッチな先輩ですもんね。当然といえば当然ですね!」
「うるせえよ」
ふふふ、文句の語調が優しいです。
「ほら、どれにするんだ?」
「奢り、ありがとうございます!えっと…。じゃあこれがいいです」
自販機の場所に到着しました。本当に奢ってくれるようです。奢ってくれるのは嬉しいのですが、本当にいいのでしょうか……?
「そんな顔すんな。お前は笑ってる方が断然いいよ。笑顔で感謝しとけ。これだな」
え?えー!?あの先輩が褒めてきました!ほんとに急に褒めてくるのはやめてほしいです。心臓に悪いですから。今もバクバクと心臓の音がうるさいです。ああ、また顔に熱が…。
「ほらよ。ん?何でそんなに赤くなってるんだよ」
え!?気付かれてしまいました!どうしましょう、どうしましょう!
「へ!?いや、ここ少し暑いからですよ…。ありがとうございます!」
焦って誤魔化し方が変になってしまいました。もう嬉しすぎて頭が回りません。先ほどの先輩の気まぐれの言葉を忘れるため、貰った抹茶オレを飲みます。
「はぁ、すごい美味しいですよ、これ!」
「そうなのか?どれ、飲ませてみろ」
「ちょっ!?え!?それ、かんせつき……」
もう頭の中はパニックです。もう何がどうなっているのやら。先輩は気にしないのでしょうが私は気にしてしまいます。好きな人との間接キスですよ?意識しない方が無理です。
「うん、うまいなこれ」
あ、先輩が口をつけた抹茶オレを返してもらいました。もらった抹茶オレを前に固まってしまいます。
「じゃあな。有り難く奢りの抹茶オレを味わうことだな」
そう言い残して先輩は教室に帰って行きました。この抹茶オレはどうしたらいいのでしょうか!?飲んでいいのでしょうか?でもそんなことしたら先輩と間接キスに……。
いいえ、意識しなければいいのです。これはただの飲み物。さあ、飲みましょう!
………無理です無理です!絶対意識してしまいます。もう知らない!先輩が勝手に口つけたんですから私がどうしようと勝手ですよね!
私は葛藤と戦いつつ顔を赤くしながら間接キスをしてしまったのです…。
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