第2話 私の日常
初めまして、私は雨宮えりです。某高校に通う一年生です。
私は今、ある人に会いに向かっています。
あ、いましたいました。教室の一番後ろで寝ているのは私の大好きな先輩、神崎裕也さんです。
でも、私は知っています。大抵の場合眠いと言いながらも先輩は寝たふりをしていることを。
その証拠に
「せ〜んぱい、お話ししましょう!」
こうやって話しかけてあげるとほら、こっちをちらっと見ました。
ああ、何回見ても鋭い視線がカッコいいです!……まあ、すぐ無視してこっちを見なくなってしまうのですが。
今回も拒絶の言葉がなかっただけ良かったということにしましょう。
最初話しかけた時、この対応をされてとてもショックを受けたこと未だに覚えています。
これでも私の容姿は人並み以上に優れています。高校生ぐらいになれば嫌が応にも自覚するものです。周りの男子からも何人も告白を受けました。
そんな私は少なくとも拒絶を受けたことがありませんでした。それが大好きな人に無視されたのです。落ち込まずにはいられません。ひどく落胆し嘆息したものです。
深く傷ついた私はこの恋が気のせいだと思い込もうとしました。
当然です。そうすれば傷つくことはないのですから。誰でも拒絶されることは怖いのです。傷つき痛みが走るのが辛くないはずがありません。
気のせいだと思い込み、逃げるのも1つの手だったでしょう。
ですが私はそれを選ぶことが出来ませんでした。どんなに気のせいだと思い込もうとしても、どんなに自分を納得させようとしも、頭では理解しているのに、心が拒絶するのです。
ーーーー私、雨宮えりは先輩が好きだと。
そう決まってしまったら取れる選択肢は1つだけです。先輩に近づいてアピールするしかありません。
先輩にとって迷惑なことは分かっています。先輩は人を避けているのは明確です。それでもしつこく話しかけたなら嫌われるのはもっともです。
それでも、それでも!
私は話しかけることしか出来ないんです。それ以外の選択など初めからないんだから。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに泣きたくなっても、どんなに傷つこうとも私は話しかけ続けるしかないんです。
先輩が拒絶を口にするその日まで。
拒絶されたらどうするか。そんなことは怖くて考えたくもないです。
諦める選択肢は初めからなく、かと言って拒絶の言葉を口にしたということは我慢の限界ということでしょう。それ以上話しかけることは出来ません。
だから、私は話しかけられる今でさえ、ありがたさを噛み締めています。いつか話しかけることさえ出来なくてしまうんですから。
上手くいかないと分かっていても私は今日も話しかけるしかないんです。
「先輩〜、なんで寝ているんですか?私と話しましょうよ〜!」
私の声に反応し、チラッと視線を送ってきました。
今日もまた無視でしょうか…。
「なあ、雨宮」
え?え!?え!!!先輩が答えてくれました!嘘みたいです!答えてもらっただけで嬉しいです!
しかも苗字までおぼえてくれています!あの、人を毛嫌いする先輩が覚えてくれるなんて!
「お!とうとう私の苗字覚えてくれたんですね!!だんだん私に興味持ち始めちゃいましたか〜?まあ、私みたいな美少女に話しかけられてたら、男なら誰でも気になり始めちゃうものですものね」
嘘です。先輩が迷惑に思っているのは知っています。
でもこのぐらい強がらなきゃ先輩と話せません。自分の言葉で嫌われていることを認めてしまったら今すぐ心が折れてしまいます。
「勝手に変な理由つけて納得するな。俺とお前、別にこれまで何も関わりなかっただろ?なんでそんな急に話しかけてくるようになったんだよ?」
まさか、返事が返ってくるなんて!今、私先輩と会話しているんですね。
ああ、もっと話したいです。
「え〜、いきなりそこ聞いちゃいます?普通はそういうのは後々になって昔会っていた幼馴染だったとか、あるいは転校してしまった初恋の人だったとかがわかるパターンじゃないですか〜」
どれも違います。先輩が私のことを助けてくれたからここにいるんです。先輩が好きだから話しかけているんです。
でもそんなことは口が裂けても言えません。それを言った瞬間、拒絶されるのは明確ですから。
「じゃあ、お前と俺にそんな間柄があったのか?」
「え?全くないですよ?」
当然です。助けてくれたことなんて先輩は覚えていないでしょうけど。
「もういいや、それより俺は学校では寝てたいんだよ。」
知ってます。人と距離を置くためですよね?でも、それを聞いて話すのをやめるわけにはいきません。私は話しかけることしか出来ないのですから。
「も〜!!寝てばかりで友達がいないボッチな先輩にこんな可愛い後輩が話しかけているんですから相手してくださいよ〜!」
「そんなことは知らない。とっとと帰れ」
残念、突っ伏してしまいました。
無視ではなく私の言葉にちゃんと反応してくれる。それだけでこんなに嬉しいなんて。本当に私って単純ですね。
もう一回話したいです、そう思いながら私は何度も話しかけ続けるのでした。
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