高校生活の三年間。片想いだったり、すれ違ったり、やがては両想いなことに気付いて距離を縮めたり‥‥‥若いカップルの恋愛話は「そこら中」に転がっているものだが、学校行事の使い方と人物像の独特な出し方で、他の作品とは一線を画していた読み応えのある極上の小説。
主役のカップルの思惑と言動に注目していただきたい。また、彼らを取り巻くキャストの個性と絶妙な距離感にも注目していただきたい。基本的には、作中に出てくる主役たちの思うところや主張を、読み手なりの解釈で「あぁ、なるほど」と感じて感銘を受けたり学べるところを吸収するものだが、クラスメイトや二人の家族など、周りを固める脇役陣の行動や発言にも心を奪われる場面が非常に多かった。特に愛宕が気に入っているのは、主人公のアルバイト先で登場する副店長。彼の発言は、人生に迷いが生じた主人公に的確なアドバイスを与えてくれる。その与え方がユニークで、読み手の心を大いに刺激してくれた。
七輪の中で赤い火をチラつかせる炭のように、静かな時を刻んでいる事もあれば、時々火の粉を吹いて読み手を驚かせてくれたりもする作品。高校生活の三年では、ハッピーエンドという結末を見出すのは難しい。作中の彼らだけではなく、読み手も一緒になってハッピーエンドを見つけていきたい。そう期待して、これからもページめくれるよう作者さまの綴る「続き」を楽しみにしている☆