失理充者【短編ver.】
山田響斗(7月から再開予定)
A
Code:1
それは53年前に見つかった特殊体質者。
それを俗にリア充と呼ぶ。
──お父さん……。
幼気が残る子供の声が、頭の中で響く。
これは、小さな頃の僕の声……。
頭に浮かぶのは、広めの子供部屋で壁を這う男に拳銃を向ける父の姿。
「早く……、早く逃げろ!」
嫌だよ、お父さん……。
一緒に行こう……。
「出動司令だ、さっさと起きろ!」
「ふぁ、ふぁい!?」
支部長の怒号に憂鬱な目を擦りながら、状況をなんとなく飲み込んだ。
確かに、不定期出動は"
「しっかし、声でかいな。ハゲオヤジ……。」
「なんか言ったか?」
あ、詰んだ……。
──第1話 充者──
「おい、
会議中だと言うのに、声高に僕の名前を呼ぶ支部長。
さっきは危うく殺されるところだったけど、聞こえてなかったみたいだ。
ちゃんとした制服に着替えて来たものの、正装の人はまばらで
「あぁ、はい。」
何とも腑抜けた返事を返しつつ、椅子に上着を掛けて席に座った。
周りには、市長や地方議員が顔を
「
朝4時から出動させられた事に対する怒りはないことは無いが、何故か心は穏やかだった。
何せ、
はぁ、今日も茶髪ロングの可愛いさが栄えるな。
そんな
「蒼愛…、蒼愛、行くぞ?」
「は、はいっ!」
支部長の呼び掛けで我に返る。
結局、煩悩を消せないまま……。
そのせいで、なんの情報も聞かずに形だけの会議を終わってしまった。
「大丈夫か?シャキッとしないと……、死んでも知らないぞ。」
廊下を歩きながら優しい口調で注意を受ける。
大体、"朝4時からシャキッとしろ"なんて、なかなか鬼畜な発言な気もする。
長い廊下を歩きながら、まだ寒さの残る3月の朝を過ごす。
「縁起でも無いこと言わないで下さいよ。心配しないでも大丈夫です。」
心配してくれているのは分かってはいるけど、改めて言われると少し子供扱いされていると感じてしまう。
「そりゃ、心配もするさ。だって…」
「
男だからなんだという前時代的な発想はあまり好きじゃないけど、納得してくれるならいいと思えた。
「あと、帰ったら覚えとけよ?」
「え?何で……。」
何かしたかな?
「朝からハゲいじりした罰だ。」
あ、詰んだ……。
聞こえてたんかい……。
──与野江区 五番街 廃ビル前
過去にオフィスビルだったらしい廃ビルは、骨組みを残してそこに建っていた。
「総員、
支部長の指示に従って、ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、各隊員が装備を再度確認する。
ちなみに僕は雛さんと同じ第5班に配属されている。
「各自、生還第一で
支部長は命を無駄にすることを嫌っていて、優しさが滲み出ている感じが分かる。
「5班も行くぞ。」
班長である
廃ビルに入って何分経っただろう。
班ごとに固まって行動している内に時間が刻々と過ぎていった。
「居ませんね……。」
コツコツと靴の音が響く中で、徐々にこの状況に嫌気が差してきた。
もっと、トラブルが沢山待ってると思っていたのに……。
「そうだな……1度、個々で別れよう。報告は
右肩に付いた無線機に目を向けながら班長は言う。
「了解」
言うより先に歩を進めていた。
特殊な能力を使う充者との戦いは1人では勝ち目が薄い。
もちろん、居たらすぐに連絡するつもりだ。
「はぁ、ここにも居ないか……。」
3つ目の部屋のドアを開けて呟いた。
それが聞こえたのは油断していた時だった。
「うがぁっ!助……!」
廊下に出たところでそんな声が聞こえた。
考える前に反射的に、声が聞こえた部屋に駆けて行ってドアを開けた。
だが、そこで起こっていた事実に、思わず鼓動が早まった。
「なんだよこれ……。」
その部屋には、天井に吊るされた縄で首を吊った
しかも、全て左腕が切断されている……。
『班長……班長!』
つい、無線に声を荒らげてしまう。
『
『それが、東の部屋に死体が……』
血の滴る死体を見て冷静になって無線を切った。
見たところ窓は割れて無い。
それに、覚えている限り部屋の扉は開いていなかったはず……。
だったら敵はまだこの部屋に居る?
まだ確認していないとしたら天井…。
落ち着くために、できる限り大きく息を吐き、拳銃を握りしめて天井を見た。
否、間近に迫った男の顔を見た。
「うぁっ!?」
あまりの驚きに声を上げて床に座り込んでしまった。
「やぁ〜っと気付いてくれた。」
男は気持ちの悪い笑みを浮かべながら天井を這うように移動し、また口を開く。
「なんだ、挨拶もなしか?」
こいつは……。
──「早く……、早く逃げろ!」
父の言葉があの時の記憶が鮮明に蘇る。
「どうしたぁ?怖い顔して。」
恐怖で落とした腰を上げて、立ち上がった。
数秒間目を瞑り、歯を食いしばって男に問いかける。
「
男は目を細めて答える。
「ん〜、懐かしい名前だなぁ。俺の大嫌いな男の名前じゃあないか。」
男はケタケタ笑って
「そうかお前、あいつの子供か…。」
「……。」
──嫌だよ、父さん……。
一緒に行こう……。
あの日見つかったのは左腕の無い父さんだった。
「僕が……。」
無気力に拳銃を持ったままの手を見て、自分でも声が震えていることが分かった。
「なんだぁ、聞こえない……なっ!」
男は天井から、カエルのように異常に長い舌を伸ばして蒼愛の首に巻き付け、吊るしあげた。
「ぼ……くが……。」
「だからぁ、聞こえないって〜。」
蒼愛は力を振り絞って携帯ナイフを男の肩に突き刺した。
「うがぁっ!」
男は痛みで反射的に蒼愛を掴んだ舌を緩め、地面に落下した。
そして蒼愛は、肩を押さえながら藻掻く男に向かって拳銃を向けて言う。
「僕がお前を殺す!」
失理充者【短編ver.】 山田響斗(7月から再開予定) @yamadanarito
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